「ちょっと屈んで?」からのキス逃げしてみた(錦山彰)





屈んでくれない?って頼んだら、即屈んでくれる。理由を聞くより前に体が動いている彼。彼女のお願いは極力なんでも聞いてあげたい気持ちが行動に出てる。こちらはといえば彼がこんなにもすんなりと屈んでくれるとは思わず、動揺してしまって。キス逃げしようと決めたはいいものの、いざするとなると、羞恥に苛まれる。固まってしまったこちらに対して彼は不思議そうにしながらも、

「どーしたよ、体調でも悪ぃのか?」

心配するように覗き込んできてくれる。意図も分からない要望に迷いもせず応えてくれた彼に、不安げにこちらを伺う彼に、じわじわと愛おしさが込み上げてきて。先ほどまで抱いていた羞恥はどこへやら、思いのまま、目の前の彼に唇を重ねる。一秒にも満たないくらいの、一瞬の出来事。それでも彼にとって何が起こったか理解するには十分だったようで。

「な、…!」

こちらから一歩引いた彼の顔は、わずかに紅を差している。
それに伝染するように自身の頬も熱をもっていくのを感じながら、あとは逃げるだけだと脳に司令を出し、彼に踵を返そうとする。…が、そうはいかず。

「ば、馬鹿! なに逃げようとしてんだ…!」

がっちりと手首を掴まれ、彼に進行を止められる。振り返る勇気はなく、ただ彼の掌から伝わるあつい熱を感じて。そうしてしばらく経つと、ふと手首の熱が離れたかと思えば、今度は全身が温もりに包まれて。

「……たく、可愛すぎんだろ」

耳元で呟かれたその言葉に、ついに体内まで熱に犯されてしまう。「もう一回、してくれよ」そんな彼の要望に答えれば、何倍ものキスの反撃が返ってきてしまった。




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