「ちょっと屈んで?」からのキス逃げしてみた(秋山駿)





「え、なになに? 俺の顔、近くで見たくなっちゃったの?」

伝えるやいなや、 にやにやとからかうような表情で屈んでくれる彼。それを見ていたら、先程まで抱いていたはずの羞恥心は、どこかに飛んでいって。余裕そうなその顔を崩したい衝動に駆られ、ちゅ、と唇を重ねる。そして見事目を見開き驚いた表情を見せた彼に満足すると、厄介なことになる前に計画通り彼から逃げ出す。

でも彼のことだし、追いかけてきそうだな、なんて思ってみたりもするけれど、予想とは裏腹に、いつまで経っても背後から誰かが来る気配はなく。少し意外に思い、振り返ってみると。

「…………、」

そこには、未だ屈んだ体勢のまま、固まってる彼がいて。その様子が気になり、彼に近づいていくと、徐々に彼の表情がはっきりと見えてくる。「…あの、秋山さん。なんかすごい耳赤くないですか…?」 見たままを伝えれば、

「……君さ。わかってて聞いてるの?」

怒っているようでいて、どこか悔しそうな。そんな表情でこちらを見てくるもんだから、どきりと胸が跳ねてしまう。

いつも飄々としていて、この手のことに関しては主導権を握られっぱたしだったから、こんな姿を見るのは初めてで。謎の感動を覚え、 感心しているこちらに対し、 彼は溜息をつく。

「はぁ…参ったな」

バツの悪そうな顔でくしゃりと頭をかきあげる仕草は、照れ隠しのようにも見えて。きゅん。胸の奥で少女漫画でありがちな効果音が鳴った気がした。

(ちなみにこの後、やっぱり何倍もの仕返しが返ってました)




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