友人に頼まれた数合わせの合コン、参加してもいいか聞いてみた(峯義孝)





「……言っている意味がよく分かりませんね」

普段から深く刻まれた眉間が2割増しで深くなったように見えて、思わず顔が引き攣る。冷ややかな視線でこちらを見下ろす姿は、控えめに言っても“めちゃくちゃ怖い”。なんとなくこうなる予感はしていたのに、僅かな好奇心に勝てなかった自分が憎い。

「あなたは俺に、それを止めて欲しいんですか?もし本気で行くつもりで聞いたなら、あなたは俺の前で堂々 “浮気をしてもいいか” と明言したことになりますが」
「そ、それは違います!私はただ数合わせで参加するつもりで、その気は全くないので……!」

まさかそんな風に解釈されるとは思わなくて、必死に弁解しようとするけれど、彼はそれを鼻で笑って一蹴してしまう。

「自分にその気が無くとも、相手はそうじゃない。もし悪質な手であなたを手篭めにしようとする男がいたら、どうするつもりなんですか?」

その言葉に、思わずはっとさせられる。彼の顔は相変わらず鬼のようだし、眉間の皺は深まるばかりだし、その声色は凍てつくように冷たい。しかしそこには、こちらの身を慮るような気持ちが滲んでいて。思わず瞳を揺らし、「心配、してくれてるの?」と彼を見つめれば、

「……あなたが思っているほど、この世界は善人ばかりじゃない。あなたは俺の隣で、その片鱗を目にしてきたと思っていましたが」

と、若干語気を落ち着けて話してくれて。

「……ごめんなさい峯さん」

素直に謝罪すると、彼は短いため息をつく。

「……まぁ大方、友人に一生のお願い、とでも言われて断りきれなかったんでしょう。あなたのそういうお人好し気質なところは個人的には嫌いじゃない。……だが、」

そこで言葉を止めた彼は、おもむろにこちらを抱き寄せてきて。

「……こうしてあなたの身を案じる者がいるということは、いい加減忘れないでくれると助かる」

そこにはもう、 冷徹な男の姿はどこにもなく。彼の胸から伝わるとくとくとした優しい鼓動に、思わず涙が出そうになってしまう。そのままその腕に抱かれていると、彼はふと携帯を取りだして、「片瀬、例の件はキャンセルだ」と実に短い通話をする。

「え……峯さん?キャンセルって……?」
「……今夜はあなたとディナーに行く予定でしたが、また今度にします。優先させなければならない案件が出来たので」

瞬間。
近場にあったソファーに押し倒されると、目の前には意地の悪い笑みを浮かべる彼の顔がいっぱいに広がって。

「……名前、お前は俺だけの女だ。もう二度と合コンに行くなどとふざけた口を利けないよう、その身をもって教えてやる」

そのまま噛み付くように口付けをされれば、少なくともいつもの倍以上は無理をさせられてしまった……。




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