基本全くと言っていいほど酔わないしザルな彼だけど、やっぱり人間だから一応限界値はあって。鶴野さんからの呼び出しで珍しくキャパを超えたらしい彼を迎えに行き、「獅子堂さん帰りますよ〜?」と呼びかけるも反応なし。どこかとろん、としてるようにも見える目が、こちらを見るばかりで。
……えっ、何それ、かわいい。この時点でいつもと全然違うなと実感する。
「立てますか?」
「……。」 こくり
「じゃあ私につかまって、タクシーまでついてきてください」
「……。」 こくり
黙って頷く彼にふふ、となりながら、彼の背中に手を回して立たせ、そのまま支えて歩いていこうとすると、彼がこちらの袖の端をちょこんと掴んできて。
……あっ、確かにつかまってとは言ったけどそっち!?まるでテーマパーク内での子供のような構図に鶴野さんを初めとした外野(同じく泥酔組&たぶん次の日は記憶ない)は爆笑してるんだけど、こちらとしてはかわいすぎてそれどころじゃないし、そろそろ別の生き物なんじゃないかと疑うレベル。
いつもの彼といえば、黙って俺の言うことに従えスタンスで逆らえないし、強引の塊みたいな男だから、こんなに無口で従順で何も出来ない彼の姿に驚きが隠せない。
タクシー乗った後も、「肩に頭預けてもいいですよ」と出来心で言ってみたら、体格差的にやりづらいだろうに無言で頭こてんってしてきたり、家に着くまで謎に片手にぎにぎされたりしてきゅんの渋滞が起きる。(こんな状態でもタクシー代は払ってくれる)
帰宅後は、水飲んでください〜お風呂入ってください〜1人で入れそうですか〜歯磨きしてください〜ベッド行きますよ〜のやり取りにただただ無言で従うだけの彼に母性本能が止まらない…。
ふにゃふにゃの世界一でっけぇ赤ちゃん、爆誕。
次の日、記憶0で元通りになってしまった彼に、
「全然可愛くない…私の赤ちゃんを返して…」と泣きついたら「は?」と普通にキレられ、いつも通り捕食されるから、昨日の出来事は夢か幻だったのかと思わず疑っちゃうよね……。