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浮遊し続ける数々の棺を見て何を思うのか。「あ、あの〜……」
「わっ! なになに、なに?」
「ヒョエ! なん、えッ、なんですか!?」
事態の収拾のため果敢にも話しかけたクロウリーの声に、謎の人物は驚いて飛び起きた。突然怪しい仮面をつけた男に話しかけられればそうなるのも無理はない。
しかしクロウリーも一緒になって驚き、というよりびびり散らかし、話しかけるために少しだけ縮めた距離をまた離した。
ぱちり、黒曜石のような丸い瞳とユウの視線が交わる。
同じ黒色の目なのに、その瞳からは底知れないものを感じて思わず身震いした。
「って、あの、えっ……女性?」
「……どちらさま?」
「こちらの台詞ですが!?」
今日の学園長は活きがいいなとクルーウェルは思う。
「あ〜えぇっと、ンンッ……私はこの学園、ナイトレイブンカレッジの学園長、ディア・クロウリーです」
咳払いで一度自身を落ち着かせてから、クロウリーはいつも通りを装って名乗った。
彼女はクロウリーの顔から視線を逸らし、きょろきょろと辺りを見渡してから、再びクロウリーを向いた。
血塗れであったが、女性というよりも少女のような幼さの残る顔立ちに、クロウリーは仮面の下で目を見張る。
「ナイ、ん? ……んーと、私はイトです。ここはどこですか?」
「ですから、ナイトレイブンカレッジです。ご存知ない?」
「ご存知ないです、ね」
前髪から滴る血を鬱陶しそうに避けながらイトと名乗った少女が呟いた。その様子から、自身が血塗れになっていることに関しては然程疑問に思っていないようだと窺える。
クロウリーがそっと、いつでも魔法が使えるように構えた。普通の人間、それも少女ならば尚のこと、血塗れになっていれば何かしらの反応を示すはずだ。
この空間にいる大人は皆、クロウリーのようにイトを警戒した。それぞれの杖に手を添え、イトの一挙一動を見張る。
ただユウだけは明らかに怪しいイトに、とても恐ろしいけれど、そのような警戒心は抱かなかった。抱けなかったと言う方が正しいのかもしれない。
ナイトレイブンカレッジを知らないと答えたイトが、まるで迷子のように見えてしまったのだ。
「……それで、貴方はどのようにしてここに?」
「えぇ? 分からないです。貴方が連れてきたんじゃないんですか?」
「私では……あぁいや、棺の中に入っていたということは馬車が連れてきた? いやしかしそんな、そもそも女性であるのに……」
混乱しているのはどちらも同じだった。クロウリーは頭を抱える。
棺の中に入っていたのなら、馬車が釣れてきた可能性が高い。というより、そうでもなきゃ棺の中にいない。
勝手に抜け出したユウですら馬車が連れてきたのだ。だのに、それ以上の問題なんて。
「……まぁもういいでしょう。すぐに闇の鏡が貴方たちを故郷に送り届けてくれますので」
パン、とクロウリーが手を鳴らす。彼の視線はイトとユウに向けられていた。
気になることは多々ある。ユウにもクロウリーにも周りの教師たちにも、そしてイトにも。
だがそれらに深く突っ込んで、事態が好転するとは到底思えなかった。
馬車や棺の不具合ならば彼らを返した後に確かめればいい。異分子を排除すれば明日から滞りなく新学期が迎えられる。
決して絶え間ないトラブルに疲れたからだとか面倒だからとかではなく、そうすることが最善だとクロウリーは思った。心の底から。
時間さえあれば二人からじっくり話を聞きたいところだけれど明日からは新学期も始まるのだし、と、誰に何を言われたわけでもないのにクロウリーは心の内でそう言い訳した。
「それでは二人とも、鏡の前に立ってください」
自然と並ぶ形になったユウとイトは闇の鏡の前に立たされている。ユウはチラリと、隣のイトを見た。
頭のてっぺんから足の爪先まで血だらけの少女。その割には受け答えがはっきりしていて、怪我をしている様子はない。
彼女の血ではないのだろうか。なら誰の……いや、考えるのは止そう、長い夢はもう覚める頃合いだ。そう思いユウはシノから目を逸らし鏡を見据える。
「さあ闇の鏡よ! この者たちをあるべき場所へ導きたまえ!」
学園長が高らかに叫ぶ。すると二人を眩しいほどの光が包み次に目を開けたときには其々の居場所へ──……。
「……ん?」
「ゴ、ゴホン! もう一度……闇の鏡よ! この者たちを」
「どこにもない」
闇の鏡が冷たく告げる。
「え?」
「この者たちのあるべき場所は、この世界のどこにもない……無である」
そう告げられた本人たちより、学園側の方が焦っていたのは言うまでもなかった。
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