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次にツナがエマを見かけたのは、嵐のような夏休みがあっという間に明けた後の、体育祭当日だった。目まぐるしい日々だった。平和だった日なんて一日もないんじゃないかと、爆発音や銃声が響き渡っていた夏の日を思い出す。
学校が始まるのは憂鬱であったが、まだ学校の方が息をつく間がある。と、思う。授業中とか。そう思いたい。
「あのー……」
「うひょ〜! ありゃ誰かの姉ちゃんか!? 高校生に大学生に……よりどりみどりじゃねぇか!」
競技も何も始まっていない、開会式が終わってすぐ。石に躓いて転んだツナに、獄寺が救急車を呼ぼうとしたのがついさっきの出来事。
大袈裟すぎる彼の振る舞いを咄嗟に抑え込み、ならばせめて救護テントに言ってくれと頼みこまれたため訪れているところだった。
救護テントの横幕を捲り中に入ると、シャマルが横幕の隙間から双眼鏡を覗かせていた。
ここであってるよな……とツナはドン引きしたが、シャマルがいるのだから間違いなく救護テントなのだろう。なぜPTAから苦情が来ないのか甚だ疑問である。
大変話しかけ辛い、というよりも声をかけたくなかったために黙ったままテント内を見渡す。
絆創膏一枚、拝借したところでこの男は何も言わないだろう。気付くかも怪しい。
男子生徒相手には出番がなさそうな救急箱が無造作に机の上に置かれていたので、ツナは腕を伸ばした。その間もずっと、シャマルは鼻の下を伸ばし続けていた。
「貴方それギリギリですからね」
ふと、自身の真後ろから声がする。驚いて救急箱に伸ばした手を止めて、慌てて振り返った。
「どうかされましたか」
チカチカと星が瞬いているような、濃紺の輝く双眸がツナを射抜いた。
「……あっ、え、えっと」
「先生、患者ですよ」
「オレは男は診ないっての。何回言わせんだッ」
「養護教諭の職務を全うしてください」
沢田さん、とツナの口から思わず溢れた声は、エマのため息と重なった。
「私の方で処置しますので、座って待っていてください」
「あっ、う、うん!」
体育祭だからか一つにまとめられていた髪が、エマの動きに合わせてふわりと揺れる。
どうしてここに沢田さんがいるのだろう。
救急箱の中身を確認している彼女の後ろ姿を、ツナはただ見つめることしかできなかった。
「右膝の擦り傷の手当てと、他はどこか怪我をされてますか?」
「いや、ここだけ、です。これも傷ってほどのものでもないけど……」
「んなもんツバ付けときゃ治る」
「男は診ないんでしょう。引っ込んでてください」
少しだけ赤くなっていて、よくよく見れば薄皮が剥けているようなそんな怪我。怪我と言っていいのか微妙なところ。
処置を施される程のものでもないが、エマは消毒液とガーゼを準備している。恥ずかしい気持ちはあるものの、何もせずに獄寺の元へ帰ればまた面倒なことになるだろうと、ツナは大人しく椅子に座った。
「失礼します」
ご丁寧にそう一言添えて、エマはツナの前でしゃがみ込む。水を含ませたガーゼで先に砂汚れを拭いてから、消毒をしてくれた。
沁みるような傷でもないのだから、ツナは大人しくされるがままとなっていた。エマの左腕には保健委員の腕章が付けられていたから、慣れた手つきも納得した。
ただ、シャマルとの親しげな会話が、少しだけ気がかりだ。
「こちらに名前の記入だけお願いします」
「あ、はい」
「お……おい! 見てくれ!」
「何を」
「超絶可愛いギャル達がミニスカ履いてらぁ……!!」
「二度と声をかけないでください」
沢田綱吉、と名前を書く。バインダーに挟まれた訪問履歴はまだ誰の名前も書かれていない。
バインダーを返すと、ツナはお礼だけ言ってそそくさとテントから出た。あの空間にいると、どうしても考えてしまう。
夏休み前の獄寺が言った、どこのファミリーのものだ、という言葉を思い出す。
女好きで見境がないスケコマシでどうしようもないだらしない男だが、シャマルは礫としたマフィアなのだ。
親しげに話していたが、まさか……。ツナは身震いをする。そんなはずないよな、と半ば無理やり思い込んでその場を去った。
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