皆様は経験はおありだろうか。目が覚めたら知らないベットに寝ていたなど。
私は初めてである。目が覚めたら広い寝室に、きれいな白いシーツがしかれた見覚えのないダブルベットに一人で寝ていたなど。ゆっくりと身を起こしてみる。服は着ていた。ネイビーのパジャマだった。これも見覚えがない。
昨日は、私はどうしたっけ、そう、会社の飲み会があったような……なんだかちょっといいホテルで、会社の飲み会があって、それで珍しくワインなんか飲んでしまって…そこで記憶が途切れている。
まさかのまさかである。もしかして知らない人にお持ち帰りされたのだろうか。なんとなくパジャマの上から体を触ってみるけれど、異変もない。
そこではたと気づいた。また私の知らないものを発見したのである。

それは私の左手薬指に光る指輪だ。見覚えのないそれをじっとみつめる。シルバーだろうか、プラチナだろうか。光り輝くわっかにさらにまたひかり輝く石が3つ並んでいる。まさかこれダイヤ…
私は怖くなって指輪ごと左手を右手で包む。とりあえず現状把握のために、この部屋から出てみよう。そっとベットから降りて、私は寝室のドアを開ける。


寝室と思われる部屋を出ると、そこはリビングだった。キッチンも見える。そしてそこに一人の男性が立っているのが見えた。金髪、ワイシャツに黒のエプロンをしている。
フライパンでなにかを焼くにおいと音がする。私はそのにおいにぼんやりとしながら男性をみつめていると、私の視線に気づいたのか、男性がくるりと振り返った。


「なんだ、目が覚めたのか?今日は早いな、もうすぐ朝食ができるから顔洗ってこい」


皆様は経験がおありだろうか。目が覚めたら、部屋に自分の推しがいたことなど。







冷水で顔を洗う、顔をタオルでぬぐって鏡をみる。鏡にうつるのは記憶の中にある自分の顔だ。それがなぜか私の推し―降谷零と夜をともにし(たと思われる)、推しが朝食を作っている。会話もした。とてもフレンドリーだった。
指に光る指輪を見つめる。左手薬指に光る指輪、エプロン姿で朝食を作っている私の推し、知らない家……私はここまで考えて、夢だと結論を出した。
だってそうでもしないと、目の前に推しがいることも説明がつかない、私の推しジャンルの名探偵コナンの、その中でも特に推している降谷零がいることの説明が。
そうか、これは夢か。そう考えるとすっきりしたものである。しかしこれはどういう設定の夢なのだろう。まさか私があの推しの結婚相手(もしくは婚約相手)ということなのだろうか。恐れ多いの一言に尽きる。
私はとりあえず顔を洗って、髪の毛を軽く整えてリビングに戻る。降谷さんは最後の仕上げといわんばかりにテーブルにちょうどカフェオレが入ったカップをおいているところだった。
私はおずおずと、色違いのマグカップの、ピンク色がおかれたほうに座る。降谷さんの水色のカップは中身はコーヒーだった。
目の前にはワンプレートにサラダやパンや目玉焼きやらとのった朝食が広がっていた、思っていたよりシンプル。私の中の推しの降谷さんはこう……もっと凝った朝食を作るのかと思ってた。

いただきます、とつぶやいてフォークを手に取る。サラダを口にいれると、さっぱりとした味が口に広がった。レモン…?料理をあまりしない私にはそれしかわからない。
降谷さんは黙ったままずっと携帯をみつめていて、私は話しかけることもできずに無言で朝食を食べ進める。
シンプルな朝ごはんだったけど、パンはさくふわ、サラダもさっぱり、カフェオレだって私の好みの甘さで私はぺろりとそれを平らげてしまった。

「ご馳走様でした!すごくおいしかったです!」

私がそういうと降谷さんはずっとみていた携帯から驚いたように顔をあげてじっと私を見つめる。あれ、なんかまずいこといったかな……でも夢だしな……
あまりにもじっと見つめてくるので、私は気まずくなって降谷さんになにか話しかけようと思案する。でも、あんまり変なことを聞いてしまっても……いや、ここは素直に記憶がないんですっていう?
夢だから好きなようにしてもいいのかな?


「あの降谷さん……」
「降谷さん?」


私の呼びかけに降谷さんは眉をひそめてこちらを見つめた。


「お前も降谷だろう」


アッこの夢の設定だと、まさかのまさか、降谷さんと結婚してる?
もしかして、私、降谷さんと結婚したい願望あり?


皆様は経験がおありだろうか。目が覚めてもまだ夢の世界だったことが。

皆様は経験がおありだろうか。目が覚めたら推しと結婚していたことが。




私は初めてである。