「やーい!お前髪の色も目の色も変なんだよ!」
「さっさと日本からでてけよ!自分の国に帰れバーカ!」
自分より大きな体、その相手にどんと肩を押される。自分の体はあっけないほど倒れこんで、思わずついた手のひらを砂利で傷つけてしまった。
じわりと涙がにじむ、痛さではない、くやしさからだ。
相手に反論しようと涙をぬぐったところで、相手と自分の間に小さな影ができた。ぼくは思わずその影を見上げていた。
そのときから俺の守りたいものは決まっていたのかもしれない。
「……ん?」
私は鞄をぶらぶらと揺らしながら家へ帰る途中、思わず振り返ってしまった。家と駅の間にある小さな公園、そこから小さな男の子の怒鳴り声が聞こえたような気がしたから。
今日は仕事も休みで久しぶりに朝から買い物に出た帰り道だった。まだ夕方前とあってあたりは明るい。その公園の様子は少し遠くからでもよく見えた。
どうやら男の子二人組が、男の子を一人突き飛ばしたようだ。先ほどの怒鳴り声は誰のものかわからないが、これはよくある…今問題のいじめってやつなのだろうか。
私は遠くから様子を見つめる。突き飛ばされた男の子はそのまま座り込んでいるようだった。かと思いきやその小さな体を飛び起こし、相手の男の子へととびかかる。
だけどその体はまた突き飛ばされ、また地面に倒れこむこととなっていた。
「早く日本からでてけよ!」
「…っぼくは!日本人だ!」
「そんなわけないだろ、そんな髪の毛しておいて!」
「気持ち悪いんだよばーか!」
「こらこらこらこら」
私は再び殴りかかろうとしていた相手の男の子の襟首を思わずつかんでいた。地面に倒れていた男の子はきょとんとした顔で私を見上げている。
「自分と違うからって気持ち悪いっていう感覚はどうかな」
「なんだよおばさん!はなせよ!」
「おば………あのね、弱いものいじめしてるほうがみっともないよ、かっこわるいよ」
「ぼくはよわくないっ」
「えっあ、ごめん……」
倒れこんでいた男の子が立ち上がりながら私に向かって叫んだ。お、おぉ…そうか、そうだよな、弱いものいじめっていう言い方はよくないよな。この子も男の子だもんな。
「あー……じゃあえっと、一人相手に二人掛かりは卑怯じゃないかな」
「うるせーよはなせよおばさん!」
「だから私まだおばさんじゃな…あっ!」
じたばたと暴れてたことによって、私が掴んでいた襟首はあっさりと解き放たれてしまった。そのまま男の子二人組はすぐさま私たちの元から逃げ去ってしまった。
いやぁ、小学生くらいだと思うけど、意外に力が強い。世の中のお母さんは大変だ……。
そんなことをぼんやり考えていると、取り残された男の子は涙を腕でぬぐいながら地面をじっとみつめている。
「ごめんね、お姉ちゃん余計なことしちゃったかな」
「そうだよおばさん」
「おば……」
くそ、別に感謝されたいわけじゃなかったがなんて生意気な子供なんだ。そこで私はやっとその男の子の顔をきちんとみて、思わず出そうになった声を飲み込む。
その子は知り合いに顔がそっくりだったのだ。まさか、えっ隠し子とかじゃないよね…?
そんなこと考えているうちにその男の子もぴゅーっと駆け出してしまっていた。あっ傷の手当…!
反射的に手を伸ばしたときにはもうその男の子は公園から逃げ去ってしまうところだった。
う〜ん、子供との付き合い方って、難しい。
私はため息を一つ吐き出して、家へ向かう足を再び動かし始めた。