仕事終わりの薄暗い道、街灯に照らされた先を買い物袋をぶら下げて歩く。中身は今日の夕飯になるであろう惣菜たちとれいくん用のお菓子たちある。通る最中、公園をちらりと見るがれくんの姿はない。今日は来ないのかなとぼんやり考えていると、行く先に街灯に照らされてきらりと光る何かが見えた。くらいので一瞬わからなかったが目を凝らしてみるとそれは最近見慣れた姿だった。


「れいくん!」
「あ、おねえちゃん」


私の姿を見つけると駆け寄ってきてくれたので、私もれいくんの目線にあわせてしゃがむ。れいくんは頬を赤くしながら私の顔を見つめていた。


「こんな時間になにしてるの?」
「探し物だよ」
「探し物?なにか落としちゃったの?」


私がそうきくとれいくんはぶんぶんと頭を振った。そうして私の袋を握っている手をきゅっとつかむ。


「ううん、もういい。大丈夫」
「大丈夫?私も一緒に探そうか」
「大丈夫、おねえちゃんがいるから」


そういってれいくんが私の家の方角に向かって歩き出すので私も立ち上がって慌てて追いかける。私がいるから大丈夫な落し物ってなんだろう。お金かな?
首をかしげながら、私は「はやくー!」と呼んでくるれいくんに走り寄った。





「おじゃまします」


れいくんはすっかり慣れた様子で私の家の玄関で靴を脱いでいる。怯えているよりはよほどよいが、あまりにも警戒心がないのでちょっと心配だ。
いつもの通り、れいくんに緑茶をだして、声をかける。


「わたし、今から夕ご飯たべるけど、れいくんはどうする?」
「たべる!」
「わかった、作るからちょっと待っててね」


はーい、とれいくんは元気よく返事をしてお茶を飲んでいる。テレビつけてもいいよと声をかけると、テレビをつけてはみるものの普段あまりテレビをみないのかチャンネルをまわしては首を傾げと繰り返していた。
そんなれいくんに私は少し笑いながらキッチンに立つ。惣菜は買ってきてしまったので、味噌汁とサラダは作ろう。ごはんはちょうど今日炊く予定でタイマーをセットしたのであと少しで炊き上がるはずだ。
簡単なものだし、人様にふるまうものでもないかもしれないけど、多分私が普通に作るより惣菜のほうがおいしい。今日はちょうどコロッケを買ってきたのできっとれいくんも喜ぶだろう。
キャベツの千切りなんかも作ってみたりして、それらをテーブルにはこぶ。私の家のテーブルは低く座布団に座ってご飯を食べるのでれいくんでも高さは大丈夫だろう・
ごはんやおかずをならべるとれいくんが目を輝かせてコロッケを見つめている。二人でむかいあっていただきますをして食べ始めるとれいくんはさっそくコロッケにかじりついていた。


「おいしい、これ」
「本当?よかった、好きなだけ食べてね!」
「うん、おねえちゃんは今日も仕事だったの?」
「そうだよー」


そんな話をしながらごはんを食べ進める。宿題終わった?ときいたときに目線をそらしていたりして二人で笑いあった。ごはんのあと、わたしはれいくんに冷蔵庫にあったストロベリーのカップアイスを渡して私は二人分のお茶碗を洗う。
こうして誰かとご飯を食べるのも久しぶりだ。少し前までは、友達とポアロにミーハー気分でご飯を食べにいったりしたけれど。そこまで考えて、私はぐっと心臓が重くなったような気分になった。
―お店をやめている。もう会えない。ざぁ、と水道が流れる音で私ははっと顔を上げた。今考えるべきことではない。慌てて食器を洗い終えてテーブルに戻ると、そこには空になったカップしかなく、れいくんの姿がなかった。
帰ってしまったのかと一瞬思ったが、玄関にはまだれいくんの靴がある。そのとき、私の寝室からがたりと物音がした。


「れいくん?そんなところでなにやってるの?」
「わっおねえちゃん」
「だめだよ、勝手に入ったら」
「ごめんなさい……」

私がれいくんにそういうと、れいくんはしゅんと頭を下げた。その手には白い箱が握られている。箱の蓋が開けられている。そこにはピンクのマグカップが収まっていた。


「でも、この箱がなんとなく気になって…」
「マグカップ?」


れいくんがこくんとうなずく。私はそっとれいくんから箱を受け取り、そっと中身のマグカップを指でなでる。


「綺麗なのに、このコップ使わないの?」
「これはね…私が、はじめて好きになった人がくれたものなの。ずっと友達の距離にもなれなくて、遠くからずっと見てただけだったのに……その人が、私の誕生日にってくれたものなの。
使うの、もったいなくて、そのままずっと飾ったまま」


少し恥ずかしいね、と私が笑って言うと、れいくんはじっとそのマグカップを見つめている。「すきなひと……」というのはれいくんの小さなつぶやきだった。れいくん、と声をかけるとれいくんははっと顔を上げて、私の顔を見つめた。瞳がゆらゆらと揺れている。


「れいくん?」
「……ごちそうさまでした!」


れいくんはそういって和室から飛び出していく。あわてて追いかけるものの、すでに玄関にれいくんの姿はなく、私は小さくため息を吐き出した。れいくん、静かに帰っていったことないなぁ、次きたときは静かに帰ってもらおう。そんなことを考えながらアイスのカップをゴミ箱に捨てる。
れいくんはなんのお菓子がすきなだろう。なにを準備したら、また笑顔を浮かべてくれるだろう。れいくんが寂しい顔をしていると、私まで寂しくなってしまう気がする。そんなことを考えて私はお風呂に入る準備を始めた。




だが【れいくん】が現れることは、もうそれからなかった。