今日はなんだか気分が悪い。些細なことで腹が立つし、小さな事でひどく気持ちが落ち込む。睫毛がうまく上がらなかったせいかもしれないし、明日にはネイルを塗ろうと思っていた爪が割れたせいかもしれない。フゥ、とため息を溢しながら、訓練終わり、1人廊下を歩いていると、名前を呼ばれた。俯けていた顔をあげると、白衣を着た綺麗な男が微笑む。
蒸し暑い廊下に立っていると言うのにどうにも涼しげな男は手に持った箱を揺らしながら「今からお茶するんだけど、一緒にどう?」と笑った。吸い寄せられるように近付き、空調の程よく効いた医務室に入る。長机の上に箱菓子を置いて、おしゃれなグラスに氷と飲み物が注がれた。恐らくアイスティー。多分、前に紅茶の方が好きだと言ったから。促されるままにソファに腰を下ろすと、心の棘が和らぐ気がした。
机の隣に置いた椅子に、部屋の主人も腰を下ろす。箱からお菓子をひとつ、手に取ってから「恵くんには内緒ね」とその人は悪戯っぽく笑った。
グラスの中でカラン、と氷が音を立てる。「そうね」と思わず呟いた自分の口元には、自然と笑みが浮かんでいた。