「ただいま!」

元気な声とドアを開ける音が部屋にひびく。

「おかえり」

優しく呟くと、元気な声の主の表情が緩んだ。
あのねあのね、と声を弾ませて、今日あったことを話してくれる。
私の知っている言葉でこの子を表すなら「少女」だろうか。
「少女」という言葉が指す意味の真意は残っていないのでわからないが、あれを「彼女」と呼ぶならやはりこの子は「少女」なのではないかと思う。

「今日は特に元気だな」
「今日はね、惑星の事いっぱい教えて貰ったんだ!」
「少女は惑星が好きだね」
「違う!」

少女が否定の言葉を口にしたので私はとても驚いた。

「あんなに嬉しそうに話していたのに、惑星が好きじゃないのか?」
「そっちじゃないよ!私の言はちゃんとメメルって呼んでっていったじゃないか!」

私は再び驚きで数度瞬いた。

「少女、それは名前じゃなくて個体識別コードの...」
「ちがう!」

少女は非常に怒っているようにみえる。
大きな瞳がじわじわと涙で潤む。

「...わかったよ、メメル。悪かったよ」
「...うん、私もごめん」

メメルは冷静さを取り戻したようで、しゅんとしてしまった。

「今日のおやつはなんだと思う?」

私は話題を変えることくらいしか思いつかず、食料保存用の家具の扉を開いた。

メメルはぱあっと表情を変えて私に飛び付いてきた。
この子は察しのいい子だからきっと気を使ってくれたのだと思う。

「今日のおやつは何?」
「月色の紅茶と太陽色の実のタルトだよ」
「本当に!?じゃあ私はお湯を沸かすね!」

そう言ってメメルはお湯を沸かしに外へ出ていった。
ここでは太陽光を熱源としている。
太陽光を集める器具でお湯を沸かす事ができるのだ。

一人になった私は考える。
メメルにどこまでを話すべきなのだろうか。
話すべきでは無いのだろうか。
こうして名前らしき音で呼び、また呼ばれることは正しいのだろうか。
私には何もわからない。

up:20171005
- 4 -

*前次#