それは夏休み真っ最中の、暑い日の話。委員会の当番で花壇のお世話をするためにその前に立っていると、ふっと足元に影が差した。

「やあ苗字さん、ひさしぶり。元気にしてた?」
「……ゆき、むら…くん…?」

急に現れた人――同じクラスの幸村くんだった。といっても、今年度に入ってから彼を見たのは、ほんの数えられるほどしかない。今までに例の少ない難病にかかって入院し、大変らしいと聞いていた。

その彼が病を克服し、来学期から正式に復帰するらしいと聞いたのは、夏休みに入ってすぐ。つい先日のこと。

「うん。苗字さんは今年も美化委員してるんだってね。」
「そう、だよ。……幸村くんも、一緒だよ。」
「そうだね。俺が先生にそうお願いしたから。でも…俺が今年も美化委員になりたいなんて先生にわがままを言ったせいで、俺たちのクラスの美化委員はずっと苗字さん一人だっただろう。苦労をかけたね」
「……ううん、全然。去年、幸村くんがお花の上手な手入れの仕方を教えてくれたから。頑張って実践してるんだ。」
「そう、それは良かった。二学期からは俺もちゃんと美化委員頑張るから。だからそれまで、もうちょっとだけ苗字さん一人に任せることになってしまうんだけど……我慢してくれるかな?」

肩にかけた芥子色のジャージを風にはためかせながら、彼はそういって少しだけ眉尻を下げた。幸村くんの背後に立つ木の葉から零れた日の光が、彼の透けるような肌に斑模様を作る。

「うん、勿論。」
「ありがとう。じゃあ、俺は部活に戻るから。」

またね、と踵を返す幸村くんに、私は今度会ったら言おうと思っていた言葉を咄嗟に投げかけた。

「…幸村くん、退院おめでとう…!」

彼は驚いたように振り返って、その後ふっと笑みを零した。

「……ありがとう、苗字さん」

再び踵を返して、幸村くんは木漏れ日の中を歩いていった。段々と遠くなるその後ろ姿を眺めながら、どういう訳か私は、彼がここにいないような感覚を味わっていた。

 




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