「何泣いてるの、気持ち悪いなぁ。」
泣いている女の子にかける言葉がそれか、と私の隣にきた男を睨んだ。彼は私と同じように窓の手摺りに手をかけて外を眺めている。
「……総司には関係ない。」
「……そう?僕は仮にも君の、――」
今の私には、その続きの言葉が欲しかった。彼の表情を見ていたら、――否、見ていなくても、彼がその続きに何を言わんとしているのか分かった。だが、今の私にはそれを確固たるものとする言葉が――
「――…でも、そう思ってたのは僕だけ、だったのかな?」
「……」
「君が泣いてる、それだけで僕にとっては大事だ。それを関係ないなんて言われちゃ……ね。」
相も変わらず彼は外を眺めていた。彼の横顔をじっと見つめる私の視線に気づいてはいるが、受け入れてはくれなかった。
「――前に、僕が君に言ったこと、覚えてる?」
「……」
「わからない?……僕は『気なんか遣わないで』って言ったよね。忘れたとは言わせない。」
「……総司、」
「それともただ単に、僕なんかじゃ『話すに値しない』って?」
「そんな…――」
反論しようとするも、泣いていた所為で掠れて形にならない音が出たのみである。彼はそれを聞いて、ようやく此方に視線を向けた。言葉のわりに柔らかい表情をしていた。彼の手が近づき、私の薄く開いた唇に人差し指が押しあてられる。
「言わなくていい。泣いてる子にわけを語らせるなんて、そんな野暮はしない。……けど」
手を私から離した彼はそこで言葉を切って、此方をじっと見る。目に映る私の顔だけでなく珍しく彼の顔も、いつにもなく不安げである。
「僕が必要なくなったのなら、それだけはちゃんと言ってもらわないと。……尤も、――」
彼は目をふっとそらして再び外を眺める。口元には、私を初めて腕におさめた時に浮かべたのと同じ笑みが宿る。
「――大方それを認めてはあげられないだろうけど、ね。」
その笑みをこの距離で眺めることに耐えきれなくなり、私は彼の胸元へと飛び込んだ。彼の腕が私の背中にまわったのがわかると、もう枯れたはずの涙がまた流れた。
「総司、…総司…!」
「ほらやっぱり、……君は僕なしじゃ生きられない。僕も、――」
私の首筋に頭を埋めて、彼は囁く。
「――同じ。」
「…………総司、」
「なに?」
「……聞いて、」
「うん」
私は先程聞いた事実を告げた。彼は口を挟まず、私が話し終わってから
「――そう。」
とだけ言った。
「人が死ぬなんて、それほど深く考えたこともなかった。でも――」
Tシャツしか着ていない私の肩に、暖かい何かが染み渡った。
「君の口からそれを聞くと……どういう訳か、……月並みだけど――」
「胸が裂かれるみたいだ」と音にならない声が私の耳に届く。それがまた私の心を揺さぶった。
「総司、私、一人になっちゃった。」
「…、」
「でも、違うよね――」
「……」
「私、一人なんかじゃ、ない、よね……!?」
「違う。」
私を包む腕の力が一層強まった。その腕の力が、今の私のすべてを支えていた。彼は私の肩口から顔を上げて、私の目を目で以て捕らえる。その目は今にも零れそうなほど潤んでいた。
「違う。絶対に。僕がそうはさせない。」
「…ほんとに?」
「僕を疑うの?今まで君にした約束、破った事なんてあった?」
そう言った彼が浮かべたのは、今までになく和らいだ笑顔だった。
「いなくなった君のお父さんやお母さんの代わりになるかはわからないけど――」
窓からひときわ強い風が吹き込んで、私の涙を浚っていった。瞬きをしてすぐまた彼の顔を見上げると――
「僕が君の家族に、なってあげる。」
いつもの不適な笑みを浮かべた彼だけが、そこにいた。だがそこにいつもの嫌みはない。
その笑みが、言葉が、彼のすべてが、今から私のすべてになった
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