Fri.
生徒全員に、短歌の優秀作品が掲載された小冊子が配られた。生徒たちは早速冊子を開いて読み、周りの友人たちと己の批評を交わしあっている。クラスの中はとても騒がしくなり、授業ができるような状態ではないと判断したのか、教団に立つ先生は黒板に『自習』とだけ書いて、その後は座って本を読んでいる。
そんな状況の中、加藤清正は人知れず頭を抱えた。彼の手の中の冊子は、ある1ページが開かれたままになっていた。
「……あの馬鹿…」
確かに、長宗我部先生の言った通り「凄絶に面白い冊子」が出来上がっていた――色々な意味で。
冊子には短歌の他に歌意と作った学生のイニシャルが書かれているのだが、その他には学年クラスはおろか、性別すら書いていないので、自己申告でもしない限り、作者の特定はほぼ不可能のはずだった。
…が、清正にはわかってしまった。そのページの中に掲載された、恋の歌。この語彙の選び方といい、言い回しの流麗さといい、これを読んだのは自分と腐れ縁のあの馬鹿に違いなかった。
その馬鹿はどうにも不器用で、彼がこの短歌の如く"懸想"をしているなどバレバレだったのだ。人と簡単に馴れ合うような性格をしていないためなのか、他には全く知られていないのが幸いしたが、図らずも長い付き合いの清正にはよく分かってしまった。
(……どうすんだ、あいつ)
清正は冊子に改めて目をやった。認めるのはシャクだが、この歌から、奴の確かなる文才が滲み出ていた。しかし、あの不器用な馬鹿が、歌で想いを表すなんて小洒落たことをする筈がない。きっと誰かに焚きつけられたに違いない、と清正は確信した。
ここまでされたらきっと苗字先生も動かざるを得なくなる筈だ。あの馬鹿はああ見えて案外辛抱強いから、苗字先生に卒業まで待てとでも言われ、その通り待つつもりだったのだろう。そうなったら事態は来年まで動かなくなる。多分あの馬鹿を焚きつけた誰か(大方予想はつくが…)は、彼らの進展を期待したのだろう。
確かに、進展が気になることには違いないが、清正としてはこのまま卒業まで何も変化がないままでも良かったのでは無いかと思う。…まあ、待つ身になったわけではないから何とも言えないのだが。
今朝、この冊子が配られる前に受けた苗字先生の数学の授業を思い出した。その時から何となく苗字先生に落ち着きがなかったように見えたのはこの所為か、と清正は一人納得する。昨日、長宗我部先生のところにプリントを届けた時は既に人手不足で大変そうだったから、きっと、優秀作を選ぶのか何かに苗字先生も手伝わされたに違いない。そこでおそらく、これを目にしたのだ。
…あの馬鹿もだが、先生の方も一体どうする気なのだろう。
* * *
「……苗字先生、今いいですか?」
放課後、清正は数学科研究室を訪れた。放課後のこの部屋は、他の数学科の先生は部活の顧問で出払ってしまうので、大抵苗字先生しかいないのだ。
「加藤くん?質問?」
「そうです。」
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