なつかしいあなた








「もう一度、初期刀を選んでいただきます。何方になさいますか?」



柴浦さんが私の目の前に、五振りの打刀を並べた。
恐る恐る、と言った彼の目はきっと、陸奥守吉行を目に入れることで
私が取り乱す可能性を考えているのだろう。

でも、大丈夫。もう整理がついているの。未だに色は無いけれど。




「陸奥守吉行を、お願いします」



私の言葉に、柴浦さんが息を呑んだのが分かった。
でも、私は決めているから。
私の初期刀は後にも先にも、むっちゃんと呼んで親しかった彼しか、
陸奥守吉行しかいないの。



そうですか、と呟いた柴浦さんは他の刀を下げると、
私の手元に陸奥守吉行を置いた。一度経験した、あの儀式をもう一度。
私はそれを手に取り、ゆっくりと鞘から引き抜いた。




「わしは陸奥守吉行じゃ。せっかくこがな所に来たがやき、世界を掴むぜよ!」




桜が、舞い落ちる。


久しぶりに見たその顔は、彼じゃないと分かっていても懐かしくて
私は静かに涙を流していた。ああ、まだ泣きやすくていけない。
そう思いながらも止まらない涙に、目の前の彼は気付いてオロオロとし始めた。



「どっ、どおいたが!?」
「ごめんなさい、大丈夫、大丈夫なの。ただ、懐かしくって……。
私は無明、越中国の審神者として就任します。これから、よろしくお願いします」
「……うん、よろしゅう!」



どうにか涙を拭って、私は彼に向き直った。
彼は何かを察したのか、それを深く追及して来なかった。
ここでも気遣いを感じて、今の私は頭が下がるばかりだと思った。



私の世界に、少し色が戻り始めた。




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