1-3. First Trip(Engaged)
飯を食べ終え食休みをしていると、名前さんから声をかけられた。


「しげるくんはこれからどうする?」
「……さあ、どうしようね」
「暇なら何かゲームでもする?」
「……ゲームか……」

退屈しのぎにはなるかと思い、彼女の提案に乗ることにした。……ゲームということはトランプか何かだろうか。

そう思っていると名前さんは何か板状の機械を出した。電源をつけると画面に何かが写っている。


「これはなに?」
「スマホだよ!これで色々とゲームができるの」
「ふーん……」


名前さんが見せたその“スマホ”は、彼女が指で画面に触れる度に次々と表示されるものが切り替わる。その中で、知っている単語が目に入った。


「……麻雀?」
「あ、しげるくん麻雀打てるの?」
「まあね……」
「やる?」
「……これで麻雀ができるの?」
「できるよ!私が一局やってみるから見ててね……」


そういうと彼女は麻雀と書かれたボタンに触れる。するとまた表示が切り替わった。そして何度かボタンに触れ少しの待ち時間の後、麻雀の卓が表示された。


「へえ……」
「配牌も理牌も自動でやってくれるんだよ。手牌から切ったのかツモ切りかも表示してくれるの」
「便利だね」


遊び方を学びつつ、彼女の打ち筋を見る。

不要な字牌を切り他家の捨て牌を見ながら浮いている牌を切っていく。一般的な打ち筋。だが他家のリーチにも怯まずに生牌の中張牌を切っていく。勿論、俺の考えている安全圏の牌ではあった。それをできるのは賭けるものがないからなのか安全だと確信を持っているからなのか……。


そうしている内に運良く和了牌をツモった名前さん。他家のリーチに対しダマで返したのも気に入った。


この人、多少はできるな。



「わ、運よかった〜!ねえ見てた?こんな感じなんだけど、次の局からしげるくんやってみる?」
「……うん」


そう言われ“スマホ”を渡される。

東二局。俺は西家。
自動で配牌、理牌された十三枚の牌を眺める。
……四向聴ってところか。

不要な牌に触れれば捨てられることは東一局で見ていてわかったので、ツモと他家の捨て牌を眺めつつ牌を切る。
実際の麻雀よりも可視化されている情報が多い。初心者向きだな、と思いながら手を進めていると数巡で聴牌となった。ここはストレートに立直をかける。


その数巡後、親の追っかけ聴牌。
見たところ当たり牌は俺がガメている。

次の巡目、下家が親の安牌、北を切る。

それは俺の当たり牌だった。
画面の中の女が役を読み上げる。


『ロン。立直七対子赤ドラ1』


それを見た名前さんが俺の真横で興奮したようにはしゃぐ。……この人、距離が近いな。


「わ!すごい!」
「……どうも」
「しげるくん、麻雀うまいんだね!」
「アンタも結構上手いと思ったけど」
「東一局のこと?あれは運がよかっただけだよ〜」


照れたように頬をかく名前さん。
少し目が奪われる。
が、次の局、配牌された音が“スマホ”から流れた。俺は対局に意識を戻す。





―――結局その対局は上家が飛び、俺が一位で終わった。






「しげるくん、すごい牌で待つんだねえ」
「そう?」
「あの捨て牌で待ちが字牌だなんて誰も思わないよ〜」

そう言うと名前さんは俺の頭を撫でた。
犬か、俺は。……と思ったが実際拾われてきた犬のようなものなので何も言わずに撫でさせる。


さっきから思ってたけどこの人、距離が近い。


「名前さん……近い」
「あ、ごめんね!」


俺が指摘すると名前さんは少し間を開けてソファに座る。だが人がいると落ち着かないのか俺の方を見ながらそわそわとしているようだった。



俺はというと、昼食後の気怠い空気と午前の目眩、耳鳴りによる疲労感が重なり眠気に襲われていた。重くなった瞼を擦っているとそれに気付いた名前さんが俺に声をかけてきた。


「しげるくん、眠い?隣の部屋にお布団あるけど寝る?」
「……ここでいいよ」
「ソファで寝る? わかった、なんかかけるもの持ってくるね」
「ありがと……」


俺は彼女が立ち上がって広くなったソファに横になり目を瞑る。意識を手放す前、身体にタオルケットがかけられ花のような香りが鼻腔をくすぐるのを感じた。











何時間寝ていたのか。
目が覚め、ふと窓の方を向いてみると夕焼けに染まる空に少しの雲が浮いていた。

自分のいる薄暗い部屋と対照的に明るい台所からはトントントン、と包丁の軽快な音が響く。名前さんはどうやら夕飯の支度をしているらしい。

かけられたタオルケットを剥ぎソファを抜け出し、台所にいる名前さんに近づく。俺よりも少しばかり小さな背格好で料理を作る様を眺めていたら急に衝動に駆られその背中にわけもなく抱きついた。


「! あ、しげるくん?起きたんだ」
「……うん」
「どうしたの?なんかあった?」
「なにもないよ」


そう、何もない。
この時の俺にはこの衝動がなんなのか分からなかった。


「ふふふ、しげるくんって意外と甘えん坊さんなんだ」


俺に抱きつかれたままくすくすと笑いながら料理を続ける名前さん。首元に顔を埋めながら俺よりも少し高い彼女の体温を感じる。

ふと彼女がかき混ぜている鍋を見てみると筑前煮のようだった。その割には量が多い。作り置きするんだろうか、と思いながら醤油と砂糖の甘辛い香りを嗅ぎつつ抱き着いたままでいる。
するとガチャリ、と玄関かは鍵が開く音がした。

俺は思わず彼女から身体を離す。
と、居間に一人の男が入ってくる。南郷さんのようなガタイのいい男だった。



「ただいま〜。頼まれてたもの買ってきた、よ…………え、あれ?この子は?」
「あ、おかえりなさい!ちょっと色々とあって……」


そう言い名前さんはその男に今日の出来事を話す。その時の顔は俺と話す時よりも一層綻んで見えた。




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「う〜ん、そんなことある?」
「でも事実、しげるくんは冷蔵庫もスマホも見たことなかったみたいだし……」
「……学生なら学生証とかあるんじゃない?」


その男の人はちらり、と俺を見る。
咄嗟に名前さんの背中に隠れた。


「……名前さん、このおじさん誰」
「お、おじさん……」
「ぷふ!!お、おじさん……」
「笑うなよ!……ごほん……赤木くん、はじめまして。俺は名前の旦那」





その言葉に俺は一瞬固まる。
名前さんはといえば楽しそうに笑っていた。



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