喫煙室でタバコを咥え火をつける。
スーっと体内に取り込んで吐き出せば、
紫煙がゆっくりと靄を描く。
三年前に入社してきた千里。
経理部だから、土方はあまり接点はなかったし特に気に止めてもいなかった。
ただ、ずいぶんとキレイな女だ、とは思っていたが。
ある時、営業部が取引先のお偉方との接待で資金が必要になったときだった。
たまたま経理部長がおらず、どこへ行ったのかと話し掛けたのが始まりだった。
土方は周りから、カッコいいのに怖いと恐れられていて、そんな反応はもう慣れっこだった。
だけど彼女は臆する様子もなく
今は会議中ですよ、と
優しく笑って言ったのだった。
それが妙にキレイで。
ずっと印象に残っていた。
それから。
なんとなく、何かあると彼女に声をかけてはまたあの笑顔が見れないものかと。
そんなことしてるうちに、いつのまにか気付いたら、彼女のことが好きなのだと、ようやっと自覚した。
自覚したらもう早い。
どうにかして自分のものにしたくて。
なんとかして自分の想いに気付いて欲しくて。
だけど、部署が違うのではどうにもできない。
自分が話し掛けるたびに、千里が嫌がらせを受けていることも薄々気付いていた。
だか、それを辞めろと本人たちに言ったところでエスカレートするだけだろう。
そもそもまだ俺の女ではない。
ならば、早く俺のもんにしてしまえばいい。
エレベーター前の階段で、
転げ落ちそうになった千里を
思わず抱き止めた、あの感触と匂いが
土方を悩ませていた。
「…千里…」
随分と華奢な身体をしていた。
1つに結い上げた髪の、うなじから香る甘い匂いが、忘れられない。
色気はなかったが、初々しい反応は悪くなかった。
キレイだが、それを鼻にかけずいつも笑顔の彼女を内心よく思っている男性社員は多いはずだ。
例に漏れず土方も、そうなのだが…。
他の男に取られる前に行動しなくては。
「…ぁっちい!!」
真剣に悩みすぎたか、タバコの火が手に落ちて思わず声が出た。
今が誰もいない時でよかった…。
「どんだけ惚れてんだよ、俺は…」
普段やらないヘマに、思わず苦笑した。
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blue moon