練習をしている時、隣で総司が嬉しそうに話しかけてくる。
練習中は私語を慎めと言われているのに。

「はじめくんさ」
「…なんだ」
「もしかして、この高校に知り合いでもいるの?」
「っ………」

なんだ突然。
総司は俺の顔を見るなり、ニヤリと笑みを浮かべ、図星だーと言った。

「うるさい、私語を慎め」

隣でそれでも騒いでいる総司を横目に、俺は黙りを決め込んで黙々と練習に集中する。
しばらくしてピーッという笛の音色が聞こえ、15分ほど休憩を挟んだ後、練習試合をするという土方先生の声で、俺は水を飲みに体育館の壇上に置いてあるペットボトルを取りに向かった。

それにしても今日の俺はおかしい。
総司に質問されたときも、自らの耳に熱が集中するのが感じられたし、どうにもおそらくこの高校のどこかにいるであろう彼女のことを思い出すと胸の辺りが激しく締め付けられるのだ。

なんなのだ、この感情は…。
まさか、まさか病気ではあるまい。
こんな病状は聞いたことがない。
では一体…

そんなことを考えていたら、
あと5分ほどで休憩が終わるという周囲からの声が聞こえ、俺も準備を整えねばならないと思ったときだった。



隣のバスケコートから、ボールが1つ。
ゆっくりと俺の足元に転がってきた。

ボールを手に取り、前を見ると
そこにいたのは、あの、バスの彼女だった。


「あ、すみませ…」

笑顔でボールを取りに来た彼女も、
俺のことを覚えていたようだった。
目を見開いて驚いた顔をして立ち止まった。


「あの、ボールありがとう」
「いや、問題ない」
「……剣道部だったんだね」
「あ、ああ。」


目を合わせることが、できない。
なにゆえ、俺はこんなにも緊張しているのだ。
大した会話もできない俺を、彼女はどう思うのだろう。

戸惑う俺に、彼女は少し笑った。
そして俺に近付くと、ボールを持つ俺の手に手をそっと重ねて言った。


「また明日、バスでね」



俺は咄嗟に何か言おうとした。が、
金魚のごとくパクパクと動くだけで、
結局何も出てこず…。
彼女はにっこりときれいに笑って、コートに戻っていく。

そんな彼女の後ろ姿を、俺はただ眺めることしかできなかった。








それは恋の始まり


(千里ー、早くー)

遠くで彼女を呼ぶ声。

(千里…と、言うのだな…)


(はじめくん、分かりやす過ぎ)
(そ、総司…!いつから…!)
(最初からずーっと、いたけど?)
(な、なんだと?!)






おまけ&あとがき










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