「勇様の奥方様になられる方は、きっととてもお綺麗なんでしょうね」

はるは、使用人としての仕事をこなしながら、勇を見てふとそんなことを言った。
軍服の正装である紺色のそれに身を包んだ勇の後姿を見て、
ついついそんなことを考えていたら、口に出ていたのだった。

勇はというと、支度をしながらそんなはるの発言にとてもイラいていた。
なぜだか、はるにそう言われて突き放されたような感覚になったのだった。

まるで他人事ではないか…。
…いや、他人なのだから何もおかしなことなど言ってはいない。
だが、はるは自分の専属使用人だ。
…そうだ、ただの使用人なのだ。では一体なぜ…
はるの発言はもちろんそうだが、イラついている自分を理解できず、余計に腹が立つ。


「私もいつか、勇様のような素敵な方と出逢えるでしょうか…」


どこか遠い目をしながら惚けた顔をしているはるを見て、
言いようのない苛立ちに思わず眉間の皺が深くなる。


「無駄口を叩くな!」
「あっ、ももも申し訳ございません!」
「……今日は遅くなる。夕飯は要らぬ。」
「…畏まりました。」
「行ってくる。」
「お気をつけて…いってらっしゃいませ!」



晩餐会に出席するため、夕方から出かけた勇を見送ると
はるは思わず小さなため息をついた。
自分に勇様のような素敵な方が現れるわけないのに。
それに、もしも次に縁談がくればもう断れないだろう。
勇様だって、今はご結婚されないと仰っているけれど、宮ノ杜家の方だもの。
いつまでもお一人なわけがない。
勇様の周りには、素敵な女性が選べるほどにたくさんいるのだから。
いつまでも勇様のお世話など、できるわけがないのだ。

そう思うと、なぜだかはるは心がキュッとなって苦しくなった。
その痛みにも似た感覚がなんなのか。
まだ恋も愛も知らないはるには、分かるはずもない。


「あんた、いつまでそこにいるのよ?!」
「…あ、たえちゃん、ごめん!今行く!」


同僚のたえに呼ばれ、我に返る。
そうだ。今できることを今は精一杯頑張ろう。
今は、勇様のおそばにいられるのだから。







始まり 次へ
blue moon