今日、勇の参加している晩餐会というのは勇の所属する軍の御偉方がたくさん参加していて、関係する財閥等からも御令嬢がたくさん来ているらしい。

たえや周りの使用人によると、こういう晩餐会に出席して影で互いにいい人を見つけるのだそうだ。
大抵は、家柄や容姿なんかが一番重要なんだろうけども。
勇に関しては若くして大佐まで上り詰め、家柄は申し分無く、さらに容姿も非常に端麗である。

きっと年頃の御令嬢は放っておかないだろう。
…当人は全く結婚する気はないらしいが。


勇が晩餐会に出掛けた理由はただ一つ。
軍の御偉方が参加するからであって、そのような見合いの真似事などに当然興味はない。
ただ、自分の嬢を勇に紹介してあわよくば結婚にまで漕ぎ着けられればと望んでいる者は多いはずだ。
宮ノ杜家が後ろ楯となれば怖いものなど無いのだから。
そう言ったことは勇も予想の範囲内であるから、興味の無い女の相手も多少はすることになるだろう。
いくら宮ノ杜家の息子だからとて、相手は上司の令嬢なのだ。








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会場までの車内。
勇は片膝を小刻みに揺らして苛立っていた。
原因は間違いなくあの使用人だ。

なぜ苛つくのかは分からないが、とにかくあの今朝の惚けた顔を思い出すと途端に胸が締め付けられるような感覚になり、毎日訓練しているというのにこの感覚は全くもって体験したことの無い苦しさでどう対処したらよいのかわからないのだった。


これから俺は興味の無い上司達の令嬢を相手にしなければならないというのに。
あの使用人はこの俺ではなく、この俺のような人、を想像して惚けていた。
…目の前にこの俺がいるのだから、俺でいいではないか。
彼奴は、これから俺が他の女の相手を適当とはいえ、するということに対して何も感じないのだろうか。

そう思うとやはり頭に来る。



「おい、今日はあまり長居するつもりはない。故にそのまま外で待機していろ」
「畏まりました」



運転手は、返事をしながらそっとバックミラー越しに勇を見る。
最近の勇はいつもこんな調子だ。
何かとても深く考え込んでおられて、そうかと思うと嬉しそうな表情になり、またあるときは今日のように苛々している。
その姿はまるで自分のおもちゃを取られて悔しいといったような、子供のようであった。
そしてそういうときは大抵、玄関先であのおさげ姿の使用人と会話をしたあとなのだ、と。

しかし、苛々はしていてもなぜか纏う雰囲気だけは柔らかいのであった。





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