やっぱり、私、可笑しいと思うんです。
だってそうじゃないですか。彼女はなにも悪くないんです。
ただ、人の評価に反応しすぎるというか、しざるおえないというか。
とにかく、彼女は悪くないんです。それに、彼女が変だっていうか、そういうのも可笑しいと思うんです。
彼女はいつも、どこか儚いオーラを出していたんです。それでいて顔が綺麗だった、だけなんです。
その顔にある傷が逆に、ひびが入った硝子細工の置物のような、そんな危うさを出していたんです。
首にも閉めたような跡があって、右頬には血が引いてきて黒くなった瘡蓋がひばりついてて。きっと身体の中にも傷があるんだと思います。
体育の時、いつも影でこそこそ着替えていたから。
性格も優しいんです。
眉を八の字にして困ったようにいつも笑うんです。それを見るたび、ああ、この人は苦労してるんだな。って思うんです。
頼まれると断れない人だったのもあるんですけど。
手足も細くて、ウエストだって細いんです。
お弁当もなくて、いつもコンビニで買ったゼリーを飲んでいたんです。
傷のこともそうですけど、食べないこととか聞いても、なんでもないよ。とか、ダイエット。とか言うんです。
でも、顔を困らせて言うもんですから、嘘だなって。この人は嘘をつけないんだなって。
彼女は可哀想な人なんですよ。
最初のうちは、虐められやすかったんですけど、顔の傷とか、妙に細いというか、ナヨナヨしい体とか困り顔とか、なんかそういうの全部ひっくるめて、なんというか、反吐が出るっていうか、こう、胸の辺りがモヤモヤしてきて。それでいじめは無くなったんです。
彼女は家とか家族のこととか、自分のことも誰にも話してないんです。
それもまた、彼女をボカしていて・・・。
私、虐待のこと、聞いたんです。
やっぱり、人ってそういうことを感じても踏み込めないっていうのがありますから、誰もまだ、聞いてなかったんです。
そしたら、驚いていて。図星的な。
だから、私助けたいっていうか、なんか怒れちゃって、彼女の家に行ったんです。
私、彼女の父親に会って。
可哀想な人ほど、幸せになる権利があると思うんです。
だってそうでしょう?
障害者は、その障害が日常で。ホームレスも探さないだけで、職はあるんです。
でも、虐待とか孤児とかって、非日常だと思うんです。
だから、幸せになる権利はあると思うんです。
幸せになる権利は誰にだってあります。でも、全員じゃないと思います。
人は産まれてから自由という名のレールに乗るんです。
自由というのは、選択肢が増えただけで、元々ある選択を選ぶだけなんです。
でも、幸せっていうのだけは、人それぞれなんです。
健康の定理と同じで、本当に幸せかなんて、分からないんです。
でも、自分が不幸だと思っている人は不幸じゃないし、幸せだと思っている人ほどろくなもんじゃないんです。
彼女は後者だったんです。
傷だらけで、困った顔をして、不幸を擬人化したような人なのに、幸せだと言うんです。
彼女が幸せだと言うから、許したんですけど。でも、顔は困ってて。いつもの読めない顔をしてたんです。
幸せってなんだって話になりますけど、でも、やっぱり、彼女は不幸だったんです。
不幸すぎて、幸せだと麻痺してるんです。
黒の中で光を探すのは簡単です。でも、光の中で光は探せません。偽物でも、光は光ですから、見つからないんです。
だから、幸せってたぶん、本当はないんだと思います。
彼女は悪くないんです。
ただ、彼女の勘違いだったんです。
幸せだって思った、勘違いだったんです。
だから、私はその幸せを壊さないように守ったんです。
だって、彼女は可哀想だから。
私、彼女のこと、別にすごく好きってわけじゃないんです。
ただ、彼女が可哀想なだけだったんです。それだけで、見てただけなんです。
私、彼女を見て思ったんです。
私は普通だなって、黒の中で光を見つけられるし、光の中で切れた電球だって見つけられるんです。
可哀想な人を見て、安心するんです。
ああ、自分はちゃんと出来てるな。って
だから、ずっと彼女を見守ろうと思ったんです。
不幸という名の幸せが終わらないように。
幸運につきまとってる不運が終わらないように。
あの子が幸せであることを願います。
私は、あの白い、ありきたりだけど絹のような肌に、赤が枯れて黒がへばりついて、首に紫陽花色の首輪がつくのを見守ろうと思うんです。
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