第1話
今週から梅雨入りした。昨年より3日遅く、例年では1日早いらしい。
私が使うバス停は学校から少し歩いたところにある。私の学校はここのバス停から少し坂道を登らないと着かない。不便はあるものの、慣れてしまえばこっちのものだ。でも、このバス停には自分しかいない。なぜなら、こちら側のバス停より正門の方が駅もバス停もたくさんあるからだ。
山を中心に置くとして、右側を正門がある方。左側が不便な方とするならば、私は左側の住人なのだ。
私の最寄りバス停は割と遠くにあり、右側から行くよりは、左側に最初から行った方が早いのだ。
それに、1人でバス停のベンチに座ってボウっとガードレールの向こうにジャングル化している木々のてっぺんがまるで額縁のように街の風景を写しているのはとても綺麗だと思う。そして、この位置は西側だから綺麗に夕陽がみれる。今日は雨だけど。
傘に雨音をたてながらそのバス停まで歩く。高校生になって初めての梅雨入り。初夏はだいぶん前に来て、それと同時にテストも来た。そこそこの点数だったことに満足してスキップで帰った記憶がある。
傘をクルリと回してバス停に向かう。イヤホンを耳に入れて好きな音楽を聴く。ああ、ここのフレーズ。好きだなぁ。なんて思いながら。
そういえば、今日の占いは6位と悪くない順位だったな。新たな出会いがあるって。何かあるかな。学校では、うーん。友人が雨はジトジトしてるなんて言いながらお菓子をくれたな。ほかの友人と小規模女子会をした記憶がある。楽しかったけど、あれはいつも通りだし。
ガードレールの向こうにある街は、灰色の霧と透明の雨によってどんよりとしていた。なんとなく、大口をした雲に襲われているような気がした。
なに考えてるんだと、クスリと笑った。
もう少しでバス停だ。と思った時。見慣れないというか、初めて見る真っ赤な傘がベンチの隅に掛けられているのを見つけた。あの制服は、私の学校の制服じゃない。緑のチェックのプリーツにクリーム色したシャツの襟がセーラーになっている制服は見たことない。
いつもいない人に少し戸惑いながらバス停に近寄る。こちらに気づいて、ペコリと頭を下げた。私もペコリとさげた。
胸のあたりまで伸びるストレートの綺麗な髪の毛をサラリとしていた。こんなに、ジメジメしているのにサラサラとしているのは羨ましい。
屋根があるベンチに腰がける。道路側に面して透明なプラスチックの壁が曇っている。2人でジャングル化した額縁の中を見ていると
「・・・おそいな」
と静かなつぶやきが聞こえた。
イヤホンからの音楽は4曲目に入った。本当だったら、普通のつぶやきだったかもしれない。
横目で彼女を見ると、目があった。彼女は恥ずかしそうに下を向いた。
「・・あ、めだからですかね」
イヤホンを耳から外してそういえば
まさか返ってくると思ってなかったようで
「え、ええ。そうですね。本当ならばもう一本前のバスに乗れるんですけど、雨で遅延してるかもしれません」
「そうなんですか?」
「ええ。32分のバスに乗るんですけどね」
「私は、その一本後の38分のバスにいつも乗って帰ってます」
「あら、そうなんですか?どこで降りられるんですか?」
「私は、古藤野内町です」
「私は、美祢里町です」
そうなんですか。と会話をした。
あまり深いことは聞かなかったが、赤い傘を持った彼女は楽しそうに笑った。
「私、そこの坂の上にある高校の一年生なんです」
「あら。同い年?」
「そうなんですか?」
「ええ。私も、高校一年生なんです」
「わあ。同い年だ」
「ええ」
「てっきり、年上かと思った」
「そう?」
「そうだよ」
しばらくしたら、バスが来た。
バスに乗ってカードをタッチして後ろにある2人席の席に座った。
不便なためか、あまり人が乗ってない。というか、このバス停に留まる2つ前に駅についているから人が少ないのだ。
「あ、私。時雨っていいます」
「私は、水無月と申します」
「いい名前だね」
「ありがとう。時雨という名前も好きよ」
「ありがとう」
名前を褒めれるというか、そんなこと言われたことないから少し照れる。
しばらくしたら、自分の降りる古藤野内町のアナウンスが流れた。ボタンを押せば運転手さんがアナウンスをはじめる。
「じゃあ」
「ええ。また、雨の日に」
と彼女。水無月さんは手を振った。
私も振り返してバスを降りた。
なるほど、あの占いは当たっていたな。と折り畳み傘を開いて帰り道を歩き始めた。
高校に入って初めての梅雨に入った。
雨はジメジメしていてあまり好きじゃない。けれども、傘に当たる雨の音は嫌いじゃなかった。
耳から流れてくる音楽は途中から聴き始めた。好きなフレーズは聞かなかったけど、なんだかその歌じゃなくて、もっと楽しい歌が聴きたくなって曲を変えた。
雨は好きじゃなかったけど、水無月さんに会えるなら明日も雨がいいな。なんて、明日が楽しみになった。