夏が来た。
梅雨の湿気も消え去って、七月。あと少し頑張れば、夏休みだ。それでも、高校最後の夏休みは夏休みじゃなくて毎日学校に来て夏期講習があったり、受験勉強をしなくちゃいけない。
白いシャツに汗がついて肌にベッタリとくっついていて気持ちが悪い。
日焼け止めも塗って対策済みなのに今すぐシャワーを浴びたい気分だ。ピーッと笛の音と水が跳ねるバシャッという音を聞き、水泳部を羨ましく思った。帰宅部の私は、暑い暑いと呟きながら誰もいない廊下を歩いてる。しかも、連絡通路。外に出るから暑い。影になってるからといっても土の熱やトタン屋根。コンクリートからの太陽の反射が暑い。
白いシャツの第1ボタンを外した襟をつまんで風を起こそうとするけどなにも起こらないし、水色のリボンタイの紐を伸ばしても暑い。藍色のプリーツなんてこの熱を吸収している。最近人気の15センチの紺色の靴下でも暑い。しかも、焼ける可能性が大きい。灰色のベストを着ているからか?ベストは夏用で薄いけど脱げない。下着が透けるからだ。
とにかく、夏は嫌いだ。暑いし、ベタつくし。
なんとか連絡通路から別棟にある実験室についた。先ほど職員室で鍵をもらってきたばかりだ。鍵穴に鍵を差し込めば、ガチャリと音がした。部屋に入ればムワッと一瞬でムシムシとした暑い空気が体当たりしてきた。
目当てのノートをとってムシムシと暑い部屋から出る。ムシムシ感から解放されてため息をつく。早いとこ、家に帰ってクーラーを浴びたい。それか、お風呂に直行したい。カバンにノートを入れて歩き出す。もう、蝉が鳴っている。
廊下を通って階段を降りて、あの連絡通路に出れば蝉がうるさいくらい鳴いていた。汗でベタつくシャツを引っ張りながら歩く。
青い空に輝く太陽は熱を増し、アスファルトを焼く。中庭の木に生える葉の緑は初夏よりも深みを増した。白いベールもなく。ただ澄みきった青が広がる。風は吹くものの温い。もう少し、いや、あと何時間かしたらきっと綺麗な夕暮れが見えるだろう。でも、私たちの下校時間はまだ明るく。日が伸びたな。とのんびり思うしかなかった。
影の長い夏は好きじゃない。暑いし、疲れるし。それでも、この真っ青な空は好きだ。
ふと、空を見ていると眩しくなって目を細めまっすぐ歩こうとしたら女の子がこちらを見ていた。
誰だろう。やけに白い肌をした。女の子。
「・・・」
黙って見つめているから、コテンと首を傾げた。
「・・・」
とりあえず、そのまま進んでいく。あと2歩くらいでその子がいる教室棟への階段に近づくところで声をかけられた。
「・・空に何かあった?」
「え、いや。なにも」
「そう・・」
「・・・なんで?」
「面白いことを探しているから」
びっくりするくらい綺麗な可愛らしい笑みをした。
「面白いこと?」
「うん。面白いこと」
「探してるの?」
「うん。なにかないかなって」
空と同じ蒼い蒼いシュシュをした肩くらいのポニーテールを揺らした。
「そう・・」
私はそのまま通り過ぎようとして、頭を少し下げた。その瞬間、手を握られ少し後ろに倒れそうになった。
「なにっ「面白いことしようか」は?」
私の言葉を遮って言った。
ニコニコとなにか楽しそうな顔をしながら。長いポニーテールが揺れる。
暑い。とてつもなく暑い。風も申し訳ない程度にしか吹いてない。早く帰ってエアコンの効いたリビングのソファで寝転ぶか、シャワーに直行したい。それから、アイスを食べたい。蝉がうるさいし、コンクリートに反射する日光も暑い。日焼けはするし、倒れそうにもなる。
「・・面白いこと?」
「うん。面白いこと」
その子は微笑んだ。
白い肌のその子に魅せられて、蝉の声が聞こえなくなった。
茶色の瞳は。プールに反射する水のように輝いていた。
「・・・あなた、誰?」
そもそも、この子は誰だ?同じ学年なんだろうか。同じ学年でも名前も顔も知らない子くらいいる。私の学校は女子校のくせにマンモス校並みに生徒が多いから。
その子は少し驚いた顔をしてから、クスリと笑って
歌うように言う。
「幽霊」
ポニーテールが風に仰がれて、青い空に流れた。
暑い夏が始まった。
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