インペルダウンにて

ポタリともカランとも鳴らない
ここは海底監獄、インペルダウン。レベル6。
身体に巻かれた海楼石のせいで、身体が生ゆるい
力も入らない。
あのクソ麦わらと裏切って、裏切って、コラソンの仇を取りに来たロー。
いつ思い出してもイライラする。俺のファミリーをコケにして、殺して、怪我させて、オレの全てを壊してきて
ガシャンと錠を揺らす
上からの刺客といい、相変わらず何も分かってないバカばっかりで嫌になる
世界会議が始まって、世界が揺らいでる。どこにいてもあの麦わらがいる。ムカつく。
カツンと、音がないここに小さく音が響く。首だけを持ち上げればスルッと新聞が差し込まれる
見たことない女だ。ドミノではない。あいつはこんなところ来れるほど強くも偉くもない
ここの看守どもは、サングラスをしてるのにこいつはしてない。そのせいで瞳と目が合う
他の奴らようなハイカットブーツの紐が少し揺れる
なかなか受け取らないオレに痺れを切らしたか。新聞をゆらゆら揺らす。声は出さない。

「フッフッフッ。見ねぇカオだな」

オレの声に表情も対して揺らがない。そうですねと言いたげな顔してやがる

「声が出ねぇのか」

俺の問いにも声を出さない。
マゼランに話すなと言われたのか。何も言わない。腕が疲れたのか、新聞を引っ込めて、しゃがんでる足に乗せる。足首を半端に曲げてるからか、少し揺れて血の巡りを良くしてる
のろりと動き上半身を持ち上げる。改めて向き合う。サングラスはインペルダウンのワッペンが貼ってる胸ポケットに掛けていた。
座ったのになかなか手を伸ばさず観察してくるオレに痺れを切らしたのか、膝に手をつき。よいしょと立ち上がった。ショートパンツからは生足が伸びる。傷が一つもない。身体も細い。なぜこんなやつがここにいる

「おい。お嬢ちゃん。名前は?」

オレを全く恐れない。あのガキ供と同じように。だが、オレに歯向かう様子は無い。
オレの質問を再度無視して、ため息を漏らす。少し屈んでオレに目線を合わせ、制服の一部である革手袋をはめた細い指で、牢の隙間から新聞を差し出す。
オレの質問をオールスルーするこいつとこいつの動きを無視するオレ。
面白くなってきて笑うと、なぜか向こうも楽しそうに微笑んだ
綺麗な笑みだ

「もう一度きく。お嬢ちゃん名前は?」

なんでこんな場所にいる。再度同じことを尋ねる
女はまたため息をついてくる。
声がてないのか、はたまた会話厳禁なのか
オレの笑い声を聞いて、諦めたように綺麗な小さい唇が揺れる

「早く受け取れよ。ドフラミンゴ」





##





ドフラミンゴ

元王下七武海の1人で、元ドレスローザ国王。元懸賞金3億4000万ベリーで、元ジョーカーとして闇のカリスマ。そして元天竜人
そんな凶悪な奴を前にして、一言発したのは若く細身の女
あまりに流暢なタメ口にドフラミンゴも一瞬呆気を取られる。

「フッフッフッ。随分と口を聞くじゃねえか」

オレの質問を全て無視しておいて、やっと話したと思えば、差し出してきた新聞について
久しぶりに面白いやつに会えて笑いが止まらない。オレのことを恐れずに呼び捨てなんざ、いい度胸だ。

「なんだ。お前。声が出ないのかと思ったよ」

特に引っかかる様子もない口調で放った一言。
それに突っかかっても、微笑んでいるだけだ
変わらない態度に少し気分が悪くなる

「フッフッフッ。そっち側だからって安心してんのか?」

見下すわけでもなく、観察しているわけでもない。ただただ、オレが新聞を受け取るのを待っている
だが、そいつも受け取って仕舞えばきっとこの女はオレのことなんざ気にせず立ち上がり踵を返すだろう。それじゃあ、面白くない

「なぁ、たまには毒野郎以外で会話がしたい」

そういうと、少しびっくりした顔をしてまたため息
立っているのが疲れたのか、膝を伸ばす。腕を組む。新聞がカサリと音を立てた
口を開く気配はない。

「お嬢ちゃん。名前くらい教えてくれよ」

笑いながらそういえば、少し考える素振りをする。
オレを見ながら数秒考え、口を開いた

「新聞。受け取ってくれたらいいよ」

口が悪いのかと思っていたが、別にそういうわけでもないようだ。
軽く友人に言うように会話をするこいつの話術はどこか楽になる

「そいつぁ、ダメだな。受け取ったら帰っちゃうだろ」

確かにと笑う女。

「だが、それをそのまま連れて帰るのこともあるのか」

また確かにと笑う。
女の笑みに対してこちらも笑みが深くなる。
一筋縄ではいかなそうだ。無限地獄にも飽きてきたところだ

「まあ、いい。これからオレに新聞を渡すのはお嬢ちゃんか?」

肯定とも否定とも取れる笑顔をする
なかなか弁が立つ。おもに表情だが

「お嬢ちゃんが来てくれるってンなら、いい子にしてなちゃな」

ジャラと音を鳴らしながら手を挙げる。
その手に新聞の端が触れる。チラリと見える一面は世界会議について

「またな」

サングラス越しで女の瞳を見る。
薄暗い独房には、マゼランが腰掛けるテーブルと椅子、電々虫が1匹と壁にいる映像電々虫が見える範囲で1匹。
新聞がなくなった手の手袋を片方取ると、中指に太い指輪が見える。意外な趣味に口角が上がる。指輪を親指で擦る。一瞬赤い何かが見えるが、手袋をはめていたから気のせいかもしれない。なんせ手袋も赤黒い。
女はこちらをチラリともせずに踵を返していく。気になることがこのつまらない独房生活に降ってきた。新聞だけでも退屈しないのに、表情で会話する女とのコミュニケーションに笑みが止まらない。


##



カツンと音がする
新聞係の女が来る合図だ。あれから一回ほどしか顔を見てない。前回も同じように新聞を伸ばしてきて、それを受け取る前にオレが気になることを話す。だが、話し始めたあたりで女の所有する電々虫が鳴り響いた為新聞をオレの手が届くところに放り投げて消えていった。仕事人間らしい

「よぉ」

前回より会いに来るのが少し長かったような気がする。
変わらない姿の女は相変わらず新聞を伸ばしてくる
学習能力がないのはどっちだ

「お嬢ちゃん。相変わらず忙しそうだな」

いつものように軽口を叩く。起き上がったのに新聞を取らずに胡座かいた脚の上に手を乗せるのを見て、いつものため息をつく
やはり3回目だからか、屈んだ脚を伸ばし、マゼランが座る椅子に腰掛ける。脚を組む。

「フッフッフッ。そう怒るな」

オレが慰めてやれば、ため息をついた。
腕組みをしてフワリと笑った

「なぁ、お嬢ちゃん。海軍は忙しそうだな。あちこちで海賊が暴れてるらしいじゃねぇか」

新聞はいつも海賊について書いてる。誰と誰が衝突してどうなったとか。拾えてない情報も含めると海軍は首が回らないだろう

「海軍だって、大将を一新してから新体制になれるのが大変なんじゃねぇか?フッフッフッ」

相変わらずオレの質問に答えず軽く笑ってる
湿って暗いここからは明るい世界のことなんざわからない
新聞を頼りに会話をする。わかってるのか分かってないのか雰囲気からも読み取れない。
藤虎を一瞬思い出して、青筋が立つ。大将か

「フッフッフッ。いつの時代も新しいことは嫌がるものだ」

笑っていれば、女が前屈みに背中だけを伸ばし、新聞を差し出す。
お喋りは終わりか

「なんだ、久しぶりなのに随分と寂しいことをいう」

「私は海軍所属じゃないからね、知らないんだよ」

久しぶりの声に、ハッと女を見る。
首を小さく傾けながら質問待ちの顔をする

「海軍じゃないのか」

「正しくは、世界政府所属です」

その言葉には大きな意味があることをオレは知ってる。曖昧にせず言えたのか
なるほど。だから、大将も海軍事情も知らない

「世界政府所属とは、驚きだな。随分と若そうに見えるが」

オレよりも一回り、下手したら二回りも下に見える。
少し驚いた顔をして納得する女の頷きに眉間に皺を寄せる

「あなたより2、3個しか歳は離れてないですよ」

冗談だろと鼻で笑うが、近い歳だからこんなにも堂々としてるのか

「名前は教えてくれないのに、歳は教えてくれるのか」

逆だろと笑うと、女もまた確かにと軽く笑う
悪魔の実のせいか。だとしたらなんの実か
聞いて答えてくれるようにも思えない。
ただ、静まり返っているこの独房にはスローペースな会話がちょうど良かった。
3週間か1ヶ月くらい前のコミュニケーションからみて、海賊相手に敬語は使わないけど年上だから一応使ってるのか、敬語混ざる。真面目なやつなのかもしれない

「フッフッフッ。世の中にはまだまだわからないことが多いな」

楽しそうなオレを見て、女も楽しそうな笑みを浮かべる
会話がちょうど終わったというように、新聞を再度差し出す。
しょうがないから受け取ってやる。

「またな、お嬢ちゃん」

受け取ったのを確認すると椅子から立ち上がる。
オレの挨拶に一度顔を向けてくる。久しぶりに瞳を見る。ぼんやりと暗いここでは瞳の詳しい色はわからない。
踵を返し振り向き気味に手のひらをヒラヒラさせる
軽い口調に軽い態度で面白い
またいつ来るのか楽しみだ