「無理に笑わなくていい」

燦々と照りつける太陽はいつのまにか夕陽に変わっている。夕暮れを代表するような髪色をした彼は片腕なのに強くて、強いという言葉じゃ彼の腕を表し切れないから度し難い。
「よくやった」
柔らかい声を持つ彼にそう微笑まれる。片手につけた3番線の額側をなんとなく見つめる。目線を合わせるのが苦手だからどこを向いたらいいのわからない。逸らすのは違う、でも見つめる勇気はない。
「悪かったな。助けてやれなくて」
彼の言葉が私の周りの状況を総まとめする。滅んだ都市はポーネグリフに匹敵する文化だった。ゾウという昔交流があった国は千年を超えると言われているが、こちらはどのくらい続いていたのだろうか。
「これから、どうする」
「どう、しましょう。この島の暮らし以外を知らない私が、他所でやっていけるとは思えません」
「まあ、難しくはあるかもな。なんせ、その見た目だ。追われる」
彼の言葉になんとなく自分の顔を触れる。言葉の通りだ。神の目と言われたこの神秘的な瞳孔と色合い。まるで光を反射させる真珠みたいな瞳。隠したとしても暗闇で淡い蒼い光を織り出す瞳は隠し切れないだろう。
「ここで果ててもよかったのに」
「おい、なんてこと言うんだ。生き残ったなら生きていかなちゃダメだろ」
「生き残っても、1人であるならば死んでるのと変わらないです。1人で戦える術もない、生きていける自信もない、何も無くなってしまったなら同じように滅んだほうが幾分幸せです」
「思ってもないことを言うな」
「思ってます。だから話してる」
「ほら、こっち見ろ」
「赤髪さん」
「シャンクスだ」
「しぃやんぐす」
「ハハ。そっちの舌回しだと言いづらいよな」
「しぃやんぐずさん」
「赤髪でいいよ」
へこたれた私の前にしゃがみ込んで目線を合わせてくれる。逃げれなくなって初めてちゃんと瞳を見た。夕陽みたいに輝いてるんだな
「死んでもいいなんて言うな。俺が悲しい」
「私のこと、そんな知らないのに?」
「知らなくてもだ。お前だって、俺が死んだら悲しいだろ」
「悲しい、かな。驚くほうが強いかも」
「そこは悲しいって言うんだよ」
「悲しいとは、悔しいと何が違うんですか」
ふとした疑問を彼になんの文脈もなくぶつける。彼は少し驚いて考えて諦めたように笑う
「まあ、そう難しいことを考えるな」
「悲しくて悔しいです」
目線を地面に移して告げる。ああ、なんだか泣きそうだ。瞳にゆらゆら水溜りができてるのがわかる。瞳から落ちないようにしてたのに、うっかり瞬きしちゃって地面に数滴をつくる。ああ、この感情をなんて表したらいいんだろう。
悔しい、悲しい、ムカつく、腹の底から声を出したい。でも言葉が思いつかない。空気が肺に溜まる。赤に似た感情が私の体を駆け巡って、地面につけてた指に力が入る。怒鳴りつけてやりたい、誰に、殺してやりたい、誰を、噛みちぎってやりたい、強く抱きしめて欲しい、撫でて欲しい、呼吸をさせてほしい
「ほら、こっち見ろ」
泣いてる顔を悟られたくなくて渋ったのに、簡単に顎に手を添えられて持ち上げられる。
「泣くことを隠すの悪いことじゃない」
声を出して仕舞えば溢れてしまいそうで、大丈夫と言えなかった。その代わりちょっと微笑んでみたけど、彼は少し眉間に皺を寄せて柔らかい顔をする。
「無理に笑わなくていい」
そう言われるから弱くなって結局涙が頬や鼻筋をつたう。
「いいんだ。それで。泣けると言うのは人である証拠だ」
どうしようもなくなって彼の顔を見つめる。
「よかったら、俺と来ないか。力がなくたって、それ以外で強くなる方法くらいある。この地を離れたくないなら無理強いはしない。でも、この地で死ぬなら連れていく」
「い、一緒に行って、困らないですか」
「困るもんか。大歓迎だ」
「私、ほんと、何もできなくて。海にも出たことないし、外界を全く知らないから」
「いいから。行くか行かないかだけでいい。あとは任せろ」
「じゃあ、一緒がいい」
「決まりだな」
柔らかく微笑んで私の手を取る。
「砂だらけだな。あとで風呂に入るといい」
大きくて分厚い手のひらが私の小さい手を壊れないように触れる。その後ろで彼の仲間たちが私を歓迎してくれる。
「しぃやんぐずさん」
「赤髪でいいって」
「いつか、呼べるようになりたいです」
「嬉しいこと言ってくれる」
「しぃちゃんクス」
「ハハ。可愛いな」
「あなたの名前です。呼びたい」
私の言葉を聞いて少し呆気に取られたような顔をする。それでも、すぐ柔らかく微笑んでくれて手のひらを優しく包んで引っ張ってくれる。
「いつかでいいさ」
夕陽に似た髪色が風に舞う。
優しい眼差しに見惚れる。ああ、あなたのために生きてみたい。手のひらに少し力を入れると彼は私を見たまま握り返してくれた。
燦々と照りつける夕陽は沈んでて今日の終わりを告げる。また明日、彼の名前を呼んでみようと思う。