お菓子が1つ

「トリック オワ トリート」

「オワだっけ?」

「オラ?」

「絶対違う感じがする」

幼馴染にお馴染みの言葉を言われて、なんだか違う感がハンパなく感じた。
幼馴染は相変わらず、学校に勉強する気はなく百均で売っているカボチャのお化けをモチーフにしたプラスチックの容器を片手にあちこちを歩いていた。

「まったく。今日の荷物はそれだけ?」

「まさか。お弁当持ってきてるよ」

「そういうこと言ってるんじゃないんだけど」

まあ結局、自分も楽しんでいるわけで。

「ていうか。ハロウィンは明日でしょ」

「明日は土曜日」

「ああ、」

金曜の今日が仮のハロウィンというわけか。なるほど

「で、お菓子」

「生憎だけど、持ってない」

「は?マジで?」

「マジで」

「忘れてた?」

「忘れてた」

と笑えばドン引きされた。え、そんなに?

「その入れ物。ジャックオランタン?」

「そそ」

「かわいいね」

「せやろ」

ふふん。と自慢げな彼女をみる。いや、お前は褒めてない。

「てか。ジャックオランタンってさ」

どんなやつ?と聞けば知らないと返された。
確か、お化けを騙していたから罰を受けたんだっけ?
この世にもあの世にも行けない。ただ彷徨いながら死者を道案内するとか。あれ、矛盾してる。

「ジャックオーランタン」

「伸ばすっけ?」

「知らない」

英語は苦手だ。

「てかさ。作ってよ」

「なにを」

「お菓子」

「やだよ。面倒な」

「あれ食べたい」

「なに?」

「カボチャのタルト」

「いや。それ買ったほうがいいやつ」

「えぇ。前に作ってくれたじゃん」

そうだっけ?と首を捻る。
チャイムがなって幼馴染とはさよならをした。家に帰ればきっとレシピがあるはず。
学校終わりにスーパーに寄ってカボチャとネット調べたタルト生地に必要なものを買いに行く。
普段から料理をしないので、カボチャの選び方を知らない。どれがいいのか。でもそんなに使わないのか。うーんと捻ってると

「それ、そのカボチャがいいよ」

どこからもなく声がかかる。
声をした方を見ようと顔を上げたら綺麗なお姉さん。切れ目な彼女がニコニコしながらこっちを見ている。

「ああ。これですか?ありがとうございます」

といえば。いえいえと言ってニコニコしてる。気味が悪くなって離れようとしたら

「あれ」

ここはどこだ。
近所のスーパーに寄っていたはず。よく見たら制服だってセーラーじゃなく、某映画に出ていそうな洋風なブレザー。ワインレッドのブレザーに淡い黄色のシャツ。ネクタイは黒い。スカートは深緑をベースに、赤と黄土色と白の線がチェック模様を作っていた。かわいい。いや。そうじゃなくて

「そのとったカボチャはあそこのカゴに入れてね」

「は、はい」

だめだ。よくわからない。どこだここ。あたりを見れば、スーパーじゃなく畑っぽいところ。私以外にも女の子たちがいた。みんな楽しそうにカボチャを畑から採っていた。
誰1人知らない。夕暮れの空はとても綺麗でオレンジにブルーベリーのキュラソーを垂らしたようだった。
周りを見渡すと、灰色のレンガブロックでできている建物を見つける。すごく高く広いからきっとここは学校だと確信した。
建物の他には、プレハブらしきもの。きっと他の野菜を育てているんだろう。他には気味が悪そうな森が広がる。きっと朝なら綺麗だと思う。カラスの鳴き声。カカシが立ち並ぶ。みんなパンプキンの顔をしてる。

「よいしょっ」

さっき選んだカボチャを他のカボチャがゴロゴロ入ってるカゴにいれる。

「おお、いいやつ選んだね」

誰だと顔を上げれば、パンプキンの顔をしたカカシ。カカシって話すの!?

「いい調子。いい調子。今年はうまそうなのができるねぇ」

なにを作るんだろう。頭にハテナを浮かべていると

「邪魔」

後ろから声がかかった。

「え、あ、ごめんなさい」

横にずれた時。

「律?」

なんと幼馴染がいた。知り合いがいたことに嬉しくなった。制服も違うし。雰囲気も違うけど

「なに」

冷たい声に一瞬固まった。

「え、いや」

なんだ。全く違うぞ。
私が声をかけたら嬉しそうな顔をするのに。冷たい目付きを向けてきた。
私が固まっているとため息をついてカボチャをカゴに入れると去って行った。
なんだ、全く別人だ。別人なのに同じ顔。同じ背丈。本人にしか見えない。
よくわからないまま授業らしきものは終わった。
みんなと同じ方向に進めば食堂らしき大広間。長椅子と長机が横に三列に並ぶ。ロウソクとシャンデリアが浮かんでいる。すごいと上ばかり見てたら

「なにか上にある?」

と女の子が声をかけてきた。

「ふえ?」

間抜けな声が出たが、目の前にいる彼女を見た。
腰を少し折って私の顔を覗き込んでくる。毛先が少し巻かれていてサイドには三つ編みを垂らして真紅のリボンをしていた。ネクタイには同じ緑色したストーンがつくネクタイピンをしていた。これは、学年分けの印なのかもしれない。

「え、いや。シャンデリアたちが」

「シャンデリア?」

「浮かんでるから」

「?いつも浮かんでるじゃん」

何言ってんの?と顔をされて焦る。
本当に知らない。どこだここは。パラレルワールドか?だとしたら元の世界はどうなってる。ここにいる私は私なのか。

「まあ、いいや。ご飯食べよ」

女の子は私の手を引っ張ると適当に真ん中の席に座った。
キョロキョロと周りを見る。某映画のように前には先生らしき人たちが並ぶ。先ほどの綺麗な女性もいた。きっと元の世界と同じ2年生だ。違うのは女子校だということ。

「静粛に!!」

ベルがチリンチリンと鳴り響いた。
つばの広い魔法帽を被った魔女のような綺麗なおばあちゃんが前に立っていた。

「明日は待ちに待ったハロウィンです。明日朝から仕込みが始まります。女性として。乙女として。心を込めて作らなくてはなりません」

ハロウィン。知ってる単語を聞いて心がざわめいた。作るってなんだ。何を作って。何をどうするんだ。

「明日は全員。仲間であり敵です。お互い清く、美しく、腹黒くをモットーに頑張りましょう」

なんだかよくわからないモットーだったが、はい!と綺麗な返事とともに、「アーメン」と聞こえる。急いで私もアーメンと呟くと大皿に乗ったさまざまな食事が出てくる。チキンにサラダ、ポテト、肉料理に魚料理。美味しそう。誘ってくれた女の子に習って自分も好きな料理を手持ちの白い皿にとっていく。うまい。
各自食べ終わるともう一度「アーメン」と言って立ち去っていく。言った子の席から机に飲み物が消える。魔法だ

「あ、のさ」

お腹いっぱいになってよくわからない青色の飲み物を一口飲んで深呼吸。
人がまばらになった食堂で女の子に話しかけた。

「うん?」

聞きたいことを聞こうとした時。女の子の向こうから律が歩いてきた。
でも、律はこっちを向くことなく歩いていく。

「あー、リツね。今年もあの子が優勝かもね」

「え?」

「ん?だから、今年もミス・パンプキンになるかもって」

だめだ、わからない。

「あ、のさ。そのことなんだけど」

「ん?」

彼女は大食いなのか。細い手首でひょいひょいとチキンをとっては食べている。

「その、ミス・パンプキンとか。作るって何?」

と聞けば、何言ってるの?って顔をされた。バレるも思い怖くなった。

「マジで、それさえも記憶ないの?やっぱり記憶を戻す薬草とか魔法かけてもらった方が」

痛いし苦いけど。と険しい顔をしながら言った彼女に

「い、いや。大丈夫だよ!きっと!うん!大丈夫!そのうち思い出すから。でも、一応聞いていい?」

「えーとね」

そう言って彼女は指についたチキンの油を舐めて手をパンパンと払った。

「明日は、ハロウィンね。それはわかるでしょ?明日の朝からおやつ作って、男性たちに呪文をかけて、あげてくるの」

「あげる?」

「ほんとに、ヤバいんじゃない?今日取ったカボチャを使ったり、芋を使って色々お菓子をつくのよ。もちろん、甘ーいチョコだったり、クッキーもあるわ」

「それをあげるの?」

「そう。呪文を言ってからあげるの」

「呪文?」

「そうよ?忘れたの?」

「・・・」

「まあ。いいわ。教えてあげる。呪文は・・」

青色をした飲み物を飲んで一息つく。楽しそうに笑うと猫のように八重歯が見えた。

「Trick or Treat」




呪文を教えてもらって2人で席を立つ。
彼女と歩きながら全て教えてもらった。ハロウィンの日はお菓子を大量に作る。それを持って下界に行き男性に呪文をかけるらしい。ただ私が知ってるのは違って。トリートと言われたらお菓子を普通はお菓子をもらうが、あげるらしい。トリックと言われら

「魂を食べるの」

「魂・・」

「おじさんなんかダメよ。若い人かカッコいいおじさん。あとはダメ美味しくないし」

なんとも物騒だが、魂を食べるか。じゃあ、お菓子をあげていこう。

「ただね。お菓子って言ってもただのお菓子じゃないわ」

「違うの?」

「各々準備するのよ。媚薬とか」

「びやく・・」

つまり。トリートと言われ人にあげるお菓子は後々魂取りに行きますって言ってるようなものらしい。

「こんな、魔女しかいない学校なんて飽き飽きするでしょ?だから、この日は特別。ね」

といたずらっぽく笑われても。私は普通のお菓子を作ろう。
いつのまにか寮のようなところについていた。みんなまだ制服を着ていたが壁にもたれたり各々楽に話していたりしていた。ブレザーよりも赤みのあるボルドー色した絨毯の上を歩く。壁にはシックなドアがずらりと並んでいた。

「こんなもんかな」

と言って1つのドアの前に止まった。ドアには金に名前らしきものが彫ってあった。この子の名前は、サラ。そうかサラと言うのか

「寄ってく?」

ぼうっとドアを見ていたから寄りたがっているように見えたのだろうか。私は首を振ろうとしたが、甘い声がしたからそっちをむけば

「リツ・・」

相変わらず、スラリとした手足を動かして歩いていた。ブレザーはセーラーと違って上半身のスタイルがわかりやすいと思う。ブレザーの前を留めてないから見える腰の細さ。プリーツに入るシャツのシワから見えるウエストの細いこと。首の長さ。

「人気だねぇ。王子様であってお姫様だもんねー」

よく見るとリツの周りには誰もいない。後ろや前から熱い視線と甘い声が聞こえてくるくらいだ。
注目を浴びているのに誰も隣にいないのがとても寂しく見えた。
ここは2年のフロアなのか。ほかの色をしたネクタイピンが見つからない。
私の後ろを通りすがる。冷たい。まるで空洞のような瞳はなんだか不安になった。

「人気だよねー。あんなに綺麗だと男の人も放っておけないだろうなぁ」

サラさんはそういうとおいでと部屋に招いてくれた。

「リツは、人気なんだ」

「そりゃあね。可愛いし美人だし。スタイルいいし。髪の毛も美しいし、そして、危うい感じね」

「ほう」

サラさんの言葉を聞いてわかる気はするが、私が知ってるのは律はあんなのじゃない。明るくて、元気で、放って置けないのは間違いないけど心配のベクトルが違う。

「ミス・パンプキンは、願いが叶うんだよ」

「願い?」

「そそ。待遇が良くなるのはもちろんだけど。1つだけ願いが叶う。でもね、ちゃんと明確に言わないと意味がないのよ」

「なんで?」

「まあ。魔法界なんてわりと呪文以外は全部テキトーだからね。例えば、運命の人に会えますよう!とか好きな人と両思いになりますように!とか言ったとして。願いは叶うのよ?会えるし、両思いになるし。でもね、会わしただけ。とか叶っただけ。とかで、それで付き合えるかって言ったらそうでもないのよ」

「うわ。意味ないじゃん。それ」

「まあ、結局は勇気が必要ってことよね。話しかけるにしろ、行動するにしろ。ただ、そのあと失恋とか悲しいことは起こらないってことね。未来が見えてる分、動きやすくはなるけど」

「不安だね」

「そ」

サラさんの話を聞いていて、勇気という言葉になにか引っかかった。
その言葉に引っかかって、ぼうっとしている私を見て、紅茶を飲んで、

「まあ。明日はハロウィンだからね。そうそう、ローブ。羽織るの忘れないようにね」

と言った。そんなのあったかな。部屋に戻って探してみよう。そう思い

「ありがとう。お邪魔しました」

「うん。いつでもおいで」

そう言って見送ってくれた。
よくわからない世界にいきなり来てしまったが、とりあえず、ローブを探すところから始めよう。郷に従え。とりあえず周りに合わせないと。あとは戻り方。私はほかの子たちのように媚薬を作れなければ魔法も使えない。現代人よろしく、スマホをポチッとして媚薬を手に入れるの方が早い気がする。ミス・パンプキンになって帰らせてもらった方がいいと思うが、難しい話になりそうである。戻ってスーパーで買うものを買って。それで、って、あれ。私


なんで、買い物してたんだっけ