部屋がどこだかわからないことを思い出した。自分の名前を必死に探すが見つからない。
困ったな。わりと広い廊下。ズラリと並ぶドアたちを眺めているから、目が疲れてきた。ああ。くそ。サラさんの部屋も分からなくなったぞ。とりあえず、サラさんの部屋から右側に歩いてみるがもしかして左側だった?まじかよ。でもなぁ。まだ分からないし
「なにしてるの?」
声をかけられてそっちをむけば、今度はサラさんではない女の子。
「へ、部屋が見つからなくて」
威圧感のある子だな。眉間のシワがやばいし。なんか怒ってる?
「ああ。今日は移動日か」
「移動日?」
ふと聞きなれない言葉を繰り返してしまった。
しまった。移動日を知らないことを怪訝に思われるかもしれない。
「今日は、移動日だよ。忘れてたの?」
ため息とともになぜか深くなる眉間のシワ。
「わ、忘れてた」
「じゃあ、早く唱えなよ」
「え?」
「呪文」
「じゅもん」
「忘れたの?」
「め、面目無い・・」
私、俯いてボルドーの絨毯と赤茶色のローファーを眺める。黒の生地に白の線が一本、足首についてる靴下がプリーツの裾からチラチラ見える。
ため息とともに
「唱えるって。普通に聞けばいいだけでしょ」
そう言ってドアに向かって
「ちょっとお尋ねします」
と言った。独り言を始めたと思って。この子やばいんかなと思った。
「この子の部屋はどちらかしら」
そう言った、瞬間。ガタガタと音を出してドアが揺れた。
「見つかったよ」
次の瞬間。絨毯が動いた。いや、正確には私が動いた。
「御礼、いいなよ!」
遠ざかっていく彼女がそう言う。
なにがなんなのかわからなくて頭が回る。でも、それも一瞬で気づいたら私の名前が彫ってあるドアが前にある。
どういうことだ。もう、いい。突っ込んだら負けだ。ここは魔法があるんだから
始めて訪れる自分の部屋。洋風の作りだった。シックな木目調が多く。こげ茶と真紅や深緑の合わせはわりと嫌いじゃない。
白いベットが部屋から浮いて見える。クローゼットを開けばローブがあった。これこそ、某映画だ。
杖を所有してないところから見て、杖は使わないと思う。じゃあ、どうやって魔法を起こすんだろう。
そういえば、みんな言葉を使っていた気がする。いただきます。ごちそうさま。さっきのドアに話しかけるのだって。そういえば、サラさんは紅茶が飲みたいと言ってポットに話しかけていた気がする。
言葉を使えばなんとでもなるのか。わからないが、ポットに話しかけてみる。
「あ、あの。こ、紅茶が飲みたいです」
しかし、なにも起こらなかった。
おかしい。ポットを開けて見てもなにも起こらない。
「紅茶が欲しいんだけど」
なにも起こらない。やはり自分は魔法が使えないらしい。となると、本当に私はここの住人じゃない。そりゃそうだと言いたいが、そうもいかない。ならば、あの世界では私がいなくなってどうなってる。お母さんたちは?そもそも、私はなぜここにきたのだろうか。よくわからない。なにもわからない。考えすぎて頭が痛くなってきた。
ベットにダイブすればフカフカのお布団は私を優しく包んだ。
気がついたら、朝になっていた。
朝と言っても、早朝らしく。まだ日が昇ってなかった。部屋をぐるりと見渡すと壁に時計がぶら下がっていた。
「4時か・・お風呂はいろ」
ベットから立ち上がってお風呂に入る準備をしようとして、ふと気づく。クローゼットの中にある下着も、靴下も、気にしなかったがそこにあった。サイズもぴったり。まるで私がここに住んでいたかのようだ。なんとなく怖くなって急いでお風呂に入った。
お風呂から出て服を着てドライヤーを探す。あれ、ドライヤーないのかな。困ったな、髪の毛ビショビショなんだけど。
「おはようございます。みなさん。今日は、ハロウィンです。朝ごはんを食べて、お菓子を作りましょう」
と放送が入る。スピーカーなんてないのに。不思議。とりあえず、髪の毛のことは後回しでいいや。そう思って廊下に出ればわらわらと生徒たちがであふれていた。
「おはよー」
「おはよー」
なんとなく挨拶されたから、挨拶をした。
おかなが空いたな。朝食はなんだろう。
「てか、なんで髪の毛濡れてるの?」
「え、あ。お風呂はいってて」
「乾かさないの?」
「いや、ドライヤーがなくて」
「ドライヤー?」
しまった。怪訝そうな顔をされて気づく。バレてはいけない。そういえば、なんでバレたらいけないんだろう。某映画みたいに、人間は虫ケラだ!みたいな考えしてるのかな
「え、いや。ちょっと。寝ぼけてて」
「風邪ひくよ?」
「あー、うん」
「タオルは?」
「へ、部屋になら」
「タオルで拭き取らないと」
「そ、そうだね。ありがとう」
そういうと部屋に戻ってタオルを取った。よくわからないが、とりあえずタオルを持って行こう。そう思ってタオルを片手に部屋を出れば、先ほどの子が待っててくれてたみたいだ。
「ほら、はやく。お腹空いちゃった」
「あ、うん」
歩きながらタオルで髪の毛を吹いていると
「唱えないの?」
と言われた。
「え、いや。拭く派で・・」
「へぇ。でも、唱えたほうがいいよ。もうご飯だし」
と言われても。唱えても魔法が起きない。渋っているように見えたのか、その子は
「ほら、被って」
とタオルを私から取って、頭にかけてくれた。
「お願いしたいんですけど。いいかしら。この子の頭を乾かしてあげていただけますかしら」
そう言った途端にタオルが髪の毛の水分を取ってくれた。髪の毛は乾いて、タオルは重くなっていた。
「ありがとうございます。でも、あなたが大変ね」
と言って、窓の外にタオルをかざすと
「すみませんが、乾かしていただけるかしら」
と言った瞬間、風が唐突に吹き上げた。びっくりして顔を覆った。
「ありがとうございます」
と言って、私に向かって
「ほら、タオル。ついでに片付けておいでよ」
と言われてタオルを受け取る
「あ、ありがとう」
「ん。どういたしまして」
受け取ったタオルは乾いてて、わりと適当にぐしゃぐしゃのまま乾かしたのに普通に干したように綺麗になっていた。
待たせていた子と食堂に向かう。名前はわからないが夕食と同じように席に座って、ベルの音がする。
「おはようございます。みなさん。今日はハロウィンです。いつもよりも起きる時間がはやく、寝ぼけている方をいらっしゃるかと思われますが、いけません。乙女たるもの、いつ、何時でも、その方に仕えるよう、時間に合わせなくてはなりません。今日はたくさんのお菓子を作り、17時に下界に向かいます。みなさん、朝ごはんをきっちり食べて倒れないように」
と校長が言って。はい!といい返事がする。そして、
「アーメン」
と言ってご飯を食べる。
相槌を打ちながらご飯を食べる。朝ごはんは夕食よりも料理数が少ないが、焼きたてのパンは、クロワッサン、ミニトースト、ミルクパン。オムレツに、ハム、ソーセージ。まるで、ホテルの朝食ビュッフェだ。
「ごちそうさま」
「アーメン」
「あ、アーメン」
「ごちそうさまって、随分昔の言葉を使うんだ」」
「ああ。そう?」
「地方がそうだったの?」
「あ、うん。そうだよ」
「ふーん。わりと遠くから来たのね」
なんだかよくわからないが、ごちそうさまは地方のことで昔の言葉らしい。
「あ、おはよー」
「おはよう」
「おはよ」
食堂から調理室へ向かう途中、サラさんに会った。
「マイは、今日何作るの?」
一緒に朝食をしていた子は、マイというらしい。少し怠そうにしているが、青い瞳が綺麗な子だ。
「クッキーかな。無難だし、いっぱい作れるし」
「あー、いいね。私は、そうだなぁ。チョコがいいな。クッキーでもいいし、なんでもいいからチョコを使いたい」
「いいね。君は?」
「私?私は、」
好きなお菓子でもなんでもいいから言えばいいのに。お菓子を作ることになぜか引っかかって、ふと言葉が漏れた。
「カボチャのタルト」
作ったこともないカボチャのタルトをなぜ口にしたのかわからない。ここに来た時にカボチャを採取してたからか。
「いいねぇ。人気だよね。でも、時間かかるから頑張ってね」
「レシピは、お願いしたらもらえるから。まあ、それみて作ればいいよ」
と2人は優しく言ってくれた。
「ありがとう」
調理室は家庭科室と違って本格的だった。テレビでたまに特集を組まれる、調理師専門学校のような銀色の世界だったが、部屋は広く、一人一人に大きな机が用意されていた。席は自由らしく私たちは並んで場所を決めた。
「さあ。始めます。各自頑張るように。心を込めてね」
と先生がウインクをくれた。綺麗な先生が多い。
「さてと。すみませんが、ご協力をお願いします」
とサラさんが言ったのに続いて、マイさんも
「じゃあ。クッキーを作るので。すみませんが、薄力粉を・・」
とボールを持ち上げて話しかけてる。
1つ、わかったことがある。ここでの魔法は、言葉だ。きちんとお願いをする。美しい女性として言葉を気をつける。なるほど。そういうことか。
私もみんなに習ってまずは、レシピを出すところから始めてみよう。さっき、2人がレシピを唱えて出していたから
「すみませんが、カボチャのタルトのレシピをいただけませんか?」
そういえば、ぽんっとレシピが出て来た。
「ありがとうございます」
きちんとお礼を言う。お礼を言うのは大切だと思う。ありがとうは恥ずかしいが言われた方も言った方も心地がいいものだ。
「えーと。じゃあ、すみませんがボールさん。薄力粉を」
会話は聞こえるのに、みたらみんな器具に話しかけてる。なんだか面白くて、クスリと笑った。
カボチャのタルトを作るのは初めてでうまくいくか不安だったが、レシピ通りに行ったら美味しそうだ。完成品の写真が映されているが、上の方をこんがりバーナーで焼かれてるのが美味しそうだ。
タルト生地を作ることも初めてで楽しかった。案外うまく作れてて嬉しかった。レシピはやはり大人数用で、たくさん作るのは初めてだったから大変だったが、魔法を使ったりしてある意味。はじめてのお菓子作りだった。型から外してカボチャを使っていく。順調に進んでる。やはりお菓子作りは楽しい。面白いし。我が家ではあまりお菓子を食べないから作っても意味がないのであまり作らなくなってしまったが、それでも、お菓子作りは楽しいと思う。ルンルン気分で作っていると、隣から強烈に甘い匂いがした。
「え、サラさん。なにしてるの?」
「え。昨日作った、媚薬」
うわ。忘れてた。そうだ、ハロウィン。ただのハロウィンじゃない。マイさんもマイさんで変わった色の煙を微かに出している液体をクッキーの生地に練りこんで行っている。
「カボチャのタルトといえば、リツが好きなお菓子だよね」
ふとサラさんが言った。
リツの好きなお菓子は、チョコがサクサクとした有名な会社のお菓子だと思っていたが。いや、ここの世界のリツは律じゃない。
「そうなんだ」
「うん。だから、人気なの」
「な、なるほど」
そういえば、周りを見渡せばカボチャのタルトを作ってることが多い。
「男性にあげるもの、甘すぎるのは良くないんだよ。だから、人気なのもあるんだけど」
マイさんが言葉をとともに緊張状態から解放されて一息をついていた。
「君も、媚薬を?」
「そうだけど。クッキーって元々が厚いから満遍なく行くようにするにはきちんと練りこまないといけないから大変だった」
ため息をつきながらそういうと、棒に何センチに伸ばしてほしいとお願いをしていた。
「そういえば、君ってあまりリツについて詳しくないのに。わりと執着してるよね。知りたがってるっていうか」
マイさんに言われて、ドキリとした。ここな世界のリツは幼馴染じゃない。
「そ、そう?やはり惹かれるところがあるんじゃない?」
「まあ。わからなくもないよね」
と納得してくれた。私は、逃げるようにガスバーナーにタルトを炙るようお願いをした。
うん。順調だ。これなら、きっと、喜んでくれると思う。あれ。今誰かを思い出した気がするんだけど。誰だっけ?喜ぶ人。作ったこともないのに。ああ。そうか。お父さんに作ったことがあるから、お父さんか。お父さんにはあげられるのかな。わからないけど。喜んでくれるといいな。