目を静かに開ければ、ベットの上だった。
窓の外を見れば、夕方に差し掛かるまえ。随分長いこと寝ていたらしい。スマホのホームボタンを押せば、ブルーライトが強すぎて目を細めた。時刻は17時少し超えたところ。なんだか長い夢を見ていた気がする。なにか大切なことを見つけた気がする。
まあいいや。となんとなく下に降りて見ればお母さんが
「あ。起きた。これ、冷えてたわよ」
と言ってきた。なにかしていただろうか。思い出せずにボウッとしていたら
「美味しそうにできてるじゃない」
と笑っていた。
冷蔵庫から言われた、それを出してみる。
「カボチャのタルト」
なぜこんなのを作ったんだっけ?模索していると、テレビからある特集が組まれていた。
オレンジ色のそれを見て、ハッとした。今日は、そうだ。そうだった。
私は急いで、包丁でちょうどよく冷えたタルトを切っていく。そして、そのまま百均で売られていたホールケーキプレゼントのラッピングをして、向かう。すぐ近くの家には1分もかからずに行けた。呼吸を整える。ずっと忘れてた。チャイムを鳴らす。すごく久しぶりな行為に胸がドキドキと鳴り響く。ドアホン越しに、はぁい。とのんびりとしたあの返事が聞こえる。その緩い癖がなんだか愛おしくてクスリと笑った。名前を名乗ってる途中にドアの鍵が開いた。きっと、カメラで見ていたんだろうな。
「トリックオアトリート」
私がそう言えば、彼女は驚いた顔をして。
「トリート」
といった。私は、背中に隠していたカボチャのタルトが入った紙袋を彼女の目の前に差し出した。
「逆じゃない?」
と言われて。そういえば、そうだったと笑った。でも、きっとなんのことだかわからないからそのまま笑ったまま話を終わらせた
「カボチャのタルト・・」
律は受け取った紙袋の中身を見て、驚いた顔をした。
「食べたいって。言ってたでしょ」
私がそう言うと、子供のように嬉しそうな顔をした。
「覚えてたの?」
「思い出した」
なんだか照れくさくなって、律から顔を少し背けた。
「見つけられなかったから。見つけにきたんだよ」
律はいつもそばにいるね。と笑えば抱きついてきた。
「見つけられなくて、ごめんね」
ギュッと抱きしめながらそういえば、律は抱きついたまま
「いいの。ありがとう。すごく嬉しい」
と言った。
「律が教えてくれたんだよ」
といえば、少し離れて私の顔を見た。
魔法なんて嘘だ。そんなものはなかった。
「思い出させてくれたんだ」
だから、見つけようと思ったよ。私がそう言えば
「ねぇ。トリックオワトリート」
と言われて。
「オア。だよ。トリート」
笑いながらそう言えば、私から離れて家に戻っていった。少し待っていたら、なにか包まれたものをくれた。
「これ」
少し大きなカップケーキの型に入っていたのは、白い粉砂糖がかけてあるガトーショコラ。
「食べてもいい?」
私はそう言うと、律の返事なんて待たずに袋を開けて目の前で食べた。
美味しい。私の好きなビターチョコのガトーショコラ。そういえば、毎年。私には市販じゃなくて手作りのガトーショコラをくれていた。
夢で食べた気がするこの安心するビターなチョコ。
「美味しい。私の好きなビターだ」
「よかった」
少し照れながら嬉しそうに言った律をみた。
名前を呼びたくなって
「律」
と呼んだ。
「なあに?」
と癖のある返事がやはり返ってきた。
冷たくも空洞でもない瞳は、愛おしいものが返ってきたようにキラキラとしていて
「ありがとう」
そう言えば、照れながら
「いいよ」
といった。
魔法なんて嘘だ。そんなものはない。だって、いつだって私たちは言葉を唱えて、伝えて、感じてる。魔法なんてなくても、私たちは魔法じみているものを使っている。
ミス・パンプキンはなにを願っただろうか。夢の続きはどうなっただろうか。わからないけど。きっとリツにも幸せがくるといいな。来てるといいな。
「ジャックオランタンってさ」
律が言う。
「あの世とこの世を彷徨っては、死者の案内をしているらしいよ」
へえ。と適当に相槌をうつ。
「あとね。ランタンを持っているんだって」
だから、ランタン。と律が言う。それが定かなのかはわからないが、それがカカシであったことは言わないでおこう。
「そう」
魔法は覚めた。魔法はない。魔法じみたことはある。それだけで十分だった。
「食べていい?」
律はそう言って、さっき家に戻るときに持って行き忘れていた私のタルトをチラッとみた。
「いいよ」
といえば、玄関に置かれた私のタルトを袋から出して、一切れ手に取る。
細くて綺麗な指がタルトを三本の指で支えながら、形のいい口に運ぶ。
「うん。美味しい」
美味しそうに食べる律に。そういえば、食べたことがなかったんだなと思い出した。
「これだね。やっぱり」
律の言葉になにか引っかかった。
「食べたことあったっけ?」
私がそう聞けば、口の淵についたタルト生地を細っこい人差し指でぬぐっていた。
「ないよ。でもね、ある気がするんだ。そして、この味をずっと待ってた。なんでだろうね」
恋い焦がれていた味がするんだ。と笑った律に、驚いてから少し笑った。
どうやら彼女たちは相当私のことを待っていたらしい。
「そっか」
と言って私も玄関にお邪魔して2人で各自のケーキを食べた。
夕焼けは終わって暗闇が私たちを包む。あのような暗さではなく、夜空が輝く暗さ。
「不思議な夢を見ていたの」
私がそう言えば、彼女は食べ終わったらしく手をパンパンと叩きながらタルトを払って
「それは、どんな夢?」
と聞いて来たから
「君に会ったんだよ」
と伝えれば
「不思議だね。私もね、君に会ったんだ」
と言った。
どこで?と聞けば
「わからないけど。学校帰りに泣きそうな君に会った」
それしか覚えてない。そう言って私のタルトを2つ目食べていた。
シンクロシティーなのか。わからないが、会っていたらしい。となるとあの世界はなんだったんだろう。まるで魔法だ。
「魔法なんて、ないと思うんだよね」
不意に律が言う。
「だって。魔法なんて使わなくても、君は私のことを見つけてくれたでしょ?」
それなら、君もでしょ。と言えば
「だから、魔法なんてないんだよ」
と笑って。
なんだかおかしくなって、私も笑った。三日月が笑っている気がした。
ジャックオランタンのランタンが揺れる音がした。