お菓子が4つ

リツの突然の行動によって周囲は大騒ぎになった。小さな悲鳴がところどころで起きて。

「な、なに。どうしたの?」

待ってた?だれを。わたしを?なぜ。あなたは、わたしの知るリツじゃない。その空洞の瞳も。冷たいオーラも。知らない人なのに。なぜ、わたしを知ってるの?

「うれしい。やっと会えた。やっと、やっと」

まるで愛しいものを扱うように、優しい手つきで私の頬に手を添えて指を滑らす。
子供のように喜ぶ彼女をみて、はっとしてサラさんたちを見れば2人とも理解ができないというように固まっていた。

「リツ」

「なに?」

私の知ってる律は、必ず返事は伸びてしまう癖がある。「はい」の場合は「はあい」。「なに」は「なあに」。こんなに綺麗に切れる返事はしてない。彼女らしさが出る返事なのに。やはり違う。

「待ってたってなに?」

「待ってたんだよ。ずっと。去年から」

「は?」

「叶ったんだ。会いたかった」

「叶ったって、なに、なんなの」

よくわからなくて頭が混乱している。なにを言ってる。なんで、そんなに嬉しそうなの。君はだれ。私の知らないリツ。
リツは私の手をとって立ち上がらせてきた。

「きて」

そのまま手を引いてきたから慌ててカゴをとった。カゴを取る瞬間、サラさんたちと目があったが何なら楽しそうな顔をしていたから、きっと帰ってきたら質問ぜめだ。

「ちょ、ちょっと。まってよ!」

最初に来た場所。カボチャ畑。今ではただの土が広がってる。その畑を通り過ぎて恐ろしく思っていた森に入る。夜の森はやはり怖くて真っ暗で、足が少し止まったがリツが引っ張るせいで歩くしかなかった。しかし、ずんずんと前に行くリツにイライラして声をかけた。そうしたら、リツは立ち止まって私の方をくるりと踵を返して向かい合った。

「なに。なんなの?」

私の言葉にリツは黙ったままだ。それさえもなんだか、わからなくてイライラした。

「ねえ、何か言ったら」

私がそういうと

「ずっとまってた」

リツは泣きそうな顔をして私に抱きついてきた。愛おしそうに包むようにギュッと効果音がつきそうな抱擁。でも、私の欲しい抱擁はこれじゃない。私は両手でリツの体を押し返した。リツは簡単に離れた。

「説明して」

私は怒っていた。当たり前だ。だってよくわからないことがたくさん起きてる。いきなりこの世界に飛ばされて、魔法だとか、なんだとか、わからない。わからないんだよ。

「願ったの。去年。ミス・パンプキンになって。あのカボチャのタルトの子に会いたいって」

カボチャのタルトなんて、はじめて作ったのに。だれと間違えてる。

「覚えてないの?」

なにかに絶望したような声で言った。思い出して欲しいと雰囲気でわかる。なんだ、その泣きそうな顔は。なにか引っかかっている。いつもそうだ。ここに来てから引っかかっているんだ。カボチャのタルト。律。幼馴染だから覚えているのか。私が忘れてるのか。律。律。

「私が、知ってるのは。君じゃない」

私がそういえば、深く傷ついた顔をした。
リツ。君は君だろうけど。私が知ってるのは、律だ。

「なんで」

森がざわめいた。

「なんで、なんで!」

突然、突風が起きて立っているのが辛くなった。カラスが鳴く。不気味に響くその鳴き声。リツの心が荒れているのが感じ取ることができた。

「まってた!ずっと!なんで、なんで。カボチャのタルト。作ってくれるって言ったじゃん!」

ヤバい。そう思った時には暗い中にいた。森も、綺麗な夕焼けも見えない。

「なんで!」

なんだか怖くなって、目をつぶった。ギュッと目をつぶったとき、太陽のような温かい声がした。


「みつけて」


ハッと目を開ける。未だ台風の中にいるような真っ暗な渦が私たちを囲む。
どうすることもできなくて、風の音がうるさすぎて塞いでいた手を地面に手をつけば、カサリと感覚が手に触れた。何かと思ってみてみれば、私が作ったカボチャのタルト。作ったことがないのに、どちらの律も覚えていた。なぜだ。何かしたのだろうか。袋を開けて一口。カボチャの甘い味が広がる。焦がした表面はトロリとしていてタルト生地はあまり甘くなくできていて甘いカボチャといいバランスができていた。私は、これを作ったことがあったのだろうか。ふと、昔を思い出した。はじめてハロウィンをした日。子供会で町内を回るイベント。私はお母さんとおもしろそうなものを探していて、みつけたのが、確か。カボチャのタルト。
家が近くだった、律は私の家にいきなり来て甘い匂いを嗅ぐとそれを欲した。でも、私は明日のだからと言ってあげなかった。お母さんに意地悪しないの。と怒られた記憶がある。でも、私ははじめてのハロウィンだから絶対にあげたくなかった。明日あげるからと律を諭した。律はなにを作るのかと聞いてチョコケーキと言っていた気がする。そうだ、そこから律の得意なのはガトーショコラになったんだ。最初は甘くて子供の頃は好きだったが、高校入る前くらいから甘いのよりビターがいいって言って、そうだ。そうだった。忘れてた。ハロウィンの日。律は最初に私にくれた。でも、それはハロウィンではなくハロウィンをする日の朝だったからいらないと言った。また、あとで欲しいと。私は呪文が言いたかった。だから、取っておいてと言った。律とは回るチームが違って。私は、はじめてのハロウィンで興奮していた。おのおの子供会で配られたカボチャのお面にクレヨンや色鉛筆で顔を書いていた。お母さんに手を引かれていたのがいつのまにか私は一人で回り始めていた。公園はカボチャの仮面だらけで、愉快だった。そろそろお開きといって、家に帰るとき。百均か何かで買ったカボチャの入れ物にはみんなの作ったお菓子が山ほど入っててお母さんに色々話していた。家に入る時。律が私の名前を呼んだ。

「はい!これ!」

すごく嬉しそうに渡して来たガトーショコラ。チョコが好きだった私はすごく嬉しかった。そこで気づいた。

「あ、ごめん。おやつ。ぜんぶあげちゃった」

私の言葉に律はすごく傷ついた顔をして、なんで。と怒っていった。私は

「だって、りつ。いなかったもん」

と言った。言ってしまった。謝りもせずに。律は反抗しようにも子供で、言葉が見つからなくて大泣きした。お母さんが玄関から出てきて何事かと聞いてきたから、そのまま話した。約束を破った私にお母さんは怒った気がする。そして、私はまた、約束をした。今度は必ず見つける。とそして、カボチャのタルトをあげるって。でも、その次の年は私は風邪をひいてハロウィンのイベントに参加できなかった。それから、律が中学になるまでおばあちゃんの家に行ってしまったから約2年。ハロウィンで会うことがなかった。そうか。見つけて欲しかったのは。私じゃない。律だったんだ。

「ごめんね」

ポツリと呟いた私の声にリツは、ハッとしたようにこちらをみた。綺麗な瞳からは大粒のあの日のような涙が、綺麗に一筋流れていた。

「見つけれなくてごめんね」

サアッと私たちの周りを囲っていた暗闇が晴れた。私はそういうと立ち上がって、散らばったタルトから1つ選んで

「トリック オア トリート?」

ニコリと笑いながら聞けば、リツは

「トリート」

と小さな声で言った。私は

「どうぞ」

と渡した。リツは子供のようにたどたどしく受け取った。

「ありがとう」

「どういたしまして」

ありがとう。という言葉は言った人も、言われた人も暖かくなるんだと思う。魔法って、そういうことじゃないかな。だって、ただの言葉なのに。そんな幸せになれるんだから。だからきっとこの世界は、きっと夢の中だ。

「リツ」

私は話の中でわかっていた。リツは頼んだのだ。去年。カボチャのタルトを作った私に会えますようにと。だから、私がきた。ならば、さっき会った律はなんだったんだろう。本当の律じゃないか?律でもリツでもない。私に見つけて欲しい律。
言葉は魔法だ。なんでもできる。守ることも幸せにすることも、不幸にすることもできる。でも、魔法は言葉じゃない。魔法は何かをしないと起こらない。だから、言葉も魔法じゃない。きっと、それは大切なことで。わりとどうでもいいことだ。

「行かないと」

私がそう言うとリツは、いやだと頭を振った。
私は微笑み子供をあやすように、リツの頭を撫でた。

「君に会いに行くんだよ」

そう言うとリツは、ポロポロとゆっくり綺麗な雫をながした。私は、律にされたように人差し指を少し曲げて拭ってあげた。

「見つけてあげないと」

ね。と優しく微笑めば

「わかった」

と涙声でリツが言った。
私よりも少し背の高いリツ。相変わらず、スタイルがいい。その華奢な身体を包めば包み返してくる。

「待ってて」

必ず、見つけてみる。
そう言って私はゆっくり離れ、

「ジャックオランタン!!」

と叫べは現れる。カボチャのニヤケ顔にランタンをぶら下げた。あのカカシ。

「おめでとう。ミス・パンプキン」

言い忘れていたことを言った。
リツは初めて照れ顔を見せた。いつもみているはずなのに

「ありがとう」

お礼をいわれて、手を振った。
ジャックがケラケラ笑いながら、カラカラとランタンを揺らして前を歩く。
カボチャのタルトは置いてきてしまった。きっと、リツが大切そうにするんだろうな。大量のカボチャのタルトを大切そうにしている彼女を思い描いて、クスリと笑った。サラさんたちにはお礼を言ってない。忘れてた。

「あの。ジャックオランタン」

声をかければこちらを向く。後ろ向きでケンケンしながら私の話を聞く。私は、歩きながら

「お願いがあるんですけど。サラさんとマイさんに、お世話になりましたとよろしく伝えといてもらえませんか?」

私がそう言えば、カカシは頷いた。私は、それをみて

「ありがとうございます」

と頭を軽く下げた。
魔法はこれっきりだ。夢が覚める。これは、夢だから、魔法じゃない。忘れていた約束を思い出せた。いい夢だった。そう言うことにしておこう。
待っているあの、寂しがり屋にカボチャのタルトを作らなくては。
眩しい光が体当たりしてきて目をつぶった。