プレゼントが1つ
明日はクリスマス・イブ。ホワイトクリスマスにはならなそうで残念とも思わない年齢になってしまった。
冬の空気は冷たくて、風が吹いて崩れた髪の毛に触れれば冷たくなっていて冬の冷たさを再確認する。マフラーを長いやつから、スヌードに変えた。ベージュ色した優しい色は可愛くて、心が安らいだ。
町には大きなツリーが飾られることもなく、相変わらずの町で逆に安心した。ショッピングモールに行けば大きなツリーがあって、キラキラとしている。周りにはカップルがいっぱいいる。いいなぁとともに思わない私は冷めているのだろうか。
「雪は降らないね」
真っ赤なコートに身を包むんだ彼女は、空を見てそう呟いた。
最近流行りのパイロットハットをかぶっていた。その帽子を始めてみた時、イヌイットと言って笑われた。
「そうだね」
「さっむいなぁ」
はあ。と空に向かって息を吐き出す彼女。黒をベースにして白の太線と赤の細い線でチェックを作ってるマフラーを巻いていた。
青い影を横目に彼女の発言と行動の矛盾にため息をついた。
「寒いなら、かえろーよー」
寒さで鼻が赤くなる。ズズと鼻をすすれば潮の香りがした。
冬の海はディープブルーよりも澄んでいて冷たいことが目に見えてわかった。
冬の海が見たい。突然そう言って家に訪れた彼女。この潮の香りはいつでも、嗅ごうと思えば嗅げるのに。普通電車に揺られて二駅。山を越えたことにより見える大きな海。私もここが好きだった。
「クーリスマスが今年もやぁてくるー」
テキトーに歌いながら私の言葉を無視する。
「プレゼントは、何頼んだ?」
志恩が言う。
「もう、来ないよ」
「いや、せがむんだよ」
ケラケラと笑うのは相変わらずで、楽しそうだなと思った。
「志恩は何頼むの?」
「んー?私はねぇ、」
ワンテンポ置いてから、まっすぐ水平線を見ながら
「サンタさん」
は?と言えば、こちらを見て笑った。
「なんでもくれるじゃない?」
志恩のその言葉に
「1つしかくれないわよ」
と言えば
「ケチだなぁ」
と笑った。
「で、何頼むの?」
「私?」
志恩は無言で頷いた。
「うーん。なんだろうなぁ」
「昔はなんでも欲しかったよね」
鼻の頭を赤くして言った。私も赤くしながら
「あー、そうだねー」
と返した。
「今はそうでもないかな。欲しいものは多いけど本当に欲しいものなんて入らないもの」
そう言って少し俯いた彼女。
「そんなものでしょ?」
「そうだね」
私が笑って言えば、諦めの口調で返ってきた。
志恩の言葉で思い出した。昔はなんでも欲しかった。プリンセスたちのおもちゃ。人形。その家。ぬいぐるみ。1つにするのは難しかった。
「そろそろ帰ろう。体が冷える」
私の言葉にまたも無視する。
私はなにも言わない。帰りたくないことくらいはわかっていた。
地面に座る私にとっては、コンクリが冷たくてお尻が冷かった。立ち上がってお尻の砂を払う。
「いこう」
鼻をすすれば潮の匂いがした。
彼女は無言だったが、雰囲気で了承を出したことがわかった。
私は志恩が立ち上がるのを待った。のっそりと立ち上がった志恩は海を見て
「海はいいよね」
と言った。
もうすぐ夕陽が沈む。鼈甲飴のような光に照らされて海はキラキラと輝いていた。
なんだか、このまま志恩が死んでしまいそうな気がして手を取った。
「なに?久しぶりだね。手を繋ぐの」
「恋人かよ」
ベージュのスヌードに口を埋めれば暖かった。
この冬の香りを私はあとどれだけ嗅ぐのだろうか。嗅げるのだろうか。
高校を卒業して、社会人になって、ここから離れて。潮の香りはもう嗅げないのだろうか。
家まで香ってこない潮の香り。
「みて!!」
志恩がいきなり立ち止まって叫ぶから、驚いて肩が少し跳ねた。なんだと指をさす方を見れば、夕陽が沈み水平線とまっすぐ同じに並んでいてまるで海が空と同じ紺から橙のグラデーションができていた。
「やばい」
と言いながらスマホで写真を撮る彼女を横目に私はただただ、夕陽を眺めていた。
「海は、いいなぁ」
彼女は同じことを言った。
この光を私はいつまで見れるのだろう。町と同じキラキラと光るイルミネーションように季節が終われば消えるようになくなってしまうのだろうか。
鼻をすすれば、潮の香りが痛くするほど入ってきた。
20260707
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