プレゼントが4つ
「疲れたら、甘ーいのがいいよ」
声に驚いて前を向いた。
そこはモールじゃなくて、真っ白くアルコールの匂いがする部屋。優しいクリーム色したカーテンの仕切りの中で甘ーい匂いが充満していた。
「志恩」
そう呼んだのは私ではない。
数回しか会ったことがない。細っこい。いつもニット帽をかぶっていた優しい眼差しの人。
「苺、好きでしょ?」
あげると言って志恩のお皿に苺を置いた彼女。
「いいの!?ありがとう、」
「お姉ちゃん!」
そうだ。
このケーキを志恩の親が買ってきて、クリスマスに志恩と志恩のお姉ちゃんの病室で食べたんだ。
どの飾りを食べるかみんなで仲良く食べてた。
「クリスマスプレゼントは、なにを頼んだの?」
暖かい陽は厚い雲によって遮られて灰色の雲が空を覆っていた。
「私はね、」
そうだ。その当時流行っていたプリンセスのシリーズものの家を買ってもらっていた。
志恩のお姉ちゃんは優しい表情で、もらえるといいねと笑った。
「志恩は?」
「私はね、もらえるかわからないの」
ケーキを食べる手を止めて少し俯いてそう言った。
元気ななさそうな志恩にお姉ちゃんが笑って
「なぁにが欲しいの?」
と聞く。
志恩は少し照れるように、笑って
「欲しいっていうか、なりたい?」
曖昧な彼女に、お姉ちゃんは
「なにになりたいの?」
と聞く。
志恩はチラリとお姉ちゃんを見て
「お姉ちゃん」
と言った。
その時、私はよくわからなくてハテナマークを浮かべていた。
「病気になりたいの?」
私がそう聞けば、
「そういうことじゃなくて、さ」
私の病気というフレーズで身体を小さくしてしまった志恩。
志恩のお姉ちゃんはなにか気づいたのだろうか。でも、きっと、なんて言っていいのかわからなかったんだろうな。私たちは、お姉ちゃんよりも大人になってしまった。だから、わかる。
志恩は、両親に構って欲しかったのだ。
志恩はわりとかまちょで甘えん坊で寂しがりだと思っていたが、彼女自身のことを覗いてみればその性格も納得はいく。
「ほら、ケーキ食べな」
お姉ちゃんはそういうと、志恩に自分のケーキを一口フォークですくって食べたせた。
「しんどい時は、甘ーいものだよ」
その言葉が私の後ろからした。
振り返るとサンタさんのお姉ちゃん。
「頼むね」
そう言って、何か言おうとして意識がハッとした。
気づけばモールのフードコートで。ケーキも店の状態も変わってない。時が一瞬だけ遡ったのか。よくわからないが、わかったことがある。
そうだ。志恩が欲しいもの。なりたいもの。今は、きっとそうじゃないだろう。あの子がそうなれるもの。なにか。なにか。ないだろうか。
とりあえず、ケーキを白い箱にしまう。人が他人になるなんてありえない。できっこない。ならば、少しでもいいからそれになるのはどうしたらいいのだろう。
モールを出て、キラキラと青い光が輝く街から空を見上げて思いついた。
お姉ちゃんは肩見離さず持っていたものがある。
形見ではないが、やはり、形にずっと残るのがいいのではないか。
私はそう思いモールに戻った。
20260707
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