第一回討論会
死にたい。
良き晴天の下、誰もいない電車のホームでそう思う。
もう体育祭も終わり半袖から長袖のセーラー服に変わり終えた頃。それほど混まないがなんとなく一人がいいから今日も図書館で課題をして、無人となった駅でおよそ誰も乗っていないであろう電車を待った。
こんな田舎。ほとんどが自転車通学で電車なんてつどいない。そもそも、電車の本数も少ない。そのせいだろうか。遠くても自転車で来る子が多い。
この電車に乗れなかったら終電まであと、二本しかない。無人ホームの向かい側の壁の向こうに山が見える。行ったことがないかもしれない山。ああ。あの山で死んでしまいたい。
「死にたいの?」
向こうの山をずっと見ていたから気づかなかった。
同じ黒をベースにしたセーラー服の女の子。まぁ、うちの学校は女子高だから女の子なんだけど。
リボンの色からして、同い年。同級生。ああ、この子は
「えーと」
そうだ、彼女は
黒い髪に赤い瞳の女の子。真っ赤なリボンタイ。どうして同じリボンなのにこうも私とは違うんだろう。平凡な顔つきの私とは違い、彼女は可愛いより綺麗な顔をしている。綺麗な弓のようなしなやかな山の眉が見える、アシンメトリーの前髪。少し釣り目でアーモンド型というんだろうか。まつ毛も長くて上がっている。綺麗な形に綺麗な桃色の唇。左目下には泣き黒子が1つ。足も長いし指もきれい。爪なんて綺麗な桃色でおまけに肌が白いからなんだか甘そうに見えた。
「死にたいの?」
彼女はもう一度聞いた。
見た目に合う少し低い声は綺麗に耳に届いてくる。
「うん。死にたいよ」
そういうと、彼女はきょとんとした顔で
「なんで?」
と聞いてくる彼女に対し表情の薄い私は顔も変えずに
「死にたいからだよ。理由なんてない。あえて言うならば、嫌になったんだよ。生きるのが」
人生なんてつまらないし、辛いことしかない。別にいじめられていたこともないし、虐待にあったこともない。ただただ平凡に生きてきた。だからだろうか?生きることに嫌気がさした。高校二年生にもなってまだ、思春期も抜き出せていないような私は毎日そう思いながら生きている。
ああ、もっと死にたくなってきた。
「怖くないの?」
「怖い?」
「そう、怖いんだよ?死ぬことって」
「そうかな?」
「うん。そうだよ。ねえ、君は死んだあとってどうなってると思う?」
「さあ。知らないよ。興味もないしね」
「じゃあ、今考えてよ」
「いま?」
「そう今」
彼女は、楽しそうに微笑みながら言った。
なんでこんなに楽しそうなんだろう。彼女はいつも誰かといるわけじゃないが、一人ではないはずだ。きっと私みたいに知り合いは多いけど友人は少ない。という感じな子でこんな暗い話、引きながら聞きそうだけど
「死んだあとは・・・まぁ、一般論で言えば。輪廻の輪に乗っていくみたいな。それか天国だか地獄があってそこに行くとか、そんなんしか思いつかないけど」
「その、輪廻の輪とか天国だの地獄ってあると思う?」
「さあ」
「考えて」
この子は結構強引な子だな。
見た目はおとなしそうなのに。
「まぁ、あったら面白そうだね」
「そう」
「じゃあ、貴女は?」
「私?そんなものあるわけないじゃん」
彼女はそういい笑った。
「ただの、人間の妄想にしか過ぎないよ。あのね、死んだら無だよ。無。何にもない。天国や地獄を感じることもなく無になるんだよ。そう、何にもないんだよ」
「そう」
「で、死にたいの?」
彼女はニコニコと微笑み、ふふふ。と笑った。
その笑みは綺麗すぎて怖かった。何を考えているのかわからない。そんな感じだった。
「うん」
「消えたら何にも残らないのに?君の生きてきた証も。もし、遺書を書いても意味がないくらいくらいなのに?」
彼女はそういって笑った。
「別に、私が消えても誰も悲しまないし、困らないよ」
「ずいぶんと客観的なんだね」
「そう?」
「全は一。一は全」
「は?」
「錬金術の法則だよ。客観的に見たら、自分が死んでも悲しむ人はいないよ。でも、主観的に見たら悲しむ人はたくさんいるんだよ」
「別にそんな人いない」
「あれ?君は、虐待でも受けているの?」
「不謹慎だよ」
「ごめん」
「受けてないよ」
「じゃあ、いじめられてるの?」
「いや、受けてないし、受けたこともないよ」
「じゃあ、君が死んでも悲しむ人がいるじゃん」
「そういう問題じゃないんだけど」
「でも、君の気持ちは分からなくもないよ」
「は?」
「私も死のうとしていたからね」
「え」
彼女はふふふと笑いながら言った。
「でもね、怖いんだよ。すごく」
「そう」
「本当に、怖いんだよ。消えたくないって思ったよ」
「ふーん」
「で、死にたいの?」
彼女は最初の言葉を言った。
「死にたいよ」
「そう」
彼女はそういった。
そのまま、踊るようにベンチに座っている私の前に来た。黒い髪、黒い長袖のセーラー服に黒いタイツ。黒いローファー。そこに真紅のリボンにルビーの瞳。真っ白の肌。なんだか彼女は生きていないのではと思った。
「じゃあさ・・・・」
やっと待っていた電車が来た。二両列車だ。なんとなく電車のヘッドライトが明るく見える。ああ、もうそんな時期か。と思いながら彼女をみた。
あの綺麗な笑みを浮かべ、座ってる私を見おろした。そして少し屈み学校のマークが入っていない黒い革のスクールバックを右手で落ちないように制し、左手を私の左頬に添えた。その時、黒い袖から白く細い腕が出てくるのが見えた。手足も長く細い。モデル体型の彼女に嫉妬に近い感情を一瞬抱いた。
その左手を頬い添えながら彼女は言った。
「私が殺してあげる」
電車が来るアナウンスが流れる。だが、こんな何にもない所では電車が来るのなんてすぐにわかる。しかし、そのアナウンスの声も聞こえないくらいやけに周りが静かに聞こえた。
「それで、私は生きていると実感する。だから、リスカしたかったら私がしてあげる。普通はリスカとかして生きてるのを実感するんだろうけど私は傷をつけたくないんだよ。傷があるだけで自分が死ぬような気がするから」
彼女はそういい。添えていた手で私の頬を撫でた。
「ね?だから、約束。絶対に私以外に傷をつけられないで。殺されないで」
左からくる電車をバックに私は彼女を見つめた。
アナウンスも止み、もう電車がつく頃、キキ―と電車が止まる音を聞きながら、彼女の事を見つめていた。電車を背景に綺麗な笑みを浮かべる人形みたいな彼女を見ていたら電車が背景から消えその代り綺麗な桃色のプルプルした形のいい唇が動いた
「死にたかったら言って。私が・・」
電車が来た。だが、姿は見えない。
彼女が少し横へずれた。山が見えた。夕日に照らされていた山は少し黒くなっていた。
「殺してあげるから」
そのまま、彼女は私にキスをした。
私のファーストキスは、女神のような悪魔のような人間の生きたがりに奪われた。