第二回討論会

あの日から彼女は私と行動を共にするようになった。
彼女は綺麗な顔で有名な人で、こんな田舎のしかも女子高。この前後輩の誰かに告白されたとか聞いたような気がする。
彼女と行動をともにすれば他の子から不思議な目で見られる。そりゃ、いきなり平凡な私といれば不思議に思うだろうな。
でも、私と彼女とのつながりは薄い。ただ殺し殺されるためだけに行動を共にしている。彼女とは幼馴染でもないし、高校の二年生になって初めて彼女と話したくらいだ。あの日彼女は私にキスをした。なんでかはわからないけど彼女はふつうではないように見えた。それから彼女は頭がいいように思えた。たった、あの暗く病みそうな会話で彼女は死についてどれだけの事を考えているのかが分かったから。私よりも考えているし深くまで考えている。死んだあとなんて考えてもみなかったし、興味もわかなかった。でも、彼女は一般論を『人間の妄想』で片づけた。

「ねえ」

「なに?」

「君は、学校で習う教科で一番大切な教科ってなんだと思う?」

「また突飛な質問だね」

「なんだと思う?」

彼女はお喋りが好きだと言っていた。でも、話題がない時は話さないし。自分に興味な無かったら相槌も打たない。淡泊な子だなと思いながら人のこと言えないと考えた。

「全部っぽいけど、あ、それって副教科も入ってる?」

「入らない」

「じゃあ、国語かな」

「どうして?」

「コミュニケーションが取れないから。英語か迷ったけど、まずは母国語を話せないとね」

「なるほどね」

「で、貴女はどう思うの?」

「私も、国語だと思うよ。もちろん母国語をっていうのもあるけど、すべて国語から始まるんだから」

「国語から?」

「そう。問題文にしろ。説明だって国語でしょう?だから、国語で始まる。まぁ、大雑把に言うなら言葉で始まるかな?」

「言葉・・」

「ねぇ。この世で一番凶器ってなんだと思う?」

「また、突然に。貴方は文脈っていうのを学んだほうがいいよ」

「答えて」

放課後の誰もいない図書室。教室塔から渡り廊下を通り一番上の一番端。向かい合っている彼女の後ろにある窓からは反対側にある三年生の空き教室と下を見れば校門が見える。校門の近くに生えている大きな木はちょうど空き教室からは図書室は見えない。
元々生徒が多かった我が学校。地方民は都心側へ移動するにあたって空き教室は増えていき。今一年生で五組中二つも空き教室になっている。私たちの二年生も一つあり、三年生も一つある。その空き教室は生徒内では聖地になっており、誰も近寄らない。
其処は三年生の美人の崎原先輩と同じく三年の可愛い水城先輩がイチャついている教室で、性行為しているらしい。見たことはない。

「なんだと思う?」

彼女は綺麗に笑った。歯を見せずに唇を少し持ち上げて笑った。目は優しく、瞳はキラキラ輝いていて少し怖かったが、とても美しいなと思った。

「知らない」

「君はすぐに知らないっていう。少しは考えなよ」

「めんどくさい」

「考えることを放棄するのは考えすぎて頭が回らなくなった時だけだよ」

「何それ」

「行動はめんどくさいし、間違えたら罪になったりするけど。考えるのは自由だし、疲れない」

「疲れるよ」

「それは、脳がでしょう?自分が疲れたわけじゃない」

「いや、脳も自分でしょう」

「違うよ。脳は脳で、自分の意思じゃないんだよ」

「は?」

「自分はどこで考えているんだと思う?」

「さあ。それこそ脳でしょう」

「それがね。わからないんだよ」

「は?」

「脳の事はいまだに謎が多くて、分からないんだよ」

「何それ」

「で、一番の凶器ってなんだと思う?」

いきなりもとに戻した。いや、いきなりっていうか無理やり、乱暴に。

「さあ。まぁ、一般論で言えば。ナイフとか銃とか」

「君は一般論しか話さないね。自分の意思はないの?」

「あるっちゃあるけど、凶器の話に意思も何も考えもないよ」

「そう、まぁ。アイデンティティが無いと生きていけないからね」

「そうだね」

「一般論しかない君はアイデンティティはあるの?」

「あるよ」

「どんな?」

「死ぬことだよ」

「なるほど。じゃあ、私は君を殺すことだね」

彼女は楽しそうに笑った。

「で、なにが一番の凶器なの?」

「ああ。それはね」

私が話を戻せば彼女は、思い出したように言った。
突拍子もないことを言うかと思ったら、脱線して、元に戻すと、自分で忘れる。困った子だなと思いながらため息を吐いた。

「言葉だよ」

「言葉」

「そう、言葉。言葉で人を殺せるし、操れるし、何でもできる。実は一番怖いのは言葉なんだよ。たった一言で喧嘩になるし、人も殺せる」

「まぁ、確かにそうだけど」

「それに、何が怖いって。誰でも持っているからだよ」

「誰でも」

「そう。だって、銃は自衛隊とか警察官とかそういった一部しか日本人は持てないし、ナイフもダメ。そういう国は日本以外にもありそうだけど。
でも、言葉は誰でも使えてなくなることもないし、罪もとがめられない。
セクハラなことを言ったとしても、心を傷つけることを言ったとしても、証拠はない。ボイスレコーダーをセットしていたら別だけど」

「なるほどね」

「言葉は偉大さ。それでいて、恐ろしいんだよ。それに扱いが難しい。
黙っていれば誰も傷つかないけど、でもイライラはするだろうし。だからって、何でも本当の事を話せば誰かが傷つく。でも、それをうまく乗り越えたりすればお互いにいい関係になるんだろうしね」

「難しいのね」

「そうだよ。まぁ、体の痛みより心の痛みのほうが嫌だろうね」

「貴女はどっちが嫌なの?」

「私は、心だよ。気は病からと同じように、病んでしまっては体を大事にできないか
らね」

「結構、デリケートなのね。それにもう結構病んでそうだけど」

「デリケートだよ。すごくね。心は硝子でできているんだよ」

「ヒビ入りまくってない?」

「もう、修正は不可能だろうね」

彼女は楽しそうに笑った。

「君はどっちがい嫌いなの?」

「私は、分からない。痛いのは嫌い」

「そう。じゃあ、どうやって殺されたい?」

彼女は机の上で両肘を立て手の平に顎をのせた。
美人は何しても美人だからいいなぁ。

「そうだね。ロマンチックで言うなら・・」

この前呼んだ本の最後を思い出した。

「キスで窒息死とか?」

そういうと彼女は驚いた顔をしてから微笑んだ。
目を一度伏せ立ち上がり、長く化粧やビューラーだか何だか知らないけどそういうのであげていない自然のまつ毛を持ち上げ、夕日を浴びた赤い瞳はどこかやはり恐ろしさを感じた。

「いいね。してあげようか?」

そういえば、彼女にあの日。キスをされたことをのんびりと思いだした。

「でも、ディープは嫌だよ。気持ち悪いし。フレンチでいいならしてあげるよ」

そういって、彼女は机にのぼり私の課題物を膝で踏みながら近づいてきた。
そのまま彼女は正座するような形をとり私の両頬を綺麗な白く細い両手を添え少し持ち上げた。

「ねえ。殺してあげようか」

そういい、私の事を見ながら微笑んだ。
誰もいない図書室。夕日は落ち始めた。きっと部活帰りの子はいない。なぜなら部活の子は裏門から出て寮に行くから。朝早く夜遅いそれに、電車の本数もない。何かが合ったら遅い。だから部活をやる子は家から学校まで三十分以上かかる子は寮生活を強いられる。こんな田舎。三十分以内の子なんていないに等しい。

「キスで窒息死させてあげるよ」

彼女は瞳をトロンとさせ、頬は紅くなっている。
溶けそうな赤い瞳は真っ赤なストロベリーソースに見えたが、その真ん中にある黒い瞳孔のせいで赤黒く血に見えた。
彼女は私に微笑んだ。その顔があまりにも綺麗で見惚れてしまった。

「どうしたの?私の顔、何かついてる?」

そう、不思議な顔もせずに瞳をトロンと溶かし頬を紅くしたままいうので。いじわるだなと思いながら、見惚れていたことを指摘され図星を突かれたことに顔が赤くなり目をそらしたら

「ふふふ」

楽しそうに笑うから、少し目をもとの位置に戻し彼女を見た。

「照れちゃって」

そういわれたからもっと顔が赤くなった。そのまま彼女に目線を合わせる。
彼女は子供に本を読み聞かせるように優しく優しく砂糖水のような甘い声で

「可愛いね」

といった。
こんな平凡な顔のどこが

「可愛いよ。君は。すごく可愛らしい」

そういいながら、キスをした。
甘い甘すぎるキス。胃もたれしそうなくらい甘い。私は課題を解くために持っていたシャーペンを握りしめた。
目をつむりながらキスをしてくる彼女を見た。長い睫は綺麗にカーブし、高い鼻。左にある泣き黒子。それを見ながら、この子はキスがうまいなと思った。
そのまま、キスしているから。処女で彼氏も出来たことがない私はキスなんかしたことなくて呼吸の仕方がわからない。少し苦しくなってくる。それでも彼女は時々両手で私の頬を少し撫でたりそのまま上に行き、指で耳を触ったりしてきた。
ああ、この子は彼氏がいたのかもしれない。いや、いただろう。こんなにも美人だ放っておくはずがない。性格が歪んで、少し怖いけどそれさえ隠してしまえば大丈夫だろう。だって彼女は人気者なんだから。
それから、本当に苦しくなってきて叫んだが、口をふさがれているので言葉は出ず。ウン―、ンンー。という音しか出なかった。ああ。言葉とは大切だなと思った。


それからして、彼女は瞼を持ち上げ真紅に染まる瞳を見せた。その瞳を見ながら体がブルリと震えた。
赤い瞳が離れていくのが見えた。

「ン・・ハァ・・ハァ・ハァ・・」

我ながらいやらしい呼吸音だと思った。
握りすぎたシャーペンを離した。手に大量の汗が出ていた。
彼女は呼吸を乱さずに手を私の頬に添えたまま私を見た。

「可愛いね」

そう言い、今度は優しく軽いフレンチキスをした。
誰もいない図書室に、チュッと短い生々しい音が響いた。

「死ぬかと思った・・・」

呼吸がやっと正常になったころそういうと彼女は優しく言った。

「死にたかったんでしょう?」

「そういう問題じゃない」

彼女はうれしそうに私を見て

「帰ろうか」

と言った。
私は肯定といて頷いた。それを見て彼女は膝でバックした。そして椅子に足をかけて床に降りた。私は課題物を鞄にしまい。持ち上げ、立ち上がり扉へ向かおうとしたら彼女が反対側からこちらへ来ていた。

「ん」

彼女は左手を差し出した。私は無言で右手で握った。彼女はうれしそうな顔をしてその手を引いた。

「わ」

思わず声が出た。彼女はほとんど背が変わらない私の額に額を合わせ

「私が君を殺してあげる。だから・・・」

そう言い、また瞳をトロンとさせて

「私以外に殺されないで」

と呪いのように言った。

「うん」

私は反射的に返事をした。その答えに彼女は満足し、微笑みもう一度キスをした。
横目で外を見ると、あの神秘な空き教室で先輩たちがカーテンもせずに上半身裸で抱き合いながらディープなのかわからないがキスをしているのが見えた。