第1話


「イケメンだよね、あの人」

黒い髪を雑誌に少し垂らしながら彼女は言った。

「この人じゃなかったっけ?」

「ああ。その人もイケメンだよね」

紗那はそう言って雑誌をめくった。

「イケメンは好きだよ。イケメンだもん」

男好きじゃない。イケメン好きだ。と前に言っていた。
そんな彼女に恋をしてしまった私は、なぜ女に生まれてきたのだろう。と考える。そして、彼女が好きなこの俳優さんみたいな顔だったらと。

「でも、この女優さん、好き」

「え。誰?」

「この人。めちゃ美人だよねぇ」

春の季節が回ってきて、私たちは二年生になった。来年は受験だ。
二年連続同じクラスだから来年も一緒だと嬉しい。

「あー。この人ね」

「めちゃ好き。今使ってる化粧で、アイラインとチークと口紅以外この人のだもん」

春の新商品の宣伝をするページを真剣に眺めながら彼女は言った。
有名な女優さん。クールな目元は彼女に少し似てる。
私はタレ目気味だからこれまた彼女の目には掛からない。
雑誌を読む彼女と後ろの窓から見える青空と桜の木。
春はなんでもできそうな気がする。暖かな日差しを窓越しで浴びる。
どこからか吹いた風でカーテンがふわりと舞い上がる。誰もいない教室、彼女の手をそっと握る。
一瞬固まってこちらをみる彼女と目があって、幻想的な光とクリーム色のカーテンが私たちを包んで二人だけの小さな世界をつくる。
重ねた手が絡みあっていく。彼女の目がとても綺麗な茶色だと思う。私に見つめられているのが恥ずかしくなったのか少し目線を下げる紗那。まつ毛が陽を浴びてキラキラしている。一見。そばかすのように見える薄い泣きぼくろ、彼女の鼻筋、桜より濃い桃色のくちびる。
顔を少し近づければ、少し離れる。しかし、こちらを顔をみて顔を徐々に近くなって長いまつ毛が揺れた。手を強く握り直して、口をお互いにそっと重ねた。
ふんわりとした雰囲気の春。窓からの日差しとどこからか吹く風で煽られたカーテンに影絵のように映る二人の影。
そうして、

「あ!みてみて!これ」

ふと意識が戻る。
わりと賑やかな教室に意識が戻った。
私たちの席も窓側じゃなくて廊下側。彼女は照れるどころか雑誌で笑顔である記事を指差している。

「なに?」

「みてこれ、新発売だって!」

「おお、うまそう」

新発売されるらしいお菓子のページを見て喜ぶ彼女を見て可愛いなと思いながら彼女の楽しそうに話すお菓子の話に耳を傾けた。


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