01




01





4月―――
ここは神奈川
私立 立海大学付属高校 2年F組 始業式―――

私、三島凪子は自分の不運を嘆いた。
いったいぜんたい、編入初日になぜこんなことになったのか。
この日のためにどれだけ画策したことか。
どれだけ念入りにシミュレーションして臨んだか。

朝、気合を入れてアイロンをかけた
まっさらなシャツとネクタイ、膝丈のプリーツスカート。
短めの髪はむりやりひっつめてひとつに結った。
地毛のブラウンベージュの髪はどれだけ黒く染めようとしても色が入らずどうにも
ならなくてこれが精いっぱいだった。
ひとつに結えば、わりと暗く見える気がした。

琥珀色の瞳は祖母からの隔世遺伝
今は亡きスウェーデン人の祖母の形見のようなものだけど
日本では目立ちすぎる。
あえて、黒のカラーコンタクトをいれて目立たないようにした。
もちろん顔はすっぴんだ。

限度はあるが、悪目立ちしないように細心の注意をはらったつもり。

それもこれも、ある組織にだけは絶対にかかわるまいとして
自分に課したミッションだった。
なのに…なのに…
 

「なー、三島ってゆーんだっけ、お前どこから来たの?2年で編入なんて珍しくね?その髪、地毛?」

………はい。まず第一に、隣のヤツがうるさいのです。
席に着いた早々、矢継ぎ早に話しかけてきてこの上なくうざいです。

「おれ、切原赤也。いちお、テニス部レギュラーなんだぜっ。」

自信満々に自己紹介する、切原のまぶしい笑顔に頭痛がした。
………ちょっと待って、「あの組織」ことテニス部の人間なのか、この男。

あわよくば、地味に清楚に順調な高校生活を始めたかったのに。
ねえ、先生いますぐ席替え…いやクラス替えしてくれませんか。

「ちょっ、あの編入生、切原君にめっちゃ話しかけられてるし!!なにあれうらやまー!」

…追い打ちをかけるように聞こえた声は羨望と、妬みが混じっている。
なるほどこの人物は相当な人気者なのだろう・・・。

いや、納得できるか。私はただ平和に高校生活を送りたいだけなんだってば。
担任も担任だ。こーゆー、学園のアイドル★的人物の席のとなりをなぜ編入生にあてがうの?新手のイジメだよこんなの。

とにかくこれ以上妙な注目をされたくない私は、切原君の方を向き
淡々と言い放った。

「千葉生まれの東京育ち。髪は地毛よ」
「ふーん、なぁ、立海のテニス部のこと知らねぇの?大抵みんなキラキラした顔ですごーい、とか言うんだけど。珍しいね、アンタ」

あ、ヤな感じ。
本当大嫌い、こういうの。
言わなきゃいいんだけど、つい言葉がこぼれ出てしまう。

「…なんで?興味あるわけないよそんなのに。なんの為にテニスやってるの、アンタ」

切原本人含め、周囲の数人もぽかんとしていた。
ダメだ、超悪印象。でもほんとにムカついたんだもん。なんなのコイツ。

私はすぐに視線を元に戻し、大量の新しい教科書の類を鞄に詰め込んだ。


「……っぷ。へぇ。なんか、おもしれコイツ。」

切原がなにかつぶやいたけどよく聞き取れなかった。




- 1 -

*前次#


ページ: