世界は左の鼻腔の中
はじめてそれをやったのは12歳のときだった。忘れもしない、こんなことを考えたのを昨日のことのように覚えている。
「こういうことをした日もいつも通り家に帰っていいのだろうか?」
“忘れもしない”なんて大仰にのたまっておいてこの乳臭さ、盛りまくって申し訳ないとは思うけどそれほど的はずれでも期待はずれでもないんじゃない?俺自身としては、昨日のことのように思い出すたびに12歳の自分のいじましさに泣けてくる。上等な遊園地なんかでまんまるに着ぶくれた迷子を見かけたときのような、そんないじらしさに胸がキュンとしなくもない。話が逸れたね。
「こういうことをした日もいつも通り家に帰っていいのだろうか?」
かくしてその問いの答えは身をもって知ることになる。二度目ははじめての翌朝だった。24歳の俺ならば、12歳のいじらしい俺にすぐにでも正しい答えと選択を前夜のうちに囁いてやれる。けれど12歳の乳臭いガキにわかるはずもない。12歳なんてまだ脳味噌の半分が帰巣本能で出来ている。二度目ははじめての翌朝だった。ひび割れたダイニングテーブルに並んだ三つの目玉焼きと、床に見慣れぬ男の身体と、見慣れた男の身体と、それぞれからぶちまけられたまだ真っ赤な血。12歳の俺の左の鼻の穴にまでべったりと飛び散ったそれは、右の鼻の穴から侵入してくる素晴らしいお焦げ付き卵の薫りと交互に嗅細胞をリンチし具合が悪くなったのを覚えている。ブラインドの隙間から差し込む光が錆びついた流しの蛇口を照らしていたのを覚えている。だんだん思い出してきた。素晴らしく晴れた朝だった。俺は指に絡まっていた銃を椅子に置き、自分は立ったまま、嗅細胞をリンチされたまま、喉の奥に吐き気を宿したまま目玉焼きの一つを吸い込むように食べた。一つは確実に俺のものだからだ。半熟の黄身の生臭い匂いを覚えている。はじめてやったのは12歳のとき、二度目はその翌朝。12歳の俺は目玉焼きを飲み込んで、左の鼻腔に染み付いたもののせいで最悪な後味にほんのちょっぴりだけ泣いた。

で、お利口にも学習して二度と家には帰らず10年と端数年、どちらかというと左の鼻の穴よりの世界で生きてきたわけだけど、驚くほど首尾よく過ごして今日に至る。大人の男の叩きのめし方も、大人の女の相手の仕方も、子供の追い払い方もすんなり覚えられたし、嗅細胞はちょっとやそっとじゃ挫けないほど強くなった。一言で言うなら俺は向いてた。あの夜の初体験と翌朝の高い勉強代はある意味で才能の開花との出会いだった。とは今だから思うだけで、子供ならもっとサッカーだとか自転車だとかの才能が欲しかったと考えるだろう。今でもたまに夢想したりはするし、テレビでセリエAの試合やツールドフランスの中継を観たりなんかしたときほんの一瞬ね。つまりそんな夢想する暇という贅沢を許されるほど、24歳の俺はうまくやっている。食う寝る以上に困らないほど仕事はあるし、それだけの実績だって自負してるし、街に繰り出せば親しげに融通してくれる偉そうな奴らやおべんちゃらを使ってくれる奴らもそれなりにいるし、その中の誰をどの程度まで信用していいのか教えてくれる目だって持っている。左の鼻腔よりの世界で、俺は血なまぐさい順風をぱんぱん満帆に生きている。生きているんだけど。

「おはよう」

素晴らしい朝だった。下ろしたブラインドの隙間から、真っ白な光が差してこんでピカピカに磨き上げたステンレスの流しが淡く発光するような。数分後には卵とベーコンの素晴らしいお焦げの匂いが部屋中に充満するような。いやもう充満している。おかしい。おかしいよ。俺はまだ、素晴らしくふかふかなリネンに半裸で溺れているのに。

「もういい時間だ。起きなさい」

例えば父親が寝坊助の我が子にするようにまぶたに触れられる、そんなあり得ない気配を感じ取って俺はやっと飛び起きた。あり得ない。枕の下に手を突っ込みながら、急にまぶたを引き剥がされてびくんびくん痙攣する虹彩を気合いで引き絞って、ベッドの脇に立つ男に無理矢理ピントを合わせる。ちょうど、彼は堂に入った仕草でもって肩をすくめるところだった。

「やっと起きたかこの寝坊助め」
「それ!俺のだろ!!」

違う、違う違う「誰だよ」とかそういうことを言いたかったのに。そもそも起き上がりざまに両脚撃ち抜いてやったって良かったのに。部屋には誰も招いたことなんかない、女だって入れないし、一夜の過ちを犯しつつこの左の鼻腔よりの世界での初歩的過ちさえ犯すほど酒を飲んだ覚えもないそんな部屋に無断で立ち入っている男なのだから、鼾すら晒してしまったかもしれないそんな領域まで俺を起こすことなく踏み込んできた男なのだから、それだけでとりあえず殺しておくのに充分なのに名前なんか聞かずに充分なのに。

男がごく当たり前のように俺のお気に入りのエプロンを着てやがったので、そんな言葉が飛び出してしまった。

そして俺のエプロンを着た男はこれまた堂に入った仕草でいかめしく眉を上げ、軽く視線を落とす。

「ああこれ、借りたんだ。キッチンも借りたぞ、朝ごはんを作ってやったからな。目玉焼き好きだろう。ちゃんと料理はしてるみたいだが、朝もちゃんと食べるんだぞ。わかったらベッドから出て顔を洗って**」
「キッチンを勝手に使った!?!?」

違う、違うぅこの際俺が唯一の趣味で日頃から磨き上げた不可侵の聖域に踏み入られたことなんてどうでもいいのに、こんなことじゃないのに、聞かなきゃならないことはやらなきゃならないことはこんなことじゃないのに!枕の下で銃を握り締めたまま俺はぶるぶるする。ぶるぶるした。何もかもがうまくいっていないこの状況に。今この瞬間までにこの男を始末してしまうタイミングは、逆に俺がこの世からナイナイされてしまうタイミングはどれだけあったか数えてみて数えきれずに。
数多のタイミングのひとつでありこの状況の真実である「見知らぬ男に寝込みに家にまで侵入されてしまった」という状況に怒り、慄き、嘆き、気合いを入れ直し、結局俺はぶるぶるする。バイブか。

「大丈夫かお前。どんどん顔色が悪くなる」
「…うーんもういいや、誰よお兄さん」

観念して銃を引き摺り出し、男に突きつけながらやっと、やっとのことでなんとかまともに相応しいセリフを吐けた。男は叫びもせず、かといって応戦してくることもなく、目玉焼きの話をしていたときと一ミリも変わらない顔でただするりとホールドアップする。二人の人間と一丁の銃がある状況で最も一般的で穏やかな臨戦状態、けれどその大きな手のひらのまたまた堂に入った挙げ方だとか、チラリと銃口を見た視線の自然な角度だとか、考えの読めない目玉焼きトークフェイスだとかのやけに以上に手馴れた様子が俺の嘆きをいっそう加速させてくるのだ。

「誰?わかってるじゃないか」
「…悪いけど寝起きだし、心当たりならそれなりにあるから…家の中に入られるのはまったく想定外だけどさあ、だから悪いけど名乗ってくんね?お兄さん」
「ほら。さっきからわかっててふざけてるのか?酷い子に育ったもんだ」
「御託はいいからさあ*お兄さん、さっさと」
「ほら!」

男が唐突にホールドアップを解除し、さも嬉しげに破顔しながら俺を指差したのに、俺はまた逃したタイミングをひとつ数えてしまう。なんなんだよ、今朝の俺おかしいよな、もしもこれがこんな住居に侵入しておおせたのにエプロンを拝借してベーコンエッグを焼いているような意味不明な野郎でなければ俺は今頃、すでに何度も**。そこまで考えて、はたと、そのクシャクシャに破顔した顔を見た。あれれ、この顔、この笑い方知ってるぞ。誰だ。声もなんだか、知ってるぞ。誰だ。目玉焼きの匂い。知ってる。誰だ、誰だよ、ウソ、嘘だウソウソまさかまさかまさか**。

「お、お兄さん、もしかして」
「うん?」
「お、お…お兄ちゃん?」
「スエルテ!」

突然の大声と外国語に情けなくも本気でビクつきかけるも、瞬時にウワッと記憶が、昔、12歳よりも昔ハマっていたアメコミにそんな決めゼリフを**大当たり、という意味だった**言うヴィランが居たのだと、誰かさんとごっこ遊びをした記憶までもが蘇り、目と鼻の奥がクワッと熱くなりかけた。そして踏み止まった。お兄ちゃんだ。マジでコイツ。お兄ちゃんだ。誰って俺の。お兄ちゃんだ…実に12年ぶりの邂逅、再会、全米よ泣きたきゃ泣け。

「お兄ちゃん…本当にお兄ちゃんなの…」
「本当にお兄ちゃんだから、まずは朝ごはんを食べなさい。そろそろ冷める」
「お兄ちゃん…俺のズボン取って…」
「これか?」
「違う、椅子のところの」
「こっちか。まったく衣服は脱いだら畳むか掛けるかしなさい」
「お兄ちゃんだ…お兄ちゃんだ…」

小声で呟きつつ渡されたジーンズに脚を通し、その勢いで立ち上がると、お兄ちゃんはデカかった。俺が12歳の頃のひょろりとした面影は微塵もない。でも雰囲気や表情や顔のパーツは間違いなくお兄ちゃんだ。身体も厚い。密室で不意に揉み合いになったら勝てないかもしれない。でもこの笑い方、確かにお兄ちゃんだ。12年前別れたっきりの。

「こら、どこ行くんだ。朝ごはん食べろって言ってるだろ」
「いやトイレ」
「トイレに銃を持って行くのか?家族しかいない家の中なのに」
「いやごめん、職業柄さ…」
「まったく。父さんが生きてたらなんと言うか」

半笑いで躱し、廊下に出てトイレに入りパタンと戸を閉める。さすがにここまで目玉焼きの匂いはしない。今の俺の格好、上半身裸にジーンズに尻ポケットに剥き出しの銃。目玉焼きの匂いが追いかけてくる気がした。あの野郎、マジでお兄ちゃんだ。マジで俺のお兄ちゃんだ。俺には分かる、だって兄弟だもん。でも俺には分からない。何がかと言うと、結構いろいろほとんどすべてこの状況全然分からない…!!
トイレにも北向きながら窓があり、そこから控えめながらも素晴らしい朝日が差し込んでくる。俺はその窓をグッと開けると、朝日の中へ、軟体動物よろしく身体をねじ込んだ。



「キルビル、グラディエーター、レオン、オールドボーイ、親切なクムジャさん。なにこのラインナップ」

レジカウンターに整然とぶちまけられたディスクケースをじとりと見やってから、レンタルビデオ店員は片方しかない目をじとりと俺に向けた。

「ザ・復讐!!ってか!?わかりやすっ!熱心で感心なバイトがいるレンタルビデオ店の特集コーナーか!!普段はAVかサウスパークしか借りないくせに!」
「あ*レンタルビデオ店の店員に借りたもの把握されてるってドン引きだわ萎えるわ*」
「パイパニック氷山もヌレヌレ淫熱の情事」
「あー!!もう絶対来ない!!絶対この店で借りない!!」
「ハイハイ」

お兄ちゃんインマイホームからトイレの窓という屈辱的経路を駆使して脱出した俺は、その足で行きつけの店(レンタルビデオ店)にやってきた。半裸で。だって仕方ない。されど屈辱。俺、この街でいちおーケッコーぶいぶい言わしてるチンピラなんですけど?

「半裸に銃て。お前はアレか、ダンテ意識しちゃってる系か」
「ダンテ?あっ知ってる、画家だっけ?」
「…ねえゲームもしようよ*オレ友だちとゲームの話で盛り上がるの夢なんだけどなあ*」

いつ友だちなったんだと本気でゾッとしたが、前回借りたAVのタイトルを把握されてる程度には通いつめそのたびグダグダ話し込む仲ではあるのだ。友人と言っても差し支えないかもしれない。ちなみに友人と友だちの違いは、立ってるか座ってるかだ、覚えといてね。

「にしてもなんなのこのラインナップ、急に映画に目覚めた?」
「そんなんじゃねーよ」
「誰かに復讐でもするの?復讐もの映画で予習とか」
「そんなんじゃねーって」
「半裸なのと関係あんの?」

片目のレンタルビデオ店員は、ディスクケースの中身が問題なく揃ってるかガチャガチャ確認する手を止めてニヤリとした。すごく変態くさい笑い方だ。ない方の目を常に鬱陶しい前髪が覆っているのを差し引いても顔だけはハンサムなほうなのに、なんでか仕草が逐一変態くさい、この男は。じゃなくて。

「お兄ちゃんが来たから」
「エ?」
「朝起きたら、部屋の中にお兄ちゃんが居た」
「…ハハッ」
「ベーコンエッグ焼いてた」
「ウワー」

片目のレンタルビデオ店員は、年端もいかない子供の意味不明発言をとりあえずいなすのとそっくり同じ相槌を返してくる。絶対意味わかんねえコイツって思われてるよコレ。俺だって意味わかんないもん。
@朝起きたら12年間音信不通かましてたお兄ちゃんがいた
Aどうやって気づかれることなく室内に入ったのか?(一応トラップなんかもあるのに)
Bどうして今更
Cなんのために
どれひとつとっても意味わかんないもん。未だにちょっと夢かな?って思ってるもん。

「…確かにアンタのお兄ちゃんだったわけ?普通に雇われヒットマン☆とかじゃないの」
「兄弟くらいわかるわ。兄弟だもん」
「12年声すら聞いてなかったのに?12年あれば幼児も大人になるしオッサンはジジイになりますけど?」
「それでもわかるし。それにアイツ、」
「なによ」
「父さんにそっくりに育っちゃってたよ」

12年ぶりに再会したのが妹とか姉とかだったら正直わかんなかったかもだけど、アイツはお兄ちゃんで、もしかするとそろそろ父さんの歳になる頃なのかもしれない。父さんが死んだ歳に。
そうして気持ち下向いた視線をあげると、思いっきりニヤついた片目と目が合った。だから変態くさいわその笑顔。

「あ*それで復讐ものなんだ*お兄ちゃんの気持ちをちょっとでも理解しようって魂胆なのね」
「だってそれしか考えられないじゃん…!考えられなくね…!?」
「ビビってんのかアンタ*ウケる*」

ビビってんのか。言われてハッとした。そうか俺、ビビってんのか。
はじめて人を殺したのは12歳のときだった。朧げな記憶をつなぎ合わせて反芻すると、今でも仕方なかったんだという感想以上は出てこない。朧げな記憶だけど、こんなに俺に懐いていてこんなに愛くるしく小さくフワフワなネコがこんなに品がなく見るからにアバズレで無責任で化学的な快楽に溺れ逃避しているクソ女のスパンコールハゲハゲの下品なハイヒールで穴ボコになるまで蹴り殺される謂れはないと思ったのだ。朧げな記憶だけど。ハイヒールと同じようにスパンコールのハゲまくった最悪なクラッチからはそれだけ妙に現実的な重厚感を持った銃が覗いていた。護身用かな?朧げな記憶だけど。だから殺した。仕方なくね?そしてこっちのほうは忘れもしない、こんなことを考えたのを昨日のことのように覚えている。
「こういうことをした日もいつも通り家に帰っていいのだろうか?」
考えただけで俺は考えなしに家に帰った。12歳のまだ脳味噌が半分帰巣本能でできているような子どもだったので。そして二度目ははじめての翌朝だった。二度目の相手は早朝にやってきて、鉢合わせた俺の父親の脳味噌をいとも容易くぶちまけた。その音で目覚めた俺は、まるで台本でも読んだかのように昨夜の女の銃を抱えてキッチンに入り、その名前も顔も知らない男が父親にしたのと同じように背後から脳天に銃弾を浴びせた。結局顔は知らないままになった。この展開のいちばん根っこの原因が銃を持ち帰ったことだと知るのはずいぶん後になってからだけど、表面的な原因なら12歳の俺にだっていくらなんでも理解できた。間違ったと。「家に帰ったからだ」「俺が家に帰ったから父さんは殺された」。そんなにいい父親でもなかったから、ただ父親の次は俺かも、そしてその次は、と思ったから引き金を引いただけだ。仕方なくね?と今でも思う。そんなにいい父親ではなかった。だってダイニングテーブルに三つ並んでいる目玉焼き、それを焼いたのはお兄ちゃんだし。父さんじゃない。そして俺が血まみれのまま目玉焼きの一つを吸い込んだとき、卵用のニワトリの世話を終えたお兄ちゃんが部屋の中に戻ってきた。黄身と返り血の生臭さにえずき泣く俺と目が合った。俺は銃を引っ掴んで逃げ出した。それきり帰ってない。早12年、俺は左の鼻腔に染み付いた匂いまみれの世界でそれなりにうまく生きてきたけど、お兄ちゃんが父親も弟も失って今日までどう生きてきたか、お兄ちゃんにとっても父さんはそんなにいい父親じゃあ、つまり、殺されたって構わないような父親だったかどうかは、俺なんかに知る由も無い。一生。そう思う日が年に数回程度ってほどには音信不通だったのに。

「なんのために今更来るんだよ…!ていうか何者なんだよ…!俺、いちおー、暗殺者?プロの?ってやつ?なんですけど?その俺を完全に…!何回でも殺せるくらいの手際の良さで住居侵入て何者なんだよ…!でなんで朝飯作ってんだよ俺のエプロン着てんだよなんなんだよ意味わかんねえよもう復讐じゃん…!完全に俺になんらかの復讐に来てるもん…!」
「アンタエプロンとかするんだ、キモ」

ザ・復讐ラインナップDVDをレンタルバッグに詰め終えた片目のレンタルビデオ店員はすげなく言い放つ。は?エプロンは基本でしょ?キモくないよ、客の借りたAVタイトル暗記してニヤニヤするよりかはキモくないよ。
あたふたする俺を心底楽しそうにあげつらって笑うこの店員は相当いい性格してると思う。

「ウケるな*アンタそんなにビビることあるんだ。すっげーウケるな*じゃあオレもとっておきいってみようかな*」
「は?なによ」
「アンタが12歳のときに殺した女、オレのママ」
「」

レンタルバッグを渡す手で手ごと握りながら言うものだから、俺は思わずその手に力をこめてしまった。中からバキバキッと音がする。「ウワーオ信じらんねえ弁償しろよ!」だの叫びながら片目は慌ててバッグの中を確認する。今折れたのはどのDVDだろう。キルビルか?それともレオンかな。レオンかな。

「まあ、もしもアンタが殺ってなかったら、オレとアンタの出会いはレンタルビデオ店員と客って関係じゃなく、もしかすると依頼主とヒットマン☆って関係だったかもね」
「…あ?」
「そーいうことだから」
「…ああ」
「つかクソビビりすぎだろ、ホント今日のアンタ、大丈夫?」

大丈夫なわけないだろ。大丈夫なわけないだろ。今日まで、それなりにうまく生きてきたのに、それなりに要領よくやってきたのに、お兄ちゃん。お兄ちゃん。俺、どうしよう。

バキバキに砕けたレオンを片付けながら、あいも変わらず俺を嘲笑う片目を見て、あ*世間って狭いな*と俺は思った。



【つづぬ】
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