06

姿現しで銀行の脇に移動すると、ニュートはニフラーをもう一度叱って、ようやくトランクの中にしまい込んだ。放心状態のジェイコブに「気分は?」と聞くと、ただ私を見て2、3度瞬きを返すだけだった。

「大丈夫ではないですよね。怪我とかしてませんか?」
「巻き込んですみません」
「あれ、一体なんだったんだ?」
「貴方には関係ない」
「もう少し優しく言ってあげて。彼、私たちのせいで撃たれるところだったのよ」
「……ごめん。でもどうせ、数十秒後には全て忘れてる」
「まあね」
「貴方は色々見すぎた。ちょっとそのまま立っててください。すぐ済みますから」

そう言って、ニュートはジェイコブに背を向けてしゃがみ込んだ。「本当に怪我はないですか?」と聞いた私に、ジェイコブは首をゆっくり縦に降って応えた。再び立ち上がろうとしたニュートの頭めがけてトランクが直撃。角が当たっていないと良いとのだが、実際に目の当たりにすると映画で見ていた何倍も痛そうだ。軽く頭を押さえて痛がる彼のそばに寄ると「大丈夫?腫れてない?」と顔を覗き込んだ。

「……しまった」
「ごめん、びっくりして見失っちゃった」
「いや、僕も油断した。名前は大丈夫?どこか、怪我とか」
「うん。私は平気。立てそう?」
「なんとか」

私を支えに立ち上がったニュートは「観光はまだ我慢してもらうことになりそうだ」とコートを直した。これからどんどん観光どころではなくなってくる。もう帰り際にワンチャンぐらいの気持ちだ。

「誰か歩いてくる」

ジェイコブと入れ違いで通りから入ってきたティナが、こちらに向かって歩いてきているのが見えた。

「行こう。表が騒がしいうちに」

当たり前のように差し出されたニュートの手を取り、こちらへ向かってくる人物の方へと何事もなかったかのように平静を装い歩いていく。数メートル、数十センチと徐々に縮まる距離に、ティナの前で手を繋ぐのは流石にまずかったのではないかと焦る。お互いの距離がほぼゼロになった瞬間、ティナがニュートを掴んだのを横目に繋いだ手に力を入れた。次の瞬間、今度は煉瓦造りの壁に背中を軽く打ちつけた。

「貴方たち誰?」
「えっと、また会えましたね」
「ええ、本当。こんな形で会うとは思わなかったけれど。貴方たちは何者なの?」
「私、名前」
「ニュート・スキャマンダー。君は?」
「トランクの中身は?あれは何?」
「僕たちのニフラー」
「かなり悪戯っ子だけど、とっても可愛いの」

険しい表情に似合わず、彼女の上唇にはマスタードがべったりと付いたままだ。「あの、何か付いてますよ。そこ」とニュートが教えると、彼女はそれを雑に拭った。

「いったい全体、どうしてあれを逃したりしたの?」
「わざとじゃない。あいつ手に負えないんだ。なにせ光るものに目がなくて」
「わざとじゃない?よりによってこんな時に騒ぎを起こすなんて……」
「それって、さっきの集会が関係してる?」
「そうよ。今、アメリカの魔法社会はピリついていて、難しい状況なの!それなのにあなた達は……連行します」
「えっ?」
「連行?逮捕されるってこと?」
「そう」
「そんな……まぁでも、金庫開けちゃったりとか確かに心当たりはあるけど」
「金庫?」
「なんでもないわ。こっちの話」
「連行って、どこへ?」

元の世界にいた時でさえ警察のお世話になるようなことはなかったというのに、こちらの世界に来てからは何やら派手に動きすぎている気がする。イギリス魔法省にも何度か呼ばれているのだ。とはいえ、イギリス魔法省は過去勤めていた職場でありテセウスもいるため、今回のような連行という形でもない。ティナはコートの内ポケットから手帳のようなものを取り出すと「アメリカ合衆国魔法議会よ」と身分証を開いて見せた。

「君、マクーザの人?捜査官か何かなの?」
「アメリカの魔法省ってこと?」
「それより、あのノー・マジはちゃんと処理したでしょうね?」
「え?何?」
「ノー・マジよ!ノー・マジック、非魔法族!」
「ああ、僕らはマグルって呼んでる」
「でも、ノー・マジ呼びの方がちょっとオシャレじゃない?分かりやすいし」
「そうかな?」
「うん」
「記憶は消したんでしょうね?トランクを持ったノー・マジ」

彼女の問いに、ニュートとアイコンタクトを取る。消しそびれたと言ったら、きっと問い詰められる。しかし、言わないままでも後から必ずバレるだろう。ティナは「消したのよね?」と私たちに詰め寄った。

「実は、その……」
「消してないの?」
「……逃げられちゃって……」
「嘘でしょう?第3条のAに反するわ。2人とも連行します」
「第3条のAって何?」
「第3条のAは、第3条のAよ」

ティナは私とニュートをしっかり掴むと、再び姿くらましを使った。



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