あしながおじさん

あれ、この子学生支援受けてるままじゃん。

高専に追加入学をする学生がいると報告を受けたのは昨日の話である。
「これなんて読むんだろ。とらつえ ゆうじん・・・?」
"虎杖 悠仁" 
フリガナがふられていない漢字を読めるままに読んでみる。
学生ながらも労働者にもなる呪術高専は、学資金が必要であるが"活動"に応じた給与がふりこまれることになっている。学資金は奨学金として扱うことになっているが、学資金以上に給与が上回ることが多いため振込の手続きをしなくてはならない。
労基法59条に定められている通り未成年といえど、賃金は労働者本人に支払わなくてはならないのだ。

書類に本人の確認・同意が必要であるため高専のトップへと内線を飛ばす。
「お疲れ様です。経理部の住公です。夜蛾学長、今お時間大丈夫ですか。・・先日いただいた学生についてですが、はい・・はい "いたどり ゆうじ"くんですね。はい、午前中、はい。今が10時半ですので11時に伺ってもよろしいですか。はい、いたどりくんによろしくお伝えください・・・それと別件にはなりますが、今月のの経営戦略会議についての・・・・」
"虎杖 悠仁"の読み方を確認し、ついでとばかりに仕事の話を持ち掛ける。
夜蛾学長は祖父と仲がよかったらしい。その名残で入社後に目をかけていただいている。会議で会うと「飾っておけ。これはかばんにでもつけろ」と可愛いぬいぐるみを渡される。いかつい夜蛾学長の見た目と可愛いぬいぐるみのセットは割とシュールである。
不思議なことに、ぬいぐるみをもらった日に限るが、どうしてか肩こり・腰痛が改善するのだ。癒し効果、すばらしい。また、今後の会議でぬいぐるみコレクションが増えるなとムフフと声がもれる。
約束の時間まで30分。事前に準備されている学生用の説明パンフレットを用意して、残りの時間で出来る業務をさばいていく。


11時ピッタリに待合室に到着し部屋に入ると、ピンクの髪をワックスで立ち上げた、今どきの男の子が椅子に座っていた。
「あ、虎杖 悠仁くんかな?」
「あ、はい、そうです」
「はじめまして、私住公 尋音といいますお金を管理するところで働いてます。もしかしたら夜蛾学長のお話と重なる部分があるかもしれないんだけど、虎杖くんが高専生になったことで今まで受けていた支援が受けられなくなります。それについての説明とサインをもらいにきました」
「はい、わかりました」
快活そうな見た目とは裏腹に、背筋を伸ばし、しっかり目を見返して返事をしてくれる。

高校生でもわかるように書かれたパンフレットを使って説明をすすめ、直筆サインをもらう。
「うん、これでばっちりだね。サインもらった後で申し訳ないんだけど分からないとこは無かった?」
「うっす!大丈夫っす、なんかすみません。俺こういうむずかしいことわからなくって」
「ぜーんぜん。分からなくて当然だよ〜こういう文書文字が多くてわかりにくいもんね」
「そうなんすよ!漫画の字は読めるんですけど教科書とかそういう文字みると眠たくなっちゃって!」
虎杖くんはタハーっと照れたように頭をかく。
人見知りを全くしない性格なのだろう。初対面の私にも臆することなく会話をしてくれる。
フレッシュだ・・・笑顔が可愛い。決して未成年に魅力を感じたわけではないぞ。犯罪ではない。殺伐とした雰囲気の職場の空気より新鮮な空気を吸いたくなったのだ!と自分に言い聞かせる。
戦士に少しくらいご褒美をください、とほんの少しだけここにとどまることにした。

「虎杖くんはどこからきたの?」
「仙台からきました!東京っていろいろ物があってすごいっすね!住公さんはずっと東京なんですか?」
「ん〜、生まれは熊本になるのかなぁ。全然記憶ないんだけどね」
「俺、熊本いったことないっす!くまモンと一緒に写真とってみてえ〜」
あはは、と笑いあいながら若い子との会話を楽しむ。

「住公さんは補助監督なんすか?」
「補助監督?ううん。私は、公認会計士をやっててお金の管理をしているよ。そういう活動には携わってないんだよ〜」
「へぇ〜そうなんすね。俺も突然みえるようになったから変な感じっす」
「ここに務める人たち、みんな"みえてる"って言うもんね〜私全然わかんないんだよ〜」
「えっそうなんすか?住公さんみたいな人も働いてるんですね」
「おじいちゃんの希望でね〜。私のおじいちゃんがここで働いてたんだけど、死んじゃったからってその後釜として働いてるの。遺言みたいな感じだったのかなぁ」
「えっ」
換気のために開けていた窓から、私と虎杖くんの間に風がふきぬける。

高校生になりたての、しかも初対面の人に話す内容ではないが、なぜか虎杖くんには話すべきな気がして口がとまらない。
「わたし赤ちゃんポストのこどもでさ。あっ、おじいちゃんとは血はつながってるんだよ。
私に自我が芽生えてきたくらいの時くらいかな。どうやって調べたのか分からないんだけど、おじいちゃんが施設に突然乗り込んできて、わしの孫だって騒いで連れ帰ってきたんだって。
家庭内調査とか査定とかいろいろな順序すっとばすもんだから施設側も大変だよね。割とおじいちゃんの社会的地位が高かったのもあるんだろうけどね」
関東からはるばるすごいよね〜
恥ずかしくもないし隠すものではないからと語ってくれた私の出自である。自分の行動を、姫を救うヒーローかのように盛りに盛られた話は今となっては笑い話である。

「大企業の金を握っているのはわし。尋音はわしの後を継ぐんだっていうのが口癖でね。
関係者上は祖父だけど、私にとっては親だから私もそれに応えたくって一生懸命勉強してさ、国家試験に合格したんだよ。後を継がせるって言うけど、さすがにそこまで甘えられないから、自分で就職先を検討しないとなって考えてた矢先におじいちゃんが死んだの。
その大企業っていうのがここだったわけ。激務すぎて悲しむ間も与えられなかったよ〜」
とほほ。涙がちょちょぎれちゃう。
死因は事故だと聞いている。連絡をうけ、かけつけると、体の損傷が激しく顔の認識も難しいと説明され、身元確認のためにボロボロになった布を見せられた。朝に着ていた服の一部だと認識した時には、祖父は遺骨となっていた。遺骨を届けてくれたのが、何を隠そう夜蛾学長だ。
だいぶ重たい話をしてしまったな、と虎杖君をみる。

「・・・・・・おれも、じいちゃんが親がわりになって育ててくれて、その、死んだんすけど」
「あぁ、そう・・なんだ」
私が話をすべきと思ったのは直感だったのだろうか。16にして肉親を失い1人になることはつらかろう、寂しかろう。
「じいちゃんとほんと直前までしゃべってて、死んだってすぐ気づかなかったんですけど、最後に、俺は強いから人を助けろって大勢に囲まれて死ねって言ったんす」
「俺、じいちゃんがいいたいことなんとなくわかるし、叶えないとなって思ってて」
「ここに来たら、もっと強くなれるって、なろうって思って」
一文一文を噛みしめるように話してくれる。

「そっか。・・・私のおじいちゃんも幸せ者だけど、虎杖くんのおじいさんもお孫さんがこんなしっかりしてて幸せ者だね!」
「そうですかね」
今まで下を向きながら話していた虎杖くんと目が合う。
「じいちゃん、当たり前だろうがって怒鳴ってきそうっす」
笑顔でいうその目に涙はない。芯がしっかりしている子だ。

「サインもらうだけなのに、時間とらせちゃってごめんね」
「全然っす!ありがとうございました!」
「私、いつでもいるから困ったことがあったら経理部ってとこまで連絡してね」
内線番号がかかれた名刺を渡す。
「うっす!ありがとうございました!頑張ります」
じゃあ、またっと名刺を持った手で元気に手を振ってお見送りをしてくれる虎杖くんに手を振り返す。

新鮮な空気を吸うことが出来て頭が冴えている。私もあと数時間頑張ろう。頑張れる。
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虎杖が高専に入学してすぐくらい。

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