断ち難き愛染

プロローグ


 この日、エマは転校してから必要になる物買う為、ダイアゴン横丁へ来ていた。
 元々日本の魔法魔術学校、マホウトコロへ通っていたが、ここイギリスにあるホグワーツでは授業で使われる教科書も制服もまるで違うらしいので新調するしかない。

 校則、先生や生徒の名前、迷路の様な学校内地図、覚えることがたくさんあるだろうなぁと小さくため息をついた。
 その時―――ドンッと何かにぶつかり、尻もちをつく。
 ぶつけた鼻を手で抑えながらぶつかった方を見上げると、美しいプラチナブロンドの髪をした男の子がエマをキツい目つきで見下ろしていた。

「どこを見て歩いてるんだ?」
「す、すみません。考え事をしていて…」
「そんなことは聞いてない。家名は?名前を名乗ってみろ。まさか『穢れた血』じゃないだろうな?」
「九条…エマ・クジョウです。えっと、穢れた血…?」
「非魔法使いから突然変異で生まれてきた魔法使いのことさ。そんなことも知らないのか」
「えぇ…私の住んでいたところではそんな呼び方しなかったので…」
「フン。名前、覚えたからな。ホグワーツで会うのが楽しみだよ」
「え…?」

 男の子は高圧的な目でエマをまた見下ろすと、さっさとどこかへ歩いていく。
 なんだかすごく感じの悪いひとだったな…と思いながら服についた土を払うと、落としたメモ用紙を拾って買い物を続けた。

 買い物を一つずつ終え、最後に制服を買いに『マダム・マルキンの洋装店―――普段着から式服まで』と書かれた看板の前へ着いた頃には、もうあたりは薄暗くなっていた。
 店内へ入ると藤色ずくめの服を着た、愛想のよいずんぐりした魔女がこちらを向いた。

「いらっしゃい。今日は何を?」
「ホグワーツの制服を一式いただけますか」
「ホグワーツね、こちらにいらしてくださないな。ちょうど同じ学校のお若い方が丈を合わせているところよ」

 店の奥へ案内されると、茶髪の青年がローブの丈合わせをしているところだった。
 隣の踏み台に立たされ、頭から長いローブを着せられる。

「(わ、背高いなぁ…。)」

 隣に立つと、日本では背の高い方だった自分がとても小さく感じた。
頭1個半分は離れているだろうか、足もすごく長い。

「今年入学するのかしら?」
「いえ、今年から3年生です。転校なんですけど」

 急に話しかけられ、ビクッと体が動いてしまった。
 隣の青年にジロジロ見ていたことがバレていませんように…とエマは天に願う。

「ずいぶん小柄ねえ」
「あ、はい…」

 袖のピンを留められ始めた頃、隣の青年が、やあ、君もホグワーツなんだね。と声をかけてきた。

「えぇ、あなたもですよね?」
「ああ。2学年上だからあまり会うことはないかもしれないけどね。ところで、寮はもう決まってるの?」
「寮?」

 その言葉に首を傾げると、青年は親切丁寧に説明をしてくれた。
 そして、自分はハッフルパフというところなのだと、よく晴れた日の太陽のような眩しい笑顔で言う。

「君もハッフルパフだといいね」

 そう言って青年は踏み台から降り、身なりを軽く整えてから初めてじっとこちらを向いた。

「君、名前は?」
「九条…エマ・クジョウ、です」
「じゃ、またホグワーツで、ミス・クジョウ」

 そう言って小さく笑う青年が出て行った扉を見つめながら、勇気を出して名前を聞かなかったことを悔やんだ。
 すごく透き通って綺麗な瞳だったな…とふわふわしていると、終わりましたよ、お嬢ちゃん。と魔女が言った。



Bkm


< -1/16- > Next



novel top
TOP