18 腹が立つ

 3回ノックし扉を開け、五条さんが悠々とした足取りで薄暗い部屋に入る。彼の後ろで隠れるようにしながら火が灯された柱が並んでいる先を見ると、襖のみが円になるように並びその後ろに人が座っているのが見えた。吊るされた灯りの真下に立つ。襖に囲まれて何だか本当に尋問されそうな雰囲気だ。

「えー、こちら昨日まで一般人だった相川詩織さん。意識操作及び自身に対しての感覚の切り離しという珍しい術式を使用します。精神系の呪術を扱える事から読心等も期待できるでしょう」
「意識操作…襲った呪詛師が舌を噛んだというのはそれのせいか」
「死んだ呪詛師の死因は?」
「それは私にも分かりかねます。彼女の術式は少し特殊な様でね」
「家入の鑑定を待つしかあるまい…まさか非術師家系からそんなものが出ようとはな」
「一般家庭から特級が生まれたり御三家から私を殺しかけるような天与呪縛が生まれてくるんですから、有り得ないことではないでしょう」
「……」

 絶対今地雷踏み抜いたでしょこの人。横目で五条さんを見るとサングラスの隙間からウインクが飛んでくる。この人に頼りきっていたらきっと豚箱にぶち込まれる日もそう遠くないな…。

「読心ができれば呪詛師の駆除に役立つだろうが、危険ではないか?機密事項が一介の呪術師に漏れては困る」
「確かに、術式がわかっていても止められなければなぁ」
「ならば管理体制を整えた方が良いだろう。担当教官は我々で決めるのはどうだ?」
「相川詩織が私の手に余ると?彼女の術式を止められる呪術師なんていませんよ。いるなら是非紹介してください」
「やってみないとわからないだろう。それに、彼女の意思は聞いたのかね?」
「…いいえ」
「では聞こうか…相川詩織。望むなら我々が君に合った術師を用意しよう」
「彼は確かに最強との呼ばれは高いが、君は家入の様な高専でのサポートの方が向いていると思うぞ。その才能は貴重だ。何も死に急ぐことはないだろう?」

 わざとらしく媚びる様な声音に目を細める。つまり、エレベーターに乗せてあげるから自分たちの為に呪術を使えと言っているのだろう。悪徳営業そっくりだ。私を利用したいという心の声が読心なんて使えなくてもわかる。
五条さんが口を一の字に噤んで私を見た。どうやら心配してくれているみたいだ。大丈夫ですよ。ちゃらんぽらんなパワハラ上司でも私の恩人です。それにこのお年寄りたちよりは信用できますからね。

「どうした?遠慮しなくても良いのだぞ」
「皆さん、五条悟に相当お困りの様ですね」
「ん?」

 五条さんが呆気にとられた様に間抜けた声を漏らしたが、気にせず話を続ける。

「まだ知り合って間もないですが、彼が不真面目な事は充分わかりました。私も皆さんのお気持ちがよくわかります。管理が必要なのは彼の方なのでは?」
「…そんな事ができるならとっくにしている」
「えぇ、そうですよね。これは提案なのですが、私が彼のスケジュール管理や素行矯正をするというのはいかがでしょうか。呪術界を支え貢献してこられた方々が、たった一人に振り回されているのを見るのは胸が痛みます…ご覧になられた通り、彼は私を気に入っている様ですので、多少融通もきくでしょう」
「だが…君は昨日まで何も知らない非術師と変わらなかったのだろう?」
「もちろん呪術師としての技術や知識は特級である彼から学ばせていただき、ご期待に添えるよう尽力致します。成果がなければ煮るなり焼くなり好きにしていただいて構いません…。どうかご検討くださいませ」

 頭が膝のところまでくるほど丁寧にお辞儀をし、愛想よく微笑む。狭い呪術師界隈で家柄も実績もないとなると上層部に取り入っておくのは必須とも言える。だが、信用できない人間に人生を左右されるわけにはいかない。これが私に出来る最善の選択だ。
 しばらくの間彼らだけで協議され、その内の一人が低い声で言った。

「___よかろう。提案については検討する。それまでは暫定的な措置として五条悟を担当教官とする」

目次

novel top
TOP