17 既視感

「なーにその熱い眼差し。またキスしたくなっちゃった?」
「違いますね」
「つめたーい!」

 高専に到着したところで車を降り、五条さんの後ろを伏黒くんと並んで着いて行く。建物に入ると、昨日の薄暗い部屋とは違い映画でみる日本家屋の様な内装で少し安心した。長い廊下を歩き、目的地であるらしい扉を勢いよく開ける五条さん。部屋に入ると深みのある香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。いつも飲んでいるお気に入りのコーヒーと似た独特な芳香だ。

「よっ!硝子、連れて来たよ〜」
「…その子が他人の意識をいじれるっていう?」
「そ、今日の襲撃で自分の痛覚を切れることもわかった。止血は済んでるけど怪我してるみたいだから診てやって」
「相川詩織です。よろしくお願いします」
「家入だ。ここで怪我人の治療なんかをしてる。よろしくね」

 家入さんが気怠げに微笑むと、目の隈が一層濃くなる。なんだか不思議な雰囲気の女性だ。早速用意された椅子に座り頭の傷を診てもらうと、彼女は小さく首を傾げる。

「君、反転術式も使えるの?」
「反転術式…あ、体の治療と術式反転が可能になるってやつですよね。使えるんですか?」

 私と家入さんが同時に五条さんを見るが、彼も知らない様で肩をすくめた。

「綺麗な治りをしているわけじゃない。でもタオルや手で抑えたくらいでここまで上手く止血はできない。反転術式を途中でやめたか、血を傷の部分だけ固めたか、傷口の部分だけ時間を進めたか…君の呪術なら自分の体に怪我なんてしてないと思い込ませたら治ったりなんてするのかもね?」
「精神系の呪術自体稀だからね、まだわからないことが多すぎる。まっこれから自分に何ができるのかゆっくり見つけていけばいいよ」
「はい。…あの、痛覚が戻ってきたみたいで、痛みが…」
「じゃ、さっさと治そうか」

 家入さんが手をかざすと、白い炎の様なものがふわりと傷口を覆う。じんわりと頭が温かくなったかと思えば、終わったよ。と言って彼女は手を下ろした。傷のあったところに触れてみると、綺麗サッパリかさぶたもなくなっている。

「ありがとうございます…こんなすぐに治せちゃうんですね」
「ふふ、まぁね」
「反転術式は呪術のコントロールが複雑でね、他人を治療できる術師はすごく貴重なんだよ」
「五条さんでもできないんですか?」
「自分には使えるんだけどね〜やり方教えてもらっても全然だめ。何言ってるかわかんないの」
「あんたがセンスないだけだよ」
「うるせー」

 二人の会話が面白くてつい笑いがこぼれる。結構長い付き合いなのかな。部屋を出ると、一足先に廊下に出てスマホを見ていた伏黒くんが呆れた顔をして五条さんを見た。この人いつも呆れられてるな。

「五条さん、早く相川さん連れて行かないと。もう予定時間ギリギリですよ」
「大丈夫大丈夫〜」
「え、何の予定ですか?」
「君が上の会議に呼ばれてるって話、言ってなかったっけ」
「初耳ですけど。尋問でもされるんですか…」
「まあそんなとこ」
「…あんたその内パワハラで訴えられますよ」

 そんなの言われたことないけどな〜。と笑う五条さんにため息をつき、早めに歩く伏黒くんの後を小走りで着いて行く。二人が足を止め大きな扉の前に着いた頃には心臓の鼓動は普段より早く息も上がっていた。運動不足なのは明らかだ。呪霊とやらと戦わなければならないのなら鍛えることになるだろうな…。

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