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2006年2月5日 渋谷駅南口

昨日も渋谷で今日も渋谷。昨日は相方とお揃いのロリィタだったけど今日はギャル。どっちも好きなカッコだから結局のとこクローゼットから服が溢れてる。
待ち合わせのモワイ像へと向かうと、すでに待ち人は着いていた。金色と水色の髪の毛を帽子の中にしまった丸眼鏡のその姿に近づく。
「竜胆お待たせ」
「おぅ。昨日はさんきゅ」
声をかけると、竜胆はこちらを見てイヤホンを片方だけ外した。
「何聞いてたの?」
「聞く?」
片方外したイヤホンを手渡してくるから、イヤホンから漏れてくる音が私の耳にも届いた。それはイザナ様の声と知らないメロディ。
これは、ダメなヤツ。
瞬時に判断した私はそのイヤホンを竜胆に押し付ける。
「聞かない。新曲お披露目されてから、蘭様に感想言うんだから」
「真面目か」
「そう。私は真面目に天竺ギャやってんだから、邪魔しないでよ」
「はいはい。行こ」
そう言って歩き出す竜胆は、聞いていた音楽プレイヤーを止めてイヤホンのコードを丸めてポケットにしまった。
男女の友情は成り立つ派の私と、兄貴のガチ勢は女に在らずな竜胆は、健全なお友達である。出会いは、飲みの席。私の友達の彼氏のツレが、たまたま竜胆だっただけだ。
当時すでに天竺の蘭様のファンだった私に、竜胆が気付くまで小一時間要した。天竺に行くときは相方と合わせてロリィタ。普段は気分でロリもギャルも着るわけで、その飲みの席にはギャルの出立で参加していた。
「………。ぅ、…あーーー!!」
突然、叫び出した頭を抱えた竜胆にその場に居たみんなが注目する。そして、竜胆はよりにもよって、私のライブネームを叫んだのだ。飲みの席で名乗った本名のナマエじゃなく、ライブネーム。
「気付いても今言うなって!こっちはスルーしてんだから空気読みなよ」
私のお説教に竜胆は眉を寄せてしょげてる。
「あー。ごめん。…悪かったって、ナマエ…?」
そんなこんなで、竜胆と友達になったのは気が合って気を使わなくて良くて、楽だから。ただそれだけ。
別に竜胆を通して蘭様とどうこうなりたいなんて思っていないし、大好きな天竺関係で気まずい思いはしたくないから、竜胆とどうこうなろうとも思ってない。まぁ、竜胆は愛する彼女ちゃんの惚気話も私にフツーにしてくる位にフレンドリーだから、それはあり得ないと思ってる。
私と竜胆の友情は、私の相方ももちろん蘭様も知らない。

所謂大衆居酒屋で、竜胆と向かい合って座ってビールで乾杯。
「でさ。店長がマジ無理でー…」
仕事の愚痴にも、バンギャには言えないバンドマンの愚痴にも、7割型肯定してくれて残りの2割は笑い飛ばして残りの1割程度諭してくれるような竜胆とのおしゃべりはつきない。
気ぃ使い屋で聞き上手な竜胆だから、すごく居心地が良くてお酒も進む。
「二軒目、カラオケ行こー!V系縛りね」
私の我儘にも付き合ってくれる竜胆を連れて、二軒目へ。煙草臭い狭い部屋に押し込められて、お互いデンモクと睨めっこ。
「ナマエ先入れていーよ」
竜胆に一曲目を譲られて入れた曲は、蜜と唾。白塗りだしだいぶグロテクスなPVが流れても、全く問題ない安心感がここにはある。
自然と手が拳を握ってしまっても、隣に座る竜胆も自然と拳を握るし、曲に合わせて指は1と2を示す。流石に手扇子はしない竜胆が、手扇子はできない事を私は知ってる。
最初はお互い自分の好きな曲を入れて歌って、フリして、頭振って。竜胆はドラム叩く振りなんか始めてみたりして。
「竜胆ドラム叩けんの?」
「んなわけあるか」
「だよねぇ」
「ナマエ、こういうの歌えよ」
そう言いながら竜胆が見せてきたデンモクに表示された大塚愛。
「いや。竜胆とカラオケ来て大塚愛歌わなきゃいけない意味がわかんない」
「んなら、ヴィジュバンならい?」
「いーよ」
そして竜胆が入れたのは妄想日記で、前奏が流れれば手はもちろん勝手に動いてしまう。
「いーじゃん。もっと妄想女らしく気持ち込めて歌えよ」
竜胆の無茶振りに悪ノリした私は、バンドマンに秘密の関係を妄想してストーカーと化すバンギャルの歌を入れられたお返しに、アブナイ妄想男の歌を返してやった。
「わ。マジかよ」
貴女ノ為ノ此ノ命。と画面にタイトルが出ると、文句を言いながらもマイクを握る竜胆だから好きだ。
ワンフレーズ歌い終わってからの、前奏で掌をくるくる回し始める私を見て真似しようとして諦めて歌い出す竜胆。私達の手首は、ベースを弾くのとは違う筋肉が備わってんだよ。
「ね。竜胆、これ歌って」
許可をもらう事なく入れた関白宣言!?に、吹き出しながらもちゃんと歌ってくれる。
「乳の足りないナマエ向きの曲じゃん」
竜胆には全く無関係な余計な事をのたまう竜胆。
「は?乳見てないで、ちゃんと煽れよ」
って一言で、ご本家よろしく煽ってくれるから、その場で折り畳んで逆ダイしちゃえばすごく楽しくなるから、斜めに逸れた私の機嫌もすぐに直るのだ。
相方にも、蘭様にも秘密のこの遊びは、竜胆の可愛い彼女からの電話でおひらきとなる。それも、だいたいいつも通り。
 


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