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帰宅ラッシュの帰り路



 帰宅ラッシュと言われるような時間帯の混雑した車両の中、昨年始めて会った伯父と並んで電車に揺られながら送るメッセージは母親宛てである。
「ナマエちゃんと帰んの?」
「ん。ってか、見んなよ」
「見えたの」
 そんな屁理屈を言って、まだ画面を覗き込んでくる竜胆にはこれ以上何を言ったとしても、俺とナマエとのメッセージのやりとりを覗いて来るつもりだろう。
「ナマエの事気になンの?」
「そりゃあ……兄貴のオンナだし?」
「なんだよ、その、疑問系」
「兄貴がなんかやらかすと、テンパったナマエちゃんから俺に連絡来るから、その心構えをだな……」
「竜胆もナマエの事気になってんじゃん」
「つーかさ、ナマエちゃん今日仕事?兄貴と一緒じゃねーの?」
「親父、今朝、ナマエと会うって言ってた?」
「いや、口に出しはしねーけど……オマエの親父はナマエちゃんの事となると、わかりやすいだろ。ほら……」
「あー……なるほどね」
 竜胆の言葉に素直に頷けちゃう位、いい年こいて必死で俺の母親を口説いている親父の姿をイヤというほど見せられている。
「いやに冷静だな。兄貴とナマエちゃんがオマエに嘘ついて密会だぜ?」
「どーせ、ナマエが俺に知られたくねーコトでもヤってんだろ」
「ふーん……オマエはそれでいいの?」
「……別に」
「でも、ナマエちゃんの事は心配なんだ。駅から親と一緒に帰るから今日は通話できないってオンナに連絡しちゃう位……このこ、地元に置いてきた中学ン時の彼女だろー?」
 俺の手元のスマホを横から覗き込んでくる竜胆は「まだ付き合ってんの?」と聞きながら、彼女のアイコンを指さした。それには答える事なく、スマホをポケットの中に押し込む。
「きっと親父となんかあって一人でいたくねーんだろ」
「それで、地元のオンナ放ってナマエちゃんと一緒に帰んのかよ。それじゃオマエも都合のイイ男の典型じゃん。ウケる〜」
 俺の隣で茶化してるだけの竜胆は、心身共に全然笑ってなどいないくせに口ではウケると言う。そんな叔父の本心なんて、俺には全くわからないし、身内だからと可愛がってくれる竜胆には申し訳ないけれど、大して興味もなかった。

 車両の中で竜胆と別れ、混雑する車内から抜け出す。
 改札口へと向かって行くと、改札を出てすぐのところにナマエが居た。普段仕事に出かけるような格好でいるけれど、どこがどうとかって具体的なトコを挙げられないけど、なんだか雰囲気が違う様に見えてしまう。それは、さっき竜胆が俺に余計な事を言ったからなんだと思う。
 人混みに流れて改札を通り、ナマエが見える方へと真っ直ぐに進む。
 俺の事を待っているはずなのに、まだ俺に気付かないでぼんやりとしているような母の姿に、やっぱり竜胆の言う通りだったんだと納得した。
 一緒に暮らす俺に嘘をついて、俺の親父とこっそりなにしてんだか。いや、ナニしてんのかとかは聞きたくないんだけど、俺に隠れて親父に会うのはそろそろやめて欲しい。まぁ、俺もナマエに隠れて女の子と遊んでたりする訳だからやってる事がおんなじ似たもの親子っちゃーそーなんだけれども。俺とナマエでは事情が違うと思わねぇ?思うだろ?
 俺は、そー思ってる。

 


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