蘭(7)に遠足のお弁当を作らされる話
帰宅したらFAXが届いていた。
内容は、遠足のお知らせ。行き先は水族館。日にちは明日。
用紙の端に見つけたのは、小学校の名前。
これは!?
思い当たる節に、電話をかけた。
数回コール後に繋がって、子供の声が受話器から聞こえる。
『灰谷…』
「蘭ちゃん? ママいる?」
『ババアはいねぇよ。』
「ババアじゃなくてママね」
『ナマエもババアって言ってんじゃん。』
最近の蘭ちゃんはああ言えばこう言うの典型で可愛くない。
「蘭ちゃんか竜ちゃん、もしかして明日遠足?」
灰谷家に大人が誰もいないなら、誰がFAXを送って来たのだろう? と不思議に思いながら、聞きたい事を尋ねた。
『俺。アイサイべんとー待ってるぜ。』
「え。もしかして、蘭ちゃんがFAXしたの?」
『うん。すんげーだろ。』
「ママは? お弁当作らないの?」
『ババアが作るわけねーだろ。買うのやだからナマエ作ってよ、アイサイべんとー。』
アイサイべんとーの意味わかって使ってなさそうな小2男児に、遠足の弁当を強請られてる。
「わかったよ。明日の朝持ってくから、お弁当以外の持ち物リュックに入れられる?」
『おっけー。ナマエ、りんごはウサギさんにするなよ。恥ずかしいから。』
「はーい。お弁当、サンドイッチ? おにぎり?」
『おにぎりで唐揚げ入れて。あとウインナーと卵焼きなぁ♡』
「蘭ちゃんの卵焼き甘いやつね。楽しみにしてて」
『おう。おやすみ、ナマエ。』
「おやすみなさい」
生意気な男の子からの電話を切って、私は閉店間際のスーパーへと駆け込んだ。
翌朝、早朝からリクエストの唐揚げをあげて卵焼き作ってウインナーをボイルした。ミニトマトとブロッコリーを添えて、デザートのりんごはウサギさんにはせずに、ふりかけご飯のおにぎりも詰めた。
これなら蘭ちゃんもお腹いっぱいになるだろう。
出来上がったお弁当を持って、彼らの家の前まで行くと、玄関から出てきたところだった。
「蘭ちゃん、はい」
お弁当を手渡すと、小さな両手でしっかりと受け止めてくれる。
お弁当をリュックにしまってる彼の後ろのドアから、大きなランドセルを背負った弟が出てきて私を見つけてパタパタとかけてくる。
「ナマエ、一年生は夏休みが終わったら動物園行くって!」
「竜ちゃんの遠足も楽しみだね」
「うん! オレのアジサイべんとーのりんごはウサギさんでも良いぞ! ウサギさん可愛いからナァ♡」
ニコニコ笑顔の一年生の言い間違えが可愛くて、こっちもニコニコしてしまう。
お兄ちゃんの蘭ちゃんの真似っこが大好きな竜ちゃんと手を繋いで歩き出すと、大きなリュックを背負った蘭ちゃんが私たちを追い越して行った。
「竜ちゃんのお弁当は、可愛いウサギさんいっぱい入れるね!」
「おう! 行って来まーす!」
繋いだ手を離して、竜ちゃんも駆け出す。
「兄ちゃん、待ってー!」
弟が追いつくまで、横断歩道の前で待ってたお兄ちゃん。
2人揃って横断歩道を渡っていく後ろ姿を見送った。