蘭(8)と竜胆(7)にホワイトデーのお返しをもらう話
ホワイトデーは学校終わる頃におウチで待ってるね♡と、小さな兄弟と約束したわけで、三月十四日現在私は、灰谷家にお邪魔して二人を待っている。というか、私を留守番にして出掛けてしまった彼らの親の代わりに彼らの世話をしないとならない。まぁ、いつもの事だ。
勝手知ったる灰谷家で、くつろぎながらそろそろ帰ってくる時間だなと時計を見上げれば、案の定彼らはご帰宅したらしい。インターホンの音が鳴って、玄関へと出迎えると兄弟二人揃ってそこに居た。
「おかえり!」
「「ただいま!!」」
「二人とも手洗いうがいして、とりあえず連絡帳ちょうだい」
ランドセル背負ったまま手洗いしに向かう彼らを見送り、連絡帳に捺す印鑑を準備して待ち構えていると、竜ちゃんが先にリビングへとやってきた。今日はお兄ちゃんに順番譲ってもらってご機嫌だ。
「ナマエ、待たせたな!」
「はい、連絡帳と音読カードちょうだい♡」
竜ちゃんが重たいランドセルを下ろすのを手伝ってあげながら、お願いする。
竜ちゃんから少し遅れて蘭ちゃんもリビングへとやってきて、ランドセルを下ろし始めた。
二人分の連絡帳と音読カードを受け取り、連絡帳を開いてみる。竜ちゃんの連絡帳には、これまた大胆で達筆な字体で宿題と明日の持ち物について書いてあるのだが、蘭ちゃんのそれは白紙。
「蘭ちゃん、連絡帳は?」
「覚えて来た」
「は?」
「今日の連絡帳、覚えてっから大丈夫」
自信満々にドヤ顔で言ってのける蘭ちゃんに開いた口が塞がらない。
いやいやいや。連絡帳って覚えてくるもんじゃなくて、書いてくるもんでしょ!
「じゃあ、今日の連絡帳なんて書くのか教えて」
「は? うっせーな。ソクバクハゲシイ女は嫌われんぞ」
「はい?」
「オマエ、なんでも教えてって言って、オモイんだよなぁ」
溜め息混じりに言ってのける蘭ちゃんに、まともに返しても埒が開かないことを悟った。きっとまたテレビか何かの影響だろう。
「んー…じゃあ、音読聞くから今日は蘭ちゃんから読んで。竜ちゃんは漢字ドリルだね」
連絡帳をしっかり書いて来た竜ちゃんは、ランドセルから宿題のドリルを取り出した。
蘭ちゃんはといえば、やはりドヤ顔のまま国語の教科書の音読を始める。
彼らの宿題に付き合い、連絡帳へ捺印して二人に返すとそれぞれランドセルへ連絡帳をしまう。
「オヤツの用意しておくから、鉛筆削って、明日の準備しておいでー!」
リビングから彼らのお部屋へと送り出し、彼らのママが準備した二人のオヤツと飲み物をリビングのテーブルへと運ぶ。
オヤツの準備が整っても、なかなか部屋から戻ってこない二人。なんかトラブルか? と少し不安になってきた頃にやっとリビングへと戻って来た。
「ナマエ、ナマエ、見てー! これ!」
ぱたぱたと小走りでやってきた竜ちゃんは、キラキラと輝くものを手にしてる。
「なにそれ、キラキラ可愛いねぇ♡」
キラキラと光を反射するビーズを、輪っか状にゴムに通したようだ。
「だろー!」
さっきの蘭ちゃんにも負けないドヤ顔で言った竜ちゃんは、私の手首へとそのビーズの輪っかを通した。
「なになに? 貸してくれるの?」
「ちげーよ。ナマエにやる。オレが作ったの。すごいだろ? オレ天才?」
ニシシっと笑う竜ちゃんは目を輝かせてそう尋ねてくる。私が必ず肯定する事を解っている目だ。
「うん。すごーい♡竜ちゃん天才♡さすが♡」
小さな頭を撫でながら竜ちゃんの欲しい言葉を返してあげると、ニンマリ笑顔。
「おい、ナマエ」
竜ちゃんとは違って落ち着いた足取りでリビングに入って来た蘭ちゃんは、これまた落ち着いた声で私を呼んだ。
「んー?」
蘭ちゃんの方へと体ごと向くと、蘭ちゃんはラッピングされた袋を私へと差し出す。
「なあに?」
「ホワイトデーのお返し。これ、やるから…もう、あんまりうるさい事言うな」
「あー…ソクバクハゲシイ女の話、もしかしてまだ続いてる?」
「ったく、ナマエはソクバクハゲシイから苦労するんだわ」
「あら、ほんと? ごめんね、蘭ちゃん♡」
将来束縛激しい女に苦労する蘭ちゃんを想像しながら、蘭ちゃんの差し出す袋を受け取った。
うーん。蘭ちゃんの方が束縛激しい男になりそうなイメージなんだけどなぁ。なんて、思いながら開けてみた袋の中身は、これもまたキラキラのビーズがついた髪ゴム。袋から取り出して、キラキラ光を反射させるそれを掌の上に置いた。
「すごい、蘭ちゃんこれ、可愛い♡」
「だろ? 俺が作ったんだからすごいに決まってんだろ」
「うん! すごい! 二人ともありがとう♡ってかさ、この二人のビーズめっちゃキラキラだね。綺麗ー!」
きっと二人の初めての手芸の為にスワロフスキーのビーズを買い与えたであろう、彼らのママ。これは、おそらく子守代ということなのだろう。