蘭(9)と竜胆(8)にサンタさん活動をする話
「ナマエちゃん。後はよろしくね♡」
その一言とCとCが並んだキーホルダーからぶら下がる鍵を私へ送ったママは、いつも通りの媚びるような語尾だけ残して行ってしまった。
まだ店の締め作業をしている黒服に声をかけると、ママから預かっていたらしい紙袋を渡される。百貨店の模様の大きな紙袋を覗いてみると、金色のリボンがついたプレゼントと、青いリボンがついたプレゼントが入っている。
「ゴールドがお兄さんだそうですよ」
私が尋ねる前に欲しい答えをくれるのは、さすがママが信頼を寄せている黒服だからこそ。そんな彼に、「ありがとう」と「お先に失礼します」を告げると、本日既に何度目かの「メリークリスマス」を向けられた。
12月24日が過ぎ、25日になって間も無い今。私が向かうのは、このママから預かったこの鍵のお宅。灰谷家である。
そーっと鍵穴に鍵を差し込みゆっくりと開錠して、ヒールを脱ぐ。脱いだヒールを玄関の端に揃えて置いて、私のバッグも玄関先に放置。店から預かって来た百貨店の紙袋だけを持って向かうのは、彼らの部屋。
まずは紙袋から青いリボンのかかったプレゼントを取り出して、紙袋は廊下の床に置く。そーっと竜ちゃんのお部屋のドアを開けると、深夜だというのに部屋の灯りが煌々とついていた。ベッドの上で丸まって布団に包まれている小さな体がとてもよく見える。こんな明るさの中でよく寝ていられるなと感心してしまう私は、そっと足音を立てぬようにベッドに近づく。
大きな靴下の形をした布製の袋を今年も枕元に置いて寝ている竜ちゃんは、すやすやと眠っている。きっとママが出勤する前に彼に渡したサンタさんの靴下をキラキラのおめめで準備したのだろう。ここにプレゼントを入れにサンタさんが来てくれるだって、わくわくしながらベッドに入ったであろう姿が目に浮かんで、にこにこしてしまった。だめだめ。私は今大事なお仕事中! 余計なことせず急がないと。
そーっと、そーっと、竜ちゃんが用意した大きな靴下型の袋にプレゼントを入れて、再び竜ちゃんの枕元にそれを置く。
起きた時どんな様子なんだろう? なんて、わくわくしてしまう気持ちを抑えて抜き足差し足で部屋のドアへと向かった。音を立てない様に気をつけて竜ちゃんのお部屋のドアを閉めたら、廊下に置いた紙袋から金色のリボンがついたプレゼントを手に取り、今度は蘭ちゃんのお部屋へ。
そーっとドアを開くと、こっちのお部屋は室内の灯りが消えていた。蘭ちゃんのベッドまで静かに静かにちかづいて、彼の枕元を覗き込む。そこには、竜ちゃんのとこにあった様な靴下の形の大きな袋の姿は無い。
とにかく蘭ちゃんの枕元にこのプレゼントを設置すれば今日の私のお仕事は完了するので、そーっとプレゼントをベッドサイドに置こうとした私の腕を、しっかりと掴んだ小さな手。
びっくりして思わず声を上げてしまいそうになるのを、慌てて息を止めて堪えた。小さいながらも人一倍力持ちな蘭ちゃんに腕を掴まれてぐいっと引っ張られた挙句に彼のベッドに倒れ込んだ私を蘭ちゃんが捕まえる。
「え? ナマエ?」
ぽやっとした表情していた蘭ちゃんがぱちりと目を瞬いて、私を呼ぶ。
「なんだよ、すげーな……サンタ」
「あ、わ……私は、ほらサンタさんとこでもバイトしてるから……まだバイト中で……」
「クリスマスプレゼントは、ナマエが欲しいってサンタにお願いしたの、俺」
「ちょっと、蘭ちゃん……どゆこと?」
「ふふ♡メリークリスマス、ナマエ。いい夢見ろよ」
起きてるのか寝ぼけてんのかいまいちわからない蘭ちゃんは、ぎゅーっと私を抱き込んであたたかな布団に包まる。まるで私は抱き枕か? って程にしがみついてくる蘭ちゃんは、ゆっくりと瞼を閉じて規則的な寝息を立て始めた。
「蘭ちゃんもいい夢見てね♡」
ここから抜け出す事で彼を起こしてしまうのは可哀想な気がするので、蘭ちゃんが起きるまでここに居ようかな。朝になって目を覚ました時、蘭ちゃんがどんな表情をするのか想像しながら、私も瞼を閉じた。