【番外編】私のオトコと灰谷兄弟の話
【蘭(小2)竜胆(小1)】
けたたましく響くインターホンの連打に恋人が眉をしかめたのを見て、彼がここに居る時にあの子達の突然の来訪は初めてだ。と、気づく。
「ちょっと、知り合いの子供に懐かれちゃって、うるさくしてごめんね」
訝しげにこちらを見た彼にインターホン連打の犯人の心当たりを説明し、慌てて玄関へと向かった。
「ナマエ、遅いんだよ」「なにしてんだよ。もー!」
鍵を開いてドアを開けた途端に腕を組んで文句を言う蘭ちゃんと、ほっぺた膨らませる竜ちゃんがそこにいて、玄関にある男物の靴に気付いたらしい蘭ちゃんが「おい、ナマエ」と怒声を上げて私の指を掴んでくいっと引っ張る。
「ん?」
蘭ちゃんが言い出しそうな事はなんとなく想像はついたが、黙ったまま首を傾げてみる。
「オマエ、俺に黙って何勝手に男連れ込んでんだよ」想像を遥かに超えた言い様に私が目を瞬いてる間に、2人はお揃いのスニーカーを脱ぎ捨てて部屋の中へと進んでゆく。その姿を追いかけてゆくと、私の部屋に来客の姿を見つけた蘭ちゃんが、強い口調で凄んだ。
「誰の女に手えだしてんだよ、おっさん!」後日、兄弟をめんどくさがった彼に私はフラれた。
【蘭(小6)竜胆(小5)】
恋人と自宅に向かう先に、玄関前に潰れたランドセルを背負って座り込んでいる竜ちゃんに嫌な予感しかない私は小さく息を呑む。
家に帰らずにここに居るなんて蘭ちゃんと喧嘩したに違いない。行き先を変えようと思案する私に気づいた彼はこちらを見て一瞬見開き、そして曇ってゆく。
「待ちくたびれちゃったよ。ね、ママ。この男だれ?」
ニッコリ笑顔をこちらに向けて私をママと呼んだ竜ちゃんの目は笑っていない。
「え? 子持ち? こんな大きい子いるなんて聞いてねーし」
竜ちゃんの言動を間に受けたらしい恋人は、青筋立てながら冷や汗浮かべて一人踵を返す。それを見た竜ちゃんはやっと曇っていた目の焦点があって、私へと軽くタックルしてくる。手加減されても、もう体を支えられる事はできなくて、路上に尻餅ついた私に竜ちゃんが乗り上げてきて言った。
「やめなよあんな男。俺が大人になるまで待っててよ」
まっすぐ見てくる竜ちゃんの視線から逃げるように目線を逸らすと、見慣れた姿が見えてこちらに駆け寄る。
「なーに、やってんだよ。竜胆。もう怒ってねーから、兄ちゃんと一緒に帰ろ」
蘭ちゃんが竜ちゃんを引き上げようとしたのだけど、なかなか竜ちゃんは離れてくれなかった。
【年少でてきたら】
蘭ちゃんと竜ちゃんが少年院で更生している間に、私の名字が変わった。
正直なところ知り合って一年程度のスピード婚だったのは、鬼の居ぬ間になんとやら。私だって人並みの幸せに興味があるにもかかわらず、その邪魔ばかりする兄弟が離れているうちに! と勝負に出たのだ。結果、私の名字は変わり人並みなのか解らないが幸せではある。そんな私の名字が変わった事を久々会う2人に面と向かって口頭で伝えた途端
毬栗頭の2人の眉間に皺。
「ナマエ、なに勝手に嫁に行ってんの?」
「誰の許可得てんだ。ああ?」
サラッと冷たい目でこちらを見遣る蘭ちゃんと、勢いよく凄む竜ちゃんに、少年院のお友達の影響を読み取った私は、髪の毛の長かった2人を思い出して途方にくれる。
「良い度胸じゃねーか。行くぞ、ナマエ」ポキポキと指の関節を鳴らす蘭ちゃんと、メラメラとした目をして勢いよく頷く竜ちゃんに冷や汗が止まらないままま「どこへ?」とだけ尋ねた。
「殴り込み」
「はやくテメェん家連れてけよ、奥さん」
「また逃げ出す軟弱な野郎だったら容赦しねーかんな」
楽しそうに笑い出した2人のが腕捲りをし始めて服から覗く蜘蛛の足にもう頭痛しか起こらない。
【蘭(21)竜胆(20)】
隣に座る蘭ちゃんが、柄にも無くグズグズ鼻を鳴らしてぼろぼろ泣く私の肩を抱き、その大きな掌はぽんぽんとあやすように私の二の腕のあたりを軽く叩いてくる。
「だから、俺が大人になるまで待ってるって言ったじゃん」
蘭ちゃんとは反対側に座る竜ちゃんが、片手でガシガシと頭をかきながら首を傾げて私のぼろぼろの泣き顔を覗いてきた。
「まぁ、竜胆がハタチになったとこで、ちょうど離婚してくるとかマジウケるんだけど」
はははーっと笑い飛ばす蘭ちゃんだが、私は全然笑えない。
だって、ほんの数時間前に外に女と子供を作った男との離婚届けを出してきたんだもの。
「いやー。流石に一回り以上年上のバツイチはないわ」
「だなぁ♡」
私に酷い物言いをするものの、肩を抱く蘭ちゃんの手つきは優しい。涙を拭ってきたねー顔と笑う竜ちゃんの目も穏やかだ。
「ったく、ナマエは昔から男見る目はねーんだから。俺らに任せろ〜?」
「任されたいなら、特政服脱いできて!」
飲み屋のソファ席で特攻服姿の2人に囲まれたぼろぼろの私を見てマスターが苦笑し、竜ちゃんのハタチと私の離婚を祝って一杯づつおごってくれた。