【番外編】大人になっても灰谷兄弟の世話をする話
※梵天軸です
「ほら1時間以内に来たじゃん。俺の勝ち!」
「また竜胆の勝ちだなー」
誇らしげに鼻を鳴らして笑う竜ちゃんと、あーあ。と口にしながらも全く悔し気もないのはわざと負けてやってるお兄ちゃん。
それでも兄は所狭しと空のグラスが並ぶテーブルに万札を置く。
「何してんのよ。あなたたち」
ストライプのスーツ姿の2人の言動から、賭けのネタにされていたであろう事は解った。
この兄弟の賭けの材料にされる事なんて、今日が初めてではない。
私が彼らに聞きたいのは、こんなとこでなにしてんのか? という事だ。
私にはガヤガヤ煩い大衆居酒屋の狭いテーブル席から長い足はみ出させて、安酒飲んで悪酔いしてるようにしか見えないんだけど。
彼らの着ているスーツの布地の素材は、この店にはそぐわないし、この2人はこの店では悪目立ちしすぎている。
どっからどう見ても堅気じゃないだから、もうちょっと店選びなさいよ。店なんて選びたい放題できるほどお金持ってるくせに、よりにもよってなんでこんな所にいるのよ。と、言いたい事は山ほどあるのだが、この2人をまともに相手したって話になんてならない事位嫌っていうほど解ってる。
「蘭ちゃん、おさけ飲んでるー♡」
「俺は今兄貴に連勝中。まぁ、ここ座れよ」
まぁ座れと、弟に腕を掴まれて無理矢理隣に座らされた。
「はい、どーぞ♡」
向いの席に座っている兄は、グラスに焼酎の瓶からどばどばーっと雑に焼酎だけ注いでこちらに差し出してくる。
それを受け取る事を拒否して手を出さずに居たら、私の前にコトンとグラスを置いた。
「もう少しまともな飲み方できないの?」
「なにそれー。まともとか、わかんなーい!」
三十路過ぎてる癖に頬を目一杯膨らませた派手色ウルフの男がかわいこぶったって可愛くなんてなんでもないのだが、膨らむ竜ちゃんほっぺたは昔と変わらず今でも柔らかい。
腕に絡みついてきて頬を寄せてくる弟のとても酒臭い顔を押しやりながらため息を一つ。
「甘えたいなら、そういう女の子のいるお店で飲みなさい」
ピシャリと言い放つと、弟は頬を膨らませて言う。
「お金払って甘えたくねー気分なの」
「だからって、梵天の幹部様がこんなとこで2人で悪酔いしないでよ。もう」
図体だけでかい脳内ちびっ子の竜ちゃんをなんとかしてほしくて兄を見るが、彼は自分の弟を微笑ましく見ながら笑っているだけ。
そして私を見て言った。
「なんも見返りもなく俺らの面倒見てくれる人間なんて、もうアンタくらいなもんよ?」
だから呼んだんだ。と、小さな声で続けた蘭ちゃんに少年院から出所してきたばかりの坊主頭の少年が重なる。
「もー! ふたりまとめてお家まで送って行ってあげるから、蘭ちゃんその一万円札でお会計して」
「はーい♡」
ご機嫌良くお返事した蘭ちゃんは、ヒラヒラと長い腕を振って店員さんを呼ぶ。
兄がお会計している間に、大きくなった弟を引っ張って立たせ、雪崩れ込んでくる体を目一杯の力で支えても、重たくて支えきれずに崩れてしまう。椅子に逆戻りしてしまった私の上に竜ちゃんが落ちてくる。
「竜ちゃん、いいこだから自分で歩こうねぇ〜♡」
皺ができてしまったスーツの背中をあやすようにしてぽんぽんと叩くと、竜ちゃんは良い子に立ち上がる。褒めて伸びる子なのも相変わらずだ。
お会計済ませてくれた上機嫌に私の手を引く兄とべたべたくっついてくる弟に挟まれて、細い通路を抜けて外に出る。
夜中でも明るい歌舞伎町も相変わらず、ごみごみしていて人が多くて居心地が悪い。
区役所通りに停まっていたタクシーに乗り込み、後部座席で酒臭く体のでかい2人に挟まれてとても不快だ。両肩にのしかかってくる頭がとても重たいけど心地よい。
弟の方から行くか。と、運転手さんに行き先を告げて竜ちゃんを受け取ってくれるあの子のスマホに電話を。
タクシー乗せて送って行く事を告げると、いつも礼儀正しい彼女は何度もお礼を言ってきた。続いて、蘭ちゃんを受け取ってくれるあの子のスマホにも電話を。
「蘭ってば、またママ呼んだんですか? いつもご迷惑おかけしてすみません」
蘭ちゃんを受け取ってくれる彼女も、いつもの謝罪の言葉を口にする。
「それで、私重たい2人連れてお腹すいちゃったから、あなたのかき揚げ丼食べたいんだけど」
そう伝えると彼女はクスクスと笑う。
「油、あっためて待ってるんで、竜胆くん家過ぎたら教えてください」
蘭を待つ彼女の料理の腕も、相変わらずである。