竜胆と一緒に蘭8歳の誕生日を祝う話
「ナマエ!にーちゃんにはナイショだからな!」
まだピカピカのランドセルを背負って仁i王i立ちでそう言い放つ竜ちゃんは、やっと学i校でひらがなを習い始めた小一男子だ。
学校帰りにランドセルを背負ったまま、我が家へやって来た竜ちゃんは、ウチのリビングにランドセルの中身を引っ張り出してぶち撒けている。
なにやら珍しくとても一生懸命なので、部屋が散らかるのには目を閉じて竜ちゃんの好きなようにさせている。
ランドセルから筆箱を得意げに取り出して、テーブルへと置く。
そして竜ちゃんはトコトコと私のところまでやってきて、言った。
「ナマエ、紙ちょーだい。」
「紙?」
「にいちゃんにバースデーカードつくるの。」
竜ちゃんの目的を聞いて、目を瞬く。そうか、蘭ちゃんのお誕生日は来週だ。
「ちょっと待ってね。」
前に職場を離れる人が居て、送別の寄せ書きを作った時に使った色画用紙が残っていたはず。
記憶をたどりながら、色画用紙を発見して竜ちゃんへと渡すと、満面の笑みでありがとうと言った。
ランドセルから撒き散らしたノートや教科書を飛び越えて、テーブルへと色画用紙を運ぶ竜ちゃん。
「ナマエ、はさみかして?のりある?」
にいちゃんのバースデーカード工作を始めた竜ちゃんに、小間使いのように使われながら、様々な道具を提供していると、竜ちゃん特製の バースデーカードが完成したようだ。
みてみて!と、自慢気に差し出してくれたそれは、カラフルなお花の切り絵がたくさん飾られた力作だった。
「オレも、にいちゃんも、お花なんだぜ。ナマエ知ってっかー?」
「そうだね。竜ちゃん達のお名前は綺i麗お花ね。」
「なんだよ、ナマエのくせに知ってんのかぁ。」
頬を膨らませてむくれる姿も可愛い竜ちゃんの書いたメッセージ。
「おめでとう」の、「とう」の2文字が、鏡文字になって反転している。
「竜ちゃん、『と』と『う』が反対になってるよ。」
彼の力作の誤字を指差して示したのだが、竜ちゃんは私の指先を凝視して今度は目に大粒の涙を溜めてこちらを見た。
「オレ、間違えてる。サイアクだー。」
この世の終わりでも来るかという程に、項垂れて嘆き悲しむ竜ちゃん。
「えんぴつだから、消しゴムで消せば大丈夫だよ?」
小さく丸まった竜ちゃんの背中を撫でながら励まして提案をするが、彼は首を左右に大きく振ってみせる。
「オレはにいちゃんにおめでとうできない。」
ぐずぐずと鼻を啜りながらそう言って、床に丸くなったまま動いてくれない竜ちゃんに、彼の力作の訂正はもう諦めようと心に決めた。
蘭ちゃんなら竜ちゃんの頑張りを組んで普通におめでとうと読めるはずだもの。
「蘭ちゃんのバースデーカード、綺麗なお花の袋があったからそれに入れるね。」
竜ちゃんの力作を、お花の柄のついた袋にラッピングして、床で丸くなって転がる竜ちゃんの目の前に差し出す。
すると竜ちゃんはそれを受け取って、目を輝かせた。
「サンキュ!」
コロコロと表情を変える竜ちゃんの目にはもう涙などなく、ランドセルの中へと蘭ちゃんへのプレゼントをしまった。
そして、リビングに撒き散らしたノートや教科書もランドセルへと無造作にしまっていくものだから、蘭ちゃんへのプレゼントが折れ曲がってぐちゃぐちゃにならないかがとても心配になる。
そんな私の心配をよそに筆箱までランドセルへとしまいこんだ竜ちゃんは意気揚々とランドセル背負る。
「ナマエ、またなー!にいちゃんの誕生日はオマエも絶対来いよ!」
それだけ言い残して、大きなランドセルは玄関へと消えていった。
「ナマエー!迎えに来たぞー!」
インターホンが響くのと同時に、外から子供の大きな叫び声が聞こえた。
ドアを開けてあげると、大きなランドセルを背負った竜ちゃんが居て、早く早くと急かす。
「すぐ準備するから待っててー。」
竜ちゃんにそう言って、蘭ちゃんにお誕生日プレゼントと強請られたゲームソフトをラッピングした袋と、竜ちゃんの好きなお菓子の詰め合わせを隠し持ってお迎えに来てくれた竜ちゃんの待つ玄関へと急いだ。
「お待たせ。」
玄関で良い子に待っててくれていた竜ちゃんに声をかける。
「いーよ、オンナは時間がかかるんダカンナ!」
何故かドヤ顔で意味不明な事を言ってくる竜ちゃんは、どこかで見聞きしたであろうセリフを言えてご満悦の様子だ。
外に出て道を歩き出すと、私と手を繋いで歩いてくれる竜ちゃん。
「兄ちゃんはなァ、8歳になったからもうオトナなんだって。」
「なにそれ〜蘭ちゃんが言ったの?」
「そうだよ!ナマエ、おとなのくせにしらねぇーの?だっせーな。」
「8歳が大人なんて、全然知らなーい♡」
竜ちゃんの手を引いて、灰谷家へとやってきた。
「ただいま!ナマエ連れてきたぞー!」
「お邪魔しまーす。」
玄関で靴を脱いで揃えていたら、竜ちゃん達の母親が顔を覗かせた。
「ナマエ、準備手伝って〜?」
人使いの荒い彼女にそう言われて、リビングでパーティーの準備を手伝ってあげていると、今日の主役の蘭ちゃんが顔を覗かせる。
「竜胆も宿題終わったからケーキ食べれるー。」
蘭ちゃんがそう言って、竜ちゃんもお兄ちゃんに続いてリビングへとやって来た。
ケーキと引き換えに宿題をこなしてきたらしい2人は、テーブルの上に鎮座するバースデーケーキを囲む。
「火つけるから危ないよ。」
2人にそう告げて、8本立った蝋燭へと一つ一つ火をつけた。
竜ちゃんとママと一緒にお誕生日の歌を歌うと、蘭ちゃんと一緒に竜ちゃんも蝋燭を吹いて吹き消した。
「竜胆、これ俺のケーキ。」
弟頭をぽんっと軽くぶつ兄。気持ちはわかるけど、暴力は良くない。
いつもなら喧嘩になりそうなとこだけど、喧嘩には発展しなかったのは蘭ちゃんがお兄さんになったからかそれとも2人の意識がケーキに集中しているからか。
人使いが荒く料理が好きではないママの代わりにケーキを切ってあげて、仲良くダイニングテーブルに並んで座る兄弟の前にケーキを並べた。
蘭ちゃんのお名前のついたバースデープレートを兄のケーキにのせてあげると、弟すかさず「にーちゃんずりー!」と、プンスカするので、お兄ちゃんはケーキの上にのったいちごを弟のケーキに分けてあげる。
大喜びの竜ちゃんと満足そうな蘭ちゃんだけと、
蘭ちゃんのケーキの上にいちごがのっていないのは寂しく見えたので、私のいちごを蘭ちゃんにあげた。
「ナマエ、まさかプレゼントこのいちごで済ませるつもりじゃねーだろうな?」
疑いの目を向けてくる今日の主役に、私はひらひらと手を振って否定した。
「ちゃーんとプレゼント用意してあるよ。ケーキ食べたらあげるね。」
「オレもにーちゃんにプレゼントあるんだカンナ!」
「……竜胆が?」
弟からのサプライズに、ケーキを食べながらもポカンと呆けた顔をする兄が珍しい。
「オレもケーキ食べたらあげるね!」
私の真似っこして言う弟は、大きな口を開けて真っ赤ないちごをひとくちで食べた。
ケーキを食べ終わってプレゼントを蘭ちゃんへ渡す。
私からのと弟からのと両方受け取って、弟からプレゼントされたお花のラッピングを覗く蘭ちゃん。
弟からのお誕生日プレゼントがとても気になる様子だ。
早速弟のプレゼントを取り出すと、何度も目を瞬いて竜ちゃん特製のバースデーカードを見つめた。
お花の切り絵がたくさん貼られた画用紙が二つ折りになっているそれを開くと、おたんじょうびおめでとうの文字。自分でひらがなで書いたお祝いの文字の最後のふたつが鏡文字になって反転されていたけれど、蘭ちゃんは弟の文字をちゃんと読めたようでにっこにこ笑顔でさんきゅーナァと言いながら、竜ちゃんの頭をわしわしと撫でた。
とっても嬉しそうな兄弟と、私がプレゼントしたゲームソフトを使ってのお菓子の詰め合わせ争奪戦は夜遅くまで続いた。