蘭(10)と竜胆(9)にお年玉をあげる話
正月は静かだった。
冬休みだからとウチに入り浸っていた小さなギャング共も年末年始は家族で旅行に行くと言っていたからゆっくり過ごした数日。子守りを押し付けられる事もなく、仕事も休みだったので、だらだらゆっくりと過ごした私の幸せの時間。それにも、ついに終わりの鐘の音が鳴り響いた。
ウチのインターホンがけたたましく連打されたのだ。
近所迷惑でしかないそれを、何度注意しても聞かない彼らのおでましである。
彼らが夢中なゲームの画面に現れるキャラクターの描かれたポチ袋を、私は今年もしっかり用意した。
これら二つを手にして玄関へと向かう。
「もう……一回押せば聞こえるよー?」
玄関の鍵を開けてゆっくりとドアを開くと、にっこり笑顔の少年達。
数日見なかっただけなのに、その間に背が伸びたんじゃないか?っていう蘭ちゃんと、数日の間にそこにあったはずの歯が無くなっている竜ちゃんが居た。
「あら、竜ちゃん。そこの歯抜けたの?」
「うん!こっちもグラグラしてるー」
大口開けて歯が抜けたところと、抜けそうな歯のところを見せてくれた彼はニシシとまた笑ってから私の手元を指差す。
「ナマエ、それ、お年玉!?」
「そうお年玉♡」
私が答えた途端に「お、やりぃ♡」と言いながら伸ばしてくる竜ちゃんの手をぺちりと叩く。
「お行儀悪い子にはあげないよー?」
「竜胆と違ってとってもお行儀良い蘭ちゃんは、すげー良い子だからくれんだろ?」
「はぁ?なにが良い子だよ。にーちゃんもピンポン連打してたじゃん」
「そんなみえすいたウソつくなってくそりんど」
「ん、だよ!くそあにき!」
「喧嘩するなら帰って!お年玉もあげなーい」
「は?ちょ、待てよナマエじょーだんだって!」
「ナマエ!オレのお年玉」
今にも殴り合いの喧嘩でも勃発しそうにギラギラと睨み合っていた二人が、慌てふためいてこちらを見る。そのあまりにも必死な様子がおかしくなっちゃった。
「良い子にするなら上がっていいよ」
そう言い置いて玄関のドアを開け放つ。もちろんお年玉の入ったポチ袋はまだあげない。
「おじゃまします」
「お……じゃま、します!」
良い子と言い張る蘭ちゃんと、蘭ちゃんの真似をする竜ちゃんが二人揃って玄関へと入った。脱いだ靴をしっかりと揃えてあがる二人は、さっきとは別人のようにお行儀良く足音を立てず静かに部屋の中へと進んでゆく。
やれ気にさえなればお行儀良くできるのに、わざとヤンチャな真似ばかりする二人は着ていた上着を脱いで綺麗に畳んだ横にちょこんとまたお行儀良く座っている。彼らの目的がお年玉であるだけ、現金なものだなと感心してしまうような二人の言動に思わず笑いが込み上げてきちゃった。
「蘭ちゃん、竜ちゃん。あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」
きっと彼らのお家でママ達に練習させられてきたかのようなご挨拶を揃えて口にした二人へと、ひとつづつポチ袋を差し出した。
「はい、お年玉。私からもらったんだから、大事にしてよ?」
「もち!さんきゅー!ナマエ」
「だから、そーいうのが行儀悪いってババアに言われてんじゃん」
渡した途端に袋の中を覗く竜ちゃんの頭を蘭ちゃんが小突いて、反動でズレたメガネのフレームを竜ちゃんがかけ直す。
「ババア見てないじゃん」
「ババアが見てなくてもよせよナマエが見てる」
「ナマエはババアに告げ口しないじゃん」
「そーいう問題じゃねーんだよ、オマエはいくつになってもガキ臭くてはずかしーな」
「にーちゃんこそ、最近ババアのいねーとこだと口うるさくてはずかしーじゃん」
「ね♡二人とも、栗きんとん食べる?」
再び兄弟喧嘩が始まった二人に声をかければ「「食べる!」」と二人揃って声がハモる仲良し兄弟は、少しだけバツが悪そうに眉を顰めるタイミングさえもおんなじだ。
「美味しいの買ったんだけど、甘くて飽きちゃってさー。一人じゃ食べきれないから手伝ってほしいんだよね♡」
私がそう言って、キッチンの冷蔵庫へと向かい、年末に買ってきてお正月につまんでしまいこんでいた栗きんとんを二つお揃いのお皿へよそってくると、二人お行儀良くちょこんと並んで座っていた二人が栗きんとんを待っていた。
二人の前へそれぞれお皿と箸を置いてやる間も、静かに待ってる蘭ちゃんを横目に見上げながら真似っこしている竜ちゃんが可愛い。
「どーぞ。召し上がれ」
「「いただきます!」」
その一言で始まる兄弟レースは、いつもよりもだいぶお行儀良く始まる事となる。お年玉もらえたもの、ね。